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ナール王物語 ~最強チートの合理的殺戮~  作者: 越智 翔
第四章「エレオノーラ」
36/50

第三十六話

新章ですが、ここからは途中までしか下書きがありません。

途切れたところで以後は(要望があれば)不定期更新となります。

 順風満帆、穏やかな西風に押されて、客船はただ東を目指す。ゾナマに渡った時に出くわしたような暴風雨とは無縁で、船酔いに悩まされることはなかった。

 客室も上等だ。広いだけでなく、専用のトイレや浴室が備え付けられている。ベッドは大の字になってもまだ余るほどのキングサイズ。真っ白なシーツが、これまた白く装飾された壁とマッチしている。

 この部屋に、一日三回、海上にしては上等な食事が運び込まれる。昼過ぎには、部屋の掃除とシーツの交換のために、メイドがやってくる。


 ピラミアまでの十数日間の旅。まったくもって快適……なはずだった。


「もういいだろう、帰れ」

「やーだねー」


 俺の右手と左手から、今日も不毛な言い争いが繰り広げられる。


「お前はこの部屋の客ではない」

「あん? じゃ、追加料金、払ってやろうか? 全部引き払ってこっち来てやるよ」

「いらん!」


 この広いベッドの上。

 ついさっき、メイドがやってきて、ベッドメイキングを済ませてくれた直後だというのに。


 シルヴィアは、恋敵の侵入を防ぐ術をもたなかった。

 この客船に乗り込んだ日のこと。二等客室に向かったサビハを見送ると、俺達は割り当てられたスイートルームに向かった。いや、ここはもう、いっそ「スウィート」ルームといったほうがいいか。というのも、部屋に立ち入った直後、シルヴィアは荷物を下ろし、鍵を後ろ手でかけると、猛然と飛びかかってきた。

 貴族の地位も騎士の誇りも、何もかもを捨てて結ばれた相手なのに。なぜか次々と新しい女が現れる。捨てられたくない一心だったのだろう。熱情に駆られるまま、衣服を脱いでは床に投げ捨て、剥ぎ取っては横に抛り、俺を組み敷いて、女の至宝でもってその権利を主張し始めた。

 歓喜が彼女を満たし始めたその時、背後に小さな物音が聞こえた。振り返ると……鍵をこじ開けたサビハが立っていた。


 それからどうなったかって?

 シルヴィアがどんなに対策しようが、必ずサビハはやってきたし、部屋にも入り込んだ。あとはもう、今、ここで展開されているのと同じ場面が繰り返されてきただけだ。


 この広い広いベッドの上。

 真ん中に俺。右にシルヴィア、左にサビハ。三人揃って全裸でシーツを共有している。


 最初、シルヴィアは暴力に訴えようとまでしたのだ。だが、サビハのほうが一枚上手だった。


「殴りたけりゃ殴りゃあいいさ! 『女』の部分じゃあたしに勝てないから、そういう手を使うしかねぇんだよな?」

「ホントはもう、飽きられてんだろ? あたしとやってる時にゃ、そりゃあもういい顔してたぜ!」

「先に手ェつけてもらったってコト、タテにとって……ナールの優しさに甘えさせてもらってるだけだな!」


 こうまで言われては、彼女とて、女で勝負するしかない。どちらが俺に愛される資格があるのか、実際に抱いて比べろと、二人して迫ってくるようになったのだ。

 もちろん、俺はシルヴィアの肩を持った。だがサビハは、それでめげるような女ではない。じゃあ、また明日、再勝負しよう……というわけで、何度追い払ってもやってくる。

 で、しまいには「妊娠したかも」などと言い出す始末。これはマズい。それで二人に魔法避妊薬を飲ませたのだが……『二人に同じ扱いをした』という事実が残ってしまった。いまやサビハは、ナールの女だと公言するようになってしまった。


