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ナール王物語 ~最強チートの合理的殺戮~  作者: 越智 翔
第四章「エレオノーラ」
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第四十七話

 思わず立ち上がって石の壁を叩く。だが、そんな非合理的行動をとったところで、何も状況は変わらない。今度こそ罠の発動が完了したと理解した俺は、念のため、壁をぶち抜けないか、試してみた。だが、黒霧でも壁を貫くことはできなかったし、雷の指輪を向けても、紫電が走るばかりでどうにもならない。

 とすると、あとは目の前の狭い通路を走って、なんとか二人と合流するしかない。どこに出られるかもわからないのだが、他に手がない。


 変に注目されたくない、噂になりたくないがゆえに遺跡の探索を引き受けたが、そんなくだらないことで二人を失うかもしれないとは。胸中に後悔の念が満ちてきた。だが、それは今、考えることではない。

 まず、荷物をまさぐって松明を探した。手探りで火打石を擦り合わせ、どうにか着火する。随分と時間がかかってしまった気がして、焦りばかりが募った。ここから全力で……いや、余力を残して走らなくては。第一、俺の班の地図はサビハが持っている。俺には、どこにどんな罠があるかもわからないのだ。


 狭い通路はそう長くなかった。少しすると、普通の広さの廊下に出たが、左右にずっと道が続いていた。どっちに進めばいいのか……


「ん?」


 右手の廊下に、落ちているものがある。駆け寄って拾い上げた。黒い小さな布の塊。これは、匂い袋だ。貴婦人の持ち物だが、このデザインと色合いからすると。


「エレオノーラが? この辺にいる?」


 彼女捜索は、今は優先順位が低いのだが、しかし、見つけてしまった以上は、そちらに進まざるを得ない。

 それで周囲を警戒しながら、といっても俺に罠を見分ける能力などないので形ばかりだが、周囲に目配りしながら歩いた。それから間もなく、右手に暗い口を開けた小部屋が目についた。その奥で、黒い影が蠢く。


「誰だ」


 俺が身構えると、そこから姿を現したのは、果たしてエレオノーラだった。小部屋に身を潜めて、骸骨どもに見つけられないようにしていたのだろうか。ただ、その表情に脅えのようなものは見えないが。

 小さな違和感をおぼえた。だが、それを言語化することができない。


「勝手なことを……今は余裕がない。生き延び長ければついてこい」


 俺がそう言うと、彼女は黙って頷いた。

 通路は曲がりくねっていたが、分岐らしい分岐はなかった。ほぼ一直線に進むと、何かを砕く、軽快な音が響いてくるのが遠くに聞こえた。これは骨を打ち砕いているのか? だとすると、さっきのヴァン族の連中が発動させた罠のことが思い浮かぶ。二人に合流できるのはまだ先でも、俺達を追ってきた奴らの背後になら出られたのかもしれない。自然、歩調は早まった。

 だが、角を曲がって小部屋に辿り着いた時、鉢合わせたのは、まったく想定していない人物だった。


「えっ、やっ、ヤラン、ゴッチ?」

「ふむ?」


 彼は、爬虫類を思わせる細い眼で俺を見据えた。


「一人、いや、その小娘は見つけたのか」

「あ、ああ」


 俺は急いで思考を纏める。

 要するに、彼ら四人は、今、部屋の隅に追いやられている骸骨どもと戦っていた。決着がついたばかりだろう。そして、そこに俺がなぜか二人の仲間を置き去りにしてやってきた。

 一見して、トラブルが起きているとわかる状況だ。まだ、俺達が仕事を放り出して逃げ出そうとしていたことは、彼らには伝わっていないはずなのだ。そして、現に俺は二人の仲間を救い出す必要に迫られている。


「済まない。シルヴィアとサビハが、例の……多分、後追いでやってきた連中に襲われている。だが、罠が動いたらしくて、俺一人だけ壁の向こうに放り出されてしまったんだ。助け出したいんだが、地図は持ってるか」


