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ナール王物語 ~最強チートの合理的殺戮~  作者: 越智 翔
第四章「エレオノーラ」
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第四十五話

「いつからだ? いつから姿が」

「そんなこと言われたってっ……チッ、あたしとしたことが」

「落ち着け!」


 シルヴィアが一喝する。確かに、こういう時には慌てないのが一番だ。さすがは元軍人、そういうところは俺よりしっかりしている。


「多分、遺跡の奥に一人で向かったんだろう。追い返されるくらいなら、と」

「馬鹿な、死ぬだけなのに」

「兄と共に死ぬために来たのなら、別におかしなことでもない。貴族というのは、命より名誉を重んじることもある」

「てめぇが言うと説得力あるな」


 サビハは皮肉ったが、シルヴィアは、今はそれどころではないと考えて、それを無視した。


「あの若さだが、恐らくは借財で首が回らないとか、そんな事情があるのではないか? そうなると、身売り以外に道がなくなる。だが」


 何があったかはわからない。だが、実家を立て直すために借財をしてまで頑張ったが、うまくいかなかったとすれば? 兄は一人、命を失う覚悟を決めて、一攫千金の夢に挑んだ。だが、それが失敗に終わった時点で、残された妹には、大人しく借金の質ということで「高貴な身分の娘」というブランド品として売り飛ばされるか……さもなくば、世界そのものを拒絶する選択をするか、どちらかしかなかったのではないか。


「まぁ、頭の中がどうだっていい。それより、どうするんだ」

「うむ……」


 シルヴィアは、答えを出せないようだった。名家の娘として、同じ境遇に置かれたなら、自分だって死を選ぶだろうから。


「後回しだ」


 だから、俺が合理的な答えを差し出す。


「俺達は、エレオノーラの兄カールの捜索は請け合った。だが、本人がここまできた件については、事前の約束にない。しかも、俺達に無断で奥に向かったんだとしたら、それこそ責任なんて、取りようがない」

「だが、このままでは死なせることになる」

「助けられるなら助けよう。だが、今、無理をして奥に向かうべきかといえば、違う。いいか、危険な遺跡に挑んでいるときに、彼女は勝手に俺達の行動に割り込んできて、勝手にいなくなったんだ。助けたいのはやまやまでも、俺達が命を投げ出すだけの理由になるか?」


 正論だ。俺達は不本意ながらも、ホジャインの依頼を受けた冒険者という立場で、この遺跡の探索にやってきた。そのついででエレオノーラの依頼も請け負った。だが、今回の彼女の暴走の尻拭いのために、俺達が命の危険を冒すべきだろうか?


「話は済んだか」


 後ろからシェリクが声をかけてきた。


「ああ」

「ならいい。それより、後からやってきた連中の目的がなんなのかってとこが問題だ。いいか?」


 指を一本突き立てて、彼は俺達に言った。


「ただの遺跡の探索が目的ならいい。だが、それだけじゃなかったら? 俺達がここで探索していることを知って、殺しにきた連中かもわからない」


 シルヴィアが疑問を口にした。


「今の私達を殺して、どれほど儲けられるというんだ。まだ財宝らしい財宝も手に入れていないのに」


 シェリクは頷いた。


「金だけが人を殺す動機でもないだろ? というか、俺達だって一年中、遺跡の中で人間同士、殺し合ってるわけじゃない。あくまで殺すと得する場合にやるだけさ。でも、お互い探索を目的にしているっていうなら、いくらなんでもこんな時間には来ない。つまり、恨みがあって」


 俺達は目を見合わせた。恨み。あり得なくはない。ヴァン族を山ほど殺したのだから。


「ああ、つまり、俺が言いたいのはな」


 だが、シェリクは異なる可能性を口にした。


「お前らが連れていたさっきの女、なんつった」

「エレオノーラ」

「そう、エレオノーラってのが、もしかして遺跡の奥に一人で消えたっつうのは」


 兄を追ってきたのではなく、何かから追われていた?

 新たな可能性の浮上に、内心の混乱は高まるばかりだった。


「まだわかんねぇけどな。気をつけるに越したこたぁねぇ」

「要するに、俺達が勝手に盾にされそうになってるってことか」


 要するに、エレオノーラはどこかで何かをしでかして、今は追われる身の上、という可能性がある。だからといって俺達を護衛の名目で雇おうとすれば、もっと高額なお金を請求される。それは支払えない。だから、兄を探しにきたという口実でここまで逃げ込んできた。この遺跡の中なら無法地帯だから、勝手に殺し合ってくれる。わざと食事も摂らず、死を覚悟している健気な少女を演じていたとすれば?

 無論、そんな作戦などはなく、本当に兄の遺体を引き取りにきた可能性もある。そこで追手の存在を知ったがゆえに、むしろ俺達を巻き込むまいとして、一人離脱を選んだ……どうせ兄の亡骸の横で死ぬつもりだったとすれば、それはそれで整合性が取れる。真相はまだ、わからない。


「その可能性もあるが、もしかすると逆に、今回、後追いで来た連中とグルって可能性もあるだろうな」

「引き返すという選択肢はないのか」


 シルヴィアの慎重論に、シェリクはゆっくりと首を横に振った。


「そうはいかねぇよ。お前ら、いったいいくら日当もらってんだ?」


 断るつもりで吊り上げた依頼料が、今となって俺達を縛っていた。ここで、金なんかいらん、返してくれ、ということはできるのだろうか?