 しかし、合理的に考えると、この状況はそう悪くない。

 いや、複数の女と関係があるのは、大変に気疲れする。その意味では好ましくないのだが、それはそれとして、サビハはとても役に立つ。

 まず、エクス語はもちろん、ゾナマ語も、ピラミア語も、自由自在に操れる。この部屋の鍵をこじ開けたところからしても、その手の技能に長けていて、しかも世慣れてもいる。現実的で、度胸もあり、それに見合うだけの腕前も持ち合わせている。駒としては非常に有用だ。

 だから、俺が勇者達から逃げ切るまでの間、サビハを利用するというのは、作戦としては「あり」だ。ただ、この状況にどこまでシルヴィアが耐えられるだろうか。レア彼女の魔法の効果はとっくに失われているのだから。


「……明日には、ピラミアに着くんだが」

「おう、そうだな」

「お前は確か、そっちの出身だったな?」

「あー、そうだぜ」

「じゃ、そこで下ろしても問題ないな」

「下りなくても問題ねぇけどな」

「貴様、いい加減にしろ」


 痺れを切らしたシルヴィアが割って入る。


「私とナールは、そのままワナタイを目指すのだ。お前とは行き先が違う」

「へぇー」


 恋は盲目、というが。

 本来ならもっと頭のキレるはずの彼女にしては、迂闊すぎる一言だ。


「じゃ、あたしもそこまで行こうかねぇ」


 俺はシルヴィアにアイコンタクトする。それで彼女も、ボロを出したと気付き、がっくりと項垂れる。

 だが、一番危ない話はしていないから、まだいい。果たして、俺がエキスタレアの勇者達に追われていることは、伝えるべきか。


 それより、これからどうしたものか。

 大金はある。しかし、このままでは駄目だ。今でこそ熱愛に身を焦がす二人だが、いざ恋から醒めたら、残るのは財貨だけだ。旅行中ならば、持ち運びしやすいお宝の方が便利だが、これをどこかでまったく別の財産に置き換える必要がある。たとえば、理想的には土地の所有権とか。農産物が毎年収穫できるなど、いわば運用利益が期待できる。しかも、土地は持ち運びできない。もちろん、逃げる場合には捨てていくしかないのだが、手軽に盗むことはできない。

 しかし、どこに定住すべきか。今のところはワナタイまで逃げるつもりだが、安住の地がどこにあるかは、まだわからない。


「けど、あんな田舎に行って、何がしたいんだい?」

「余計なお世話だ」

「ふうん……けど、こっちのナールはともかく、あんたのほうは目立つだろうね? あたしみたいなのは、まぁ色黒だけど、黒髪だから、そこまででもないけど」


 こういうことにはすぐ気付く性質らしい。内心、舌打ちした。

 サビハは、詳しい事情こそ知らないものの、俺とシルヴィアの旅が、逃避行であることを察している。


「先のことは後でもいいだろ」


 俺はあれこれ詮索される前に、話を打ち切った。


「明日は上陸だからな。もう寝よう」

「あ、ああ、そうだな」


 サビハがまだ何か言いたそうだったので、抱き寄せた。それで笑みを浮かべ、おとなしく俺に縋りついて丸まった……。


「うんうん、まさに男の夢! だねぇー」

「胃が痛くなる」

「ハハッ、そういや、そっちの世界の言葉にもあるもんね。どこだったかな? 『二人の妻を持つのは、両手に炭火を持つのと同じ』なんて諺もあるくらいだからねー」


 その夜も、眠りにつくと、あの女悪魔が夢枕に立った。


「いやー、順調に二人と仲良くヤれてるみたいで、お姉さん、安心だなー」

「お前、いったい何がしたいんだ」

「前から言ってるじゃん? 楽しいことー」


 俺は溜息を吐き出した。


「こんなもんが楽しいのかよ」

「えー? 少女漫画とか、読んだことない? あんなのほとんどイケメンを巡っての恋の鞘当てじゃん」

「マウンティングとも言うな」

「そーそー。それこそまさに乙女の夢だねっ」


 だとすると、白馬の王子様に憧れる少女と、職場の妻子持ちナイスミドルと不倫して、本妻と張り合う三十路の女と。全然別物に見えて、実は同一線上にあるものらしい。少なくともこの女悪魔にとってはそうだ。