 考えてみれば、これは幸運だ。俺は現在位置を見失っている。しかし、彼らはそうではない。どんな罠があったか、どの辺りから逃げてきたのか、俺が情報提供すれば、彼らならおおよその位置関係を把握できるに違いない。

 だが、慌てる俺を目にする彼らには、あくまで動きがなかった。


「ああ、大金を貰う約束でここに来たのに、役立たずなのは申し訳なかった。謝礼はいらない。でもそれより、二人の仲間が危ないんだ。手を貸してくれないか」


 すると、ヤランゴッチは黙って手招きした。それで俺は、無防備に近づいていったのだが……。


「危ない」


 抑揚のない、少女の声。それにハッとさせられた。反射的に後ろに飛び退いた。さっきまで俺の立っていたところには、銀色の刃が繰りだされていたのだ。

 女悪魔がくれた鎧があったとしても、エレオノーラが教えてくれなければ、俺は死ぬところだった。


「どういうつもりだ」


 そう言いながら、俺は黒霧を構え直した。その後ろにエレオノーラが縋りつく。ヤランゴッチはせせら笑った。


「ホジャインの命令で、お前らの身辺を軽く探ってみたんだがな」

「ふん」

「随分と金持ちみたいだな? それを買ったばかりの女奴隷に預けて探索とは、頭が随分とおめでたいらしいが」


 すると、こいつらはどこまで知っている? ホジャインは、俺達の金を目当てに……いや、だとしたら、ヤランゴッチにそのことを前もって言っておかない理由がない。


「あれだけの財宝を持ち歩いているのなら、こんな仕事をする理由もないな? ということは、お前達は訳あり……ゾナマからやってきた連中が、ここまで追いかけてくるぐらいだ。よっぽど後ろ暗いことがあったんだろうな」


 わかった。ヤランゴッチは、つまり、俺が金持ちだということ、訳ありらしいという程度の理解しかない。

 と同時に、ホジャインはそれ以上の情報を得ている可能性が高い。仮に彼が、何かで俺達が大金を持ち歩いていることを知って、そのために罠を張ったのだとしたら? そのことを部下達に共有しておかないのは、却ってリスクとなる。なぜなら、持ち逃げされる危険性が高まるからだ。裏切りを想定せず、その辺を何も伝えずに俺達の宿を調べさせるなんて、そんな迂闊な真似をするのはおかしい。


「まぁ、だいたいその通りだ」


 しかし、問題はこの状況だ。エレオノーラが戦力になるとは思えない。武器も持っていないのだから。そうなると、俺一人で四人を相手取ることになる。

 セト村とはわけが違う。ド素人の村人が連携もなく襲いかかってきているのではない。一対一なら、こいつらの誰にも負けないとしても、四人に囲まれたのでは。


「考え方を変えてみないか?」

「ほう?」

「俺達が運んでいる金貨がな……少し重すぎるんだ」


 俺は知恵を絞った。


「今、シルヴィアとサビハがヴァン族の連中に襲われている。本当だ。もし、手を貸して二人を助けてくれるのなら、運んできた金貨の半分はお前らにやる。これも本当だ」

「なるほど」

「仮にこの遺跡の中で、俺達三人を殺しても、宿にはまだグリーダがいる。まさか、街の中で人殺しに手を染めてまで、あの金を盗み出すつもりか? さすがにそれは、まずいだろう」


 大方、彼女が乗船券を買いに出た隙をついて、こいつらが宿に忍び込んだのだろう。そして、大金を目にした。だが、そこで盗み出すのに成功していれば、こんなことはしない。この点からも、ホジャインが金目当てではないらしいことはわかる。もし共犯であれば、彼らはその機会を逃さず、その場で盗みを働いて、ホジャインの屋敷のどこかにそれを隠したはずだからだ。大金の有無を確認しつつ、何もせずに引き返したのは、盗難にあったことに気付いた俺達が騒ぎ立てる可能性を意識したから。先に財宝の持ち主を始末してから、奪い取ろうと考えたからなのだ。