「こんなの、いつものことだ。オックル!」

「おう」

「予定通りだ。ここの拠点は俺が、退路はヤランゴッチが守る」


 探索は継続、らしい。


「どう思う」


 それからしばらく。シェリクが守る噴水の間を後にして、俺達は遺跡の奥へと進んでいた。代わり映えのしない通路が続いている。


「ちょっと黙っててくれ。気が散る」


 サビハはそう言うと、床にしゃがみ込んでタイルの状態をチェックし始めた。


「よし、いいぜ。なんだ?」

「サビハ」


 シルヴィアが口を差し挟んだ。


「そこまで調べることか? だいたい、罠があるとされているのは、ここの一つ先の部屋を越えた向こうの通路だぞ?」

「そういうとこが甘ちゃんなんだよ」


 腰に手をやり、彼女は溜息をついた。


「あいつらのこと、そんなに信用できんのか? 今までの地図が正確だったからって、こっから先はわかんねぇだろ? 間違って書きこんだりもするだろうし、見落としだってあるかもわかんねぇ。しかも、わざと嘘を教えたりだってあるんだぜ?」

「それはそうだが」

「で? ナール、どう思って、何のことだ?」

「今、お前が言ったような話だ」


 少しずつ、だが着実に状況は悪化している。


「おかしいだろう。最初、俺達がこんな遺跡の探索に手を貸すことになったのは、ホジャインに金貨百枚の日当を提示されたからだ。別に俺達は、金が欲しくて参加したんじゃない。金を欲しがらないことを不審に思われたくなくて、形ばかり探索してすぐ立ち去るつもりだった」


 強引に断るのがあまりに不自然だから。それくらい、彼は友好的な態度を演出してきた。


「だが、今にして思えば、あの出会いがおかしいのはわかるよな? 喧嘩を吹っかけてきたシェリクは、初対面の時に見たほどバカでもなければ、気短でもない。それにさっき、奇妙な集団が遺跡までやってきたと聞いても、探索の継続を要求してきた。あれは何か、腹に一物あるに決まってる」

「そうだな」

「エレオノーラの動きについてもそうだ。シェリクは、今回の追手の仲間かもしれないみたいなことを言っていたが、逆もあり得るぞ? 今回の、後からやってきたという連中、これもヤランゴッチが見つけたといってるだけで、俺達はまだ出会ってもいないんだが、そいつらもエレオノーラも、全部ホジャインの仕込みだったら?」


 俺達は、顔を見合わせた。


「逃げるべきだな」


 シルヴィアが言った。


「探索を勝手に途中で切り上げて逃げ出すんだから、当然、恥にはなる。違約金も取られるかもしれない。だが、私達の行動としては、不自然でもあるまい。変死体が出る遺跡の探索の、その最前線に送り出されたんだ。ホジャインは、自分の子飼いの冒険者が傷つくのを恐れて、余所者の私達を使い捨てることにした。そのことに思い至った私達が、臆病風に吹かれて逃げ出したとしても、不自然ではない。気分が悪いが、いくらでも頭を下げて、恥をさらしてアスカロンから逃げ出せばいい」

「マジで気分悪いな、そいつは」


 この意見に、サビハは難しい顔をした。


「ナメられたら終わりの街で、ナメられることをしようってんだから……けど、話はそう簡単でもねぇぜ?」

「どういうことだ」

「地図をよーく見ろよ」


 ここは遺跡の地下一階。地上部分に見えているピラミッドは、全体としてはごく一部だ。広大な地下迷宮が遺跡の大部分を占めている。


「入り口自体は、地上の東西南北方向に四つある。あたしらは南から入った。けど、元通り南の出口から逃げようと思ったら、シェリクと鉢合わせる。許しちゃくれねぇと思うぜ」

「他の出口から逃げればいいだろう」

「ここに来る時、どうやって道を開いたか、覚えてねぇのか? ほら、これ見ろよ。東西南北、入り口に近いところにあちこち青い線が引いてあんぜ?」


 つまり、あちこちの台座に安置されたオブジェクトを動かすなどしないと、そもそも壁が聳え立ったままで、通行できないかもしれない。


「つまり、俺達は袋のネズミかもしれないってわけか」

「そういうこったな。チッ、クソ、キナ臭ぇ感じはあったが、一気におかしくなってきやがって」


 だが、俺はもう落ち着いていた。

 シルヴィアもサビハも知らないが、俺には例の、女悪魔がついている。そして、奴は俺に言ったのだ。女難の罰をくだす、と。それがどこまで本気かはわからない。案外、俺が奴のご機嫌を全力でとったところで、こういう試練めいたものは降りかかったのではないかと思う。ゾナマでの一件も、アイスウォレスの牙が都合よく手元にあったことを思い返せば、ただの偶然だったとは思われない。

 奴は、俺に殺し殺される場にいてほしいと思っているのだ。だから、こんな遺跡の地下で命の危険にさらされるのは、起きて当然のことでしかない。


「二人とも」

「なんだ」

「言われるまでもなく、わかっているとは思うが、ここはもう敵地だ。勇者も絡んでいるかもしれない。無理は禁物だが、俺達を狙う敵らしいと思ったら……仕方ない、殺せ」

「しょうがねぇな。でなきゃ、あたしらが殺されるんだ」


 これでよし。

 殺害命令を前もって下しておけば、彼女らの稼いだキル数を無駄にしないで済む。


「じゃあ、探索の続きをすっか?」

「何を言っているんだ」


 疑問を差し挟んだシルヴィアに、サビハはおどけた調子で言った。


「あたしらが身を隠したり、逃げたりできる場所を探すって意味さ」

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