 その手のドロドロした争いが、今も俺の真横で繰り広げられている。ピンクの膜の外側には、例によって俺の肉体の映像が浮かび上がっているのだが、こうして上から見下ろすと、シルヴィアもサビハも、寝たふりをしているだけだとすぐわかる。ライバルに抜け駆けを許すまいと、気を張っているのだ。


「で?」

「ん?」

「何しに出てきたんだ?」

「なによー」


 不満げに声をあげる。


「用がなきゃ、出てきちゃダメなのー?」

「そうじゃないけど、お前のことだから、多分何か思惑がある」

「んー、そうだなぁ」


 顎に指をあてて、かわいらしく考え込んでみせる。どんなポーズを取ったところで、俺からすると、あざとさしか見て取れないのだが。


「本当はただ、デートしたかっただけなんだけど」

「おい」

「せっかくだから、神のお告げをしてあげてもいいかなー、なんて」

「また何か起きるのか」

「失礼だなー、もう」


 手を振り上げて、怒ったふり。


「私のせいみたいに言わないでよー。困ったことにならないよう、前もって教えてあげてんじゃん」

「楽しむためだろ?」

「まーねー」


 話が進まない。俺は口を噤んだ。

 ニヤリと笑うと、小声で言った。


「……気付かれたよ?」

「なに」

「君がまだ生きてるってことに気付いたのが、一人」

「なんだって!?」


 最悪のニュースだ。

 俺は思わず頭を抱えた。


「い、いつ!? 誰が!」

「あーわーてーなーいー」


 これで慌てないで、いつ慌てればいい?

 確かに今の俺は、かなりの力を身につけつつある。シルヴィアにも匹敵するほどの戦闘力。魔法も使えるし、霊剣だって携えている。それでも、さすがに砦を真っ向からぶち壊せるような怪物どもとは、勝負にもなるまい。


「君らしくないなー」

「というと?」

「もう一度言うね? 君がまだ生きてるってことに気付いたのが、一人」


 ……一人?


 そうか。


「気付いたのに、なぜそれを他の仲間に伝えていない? 合理的じゃない」

「ね?」

「なら、安心……いや、そいつにはどんな思惑があるんだ?」

「さぁ」

「おい」


 俺が詰め寄っても、邪神は楽しげにスキップして俺から遠ざかるばかりだ。


「それを教えちゃ、面白くないもんねー」

「くそっ」

「ってことで」


 クルッと一回転して俺を下から覗き込むと、こいつは甘い声でおねだりを始めた。


「ガーチャー、ガチャ引こー?」

「前に引いたろ?」

「まだ残ってるじゃん。プレミアムガチャー」

「……そういえば、報酬の一覧って、どうなってたんだっけ?」

「これー」


------------------------------

<成果表>

------------------------------

キル数   ご褒美

…………  …………

…………  …………

55    プレミアムガチャ1回

60    戦闘能力レベル3付与

65    絶倫大尉

70    セレスティアルセイバー

75    魔法能力レベル3付与

85    呪詛返し(週1回)

90    ノーマルガチャ9回

100    戦闘能力レベル4付与

…………  …………

…………  …………

------------------------------


「絶倫……はいいとして」

「重要だよ、それー」


 現在のキル数は六十二。とすると、次の報酬……は飛ばすとして、その次が。


「セレスティアルセイバー? 名前からして、剣?」

「そだよー、銀色に輝くカッコいい剣だよー。ここは厨二っぽく、白と黒とで二刀流なんて、どう?」

「いや、やっとシルヴィアにまともな武器をプレゼントできるし」

「えー」


 そんなに俺が彼女を粗末に扱うと嬉しい……いや。嫉妬に苦しむ彼女を抱えて、俺が困り果てるのが楽しいだけなんだろう。

 それより、そんな『楽しくない』景品がここに組み込まれているということは。レア彼女の件を別とすると、それなりにガチャが公平に機能しているということでもあるのかもしれない。なぜなら、既に『黒霧』を入手していたのでなければ、新しい剣の使用者は、きっと俺になっていただろうからだ