「なかなか悪くない提案だな」

「だろ?」

「だが、却下だ」


 獰猛な笑みを口元に浮かべつつ、ヤランゴッチは曲刀を構え直した。


「なぜだ?」

「わざわざ問い質す必要があるのか? 荷物番のあの女奴隷、自分が何を見張っているかを知ったら、どうするかな」


 思わず舌打ちをする。グリーダが、あの金を持ち逃げする可能性は低い。絶対にないとは言わないが、やるのなら、とっくにもうやっている。それは彼女が、ただのポッと出の奴隷ではなく、俺とシルヴィアの顔見知りで、買い取られることで救われた立場だからだ。ただ、そのことを俺は説明できない。勇者に追われる勇者としての立場が、その話にはくっついてくる。


「小銭でも与えて追い払えば、万事片付くんだ。それをわざわざ半額にまで負けてやる道理はないだろう?」

「思い通りにはならないぞ」

「それはこれから確かめるさ」


 さて、どうしよう?

 奇襲を浴びせるか? だが、ヤランゴッチはニタニタ笑ってはいるものの、一切油断などしていない。それは他の三人も同じこと。唯一、不意を突けるとすれば、雷の指輪を使った先制攻撃だ。だが、今のレベルでは一時的に相手を無力化できるとしても、それで片付くのは一人くらいだろう。残り三人が全力で襲いかかってきたら……やっぱり、どう計算しても、勝ち筋が見えない。

 考えても仕方がない。もう猶予がない。


「さ、もういいか……やれ!」


 ヤランゴッチが号令する。同時に、電撃を放とうと俺が身構えたその瞬間、異変が起きた。


「ガハッ!?」


 ヤランゴッチの腹から刃先がボロボロの錆びた剣が生えてきたのだ。見ると、ついさっき彼に討伐され、部屋の隅に追いやられていたはずの骸骨が、ちょうど今、甦ったばかりらしい。

 今だ。俺は一気に踏み込み、黒霧を滑らせた。それだけで、ヤランゴッチの首は半ば断ち切れ、そのまま背後に仰け反って、背中を刺す骸骨の方へと倒れこんでいった。


「野郎!?」


 だが、目を白黒させて反撃に転じようとする男達にも、スケルトンは襲いかかっていた。剣は手元になくとも、その手足に背後から纏わりついて、動きを封じている。その一瞬の硬直が命取りになった。俺の剣の切っ先が、そいつの喉笛を食い破った。


「ち、ちくしょう! がああ!」


 悲鳴が耳につく。だが、容赦はしない。俺の命乞いを無視した奴らだ。せっかく奴らが先に骸骨どもの標的になったのなら、この機会を逃すことはしない。


「ヒッ、ヒェッ」


 最後の一人が、逃げ出そうと踵を返す。だが、白骨に足を取られて転倒し、そこに数本の錆びた剣が刺しこまれる。

 ヤランゴッチの班は全員片付けた。だが、どうする? この小部屋の向こうにも通路は続いているが、その向こう側は半ば、スケルトンに道を塞がれている。となれば引き返すしか……。


「こっち」


 だが、エレオノーラが俺の手を引くと、大胆にもスケルトンの間を飛び越えて走り出した。


「お、おい!」

「急いで。後ろは行き止まり」


 そういうことか。納得が俺の足を動かした。


「走るぞ!」


 俺はエレオノーラの手を取って、先に立って通路の向こうへと駆け出していった。

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― 新着の感想 ―
>  そういうことか。納得が俺の足を動かした。 どういうことダッチ。 次回明らかになるダッチか。 ヤランゴッチの発言の語尾にダッチをつけるべきダッチ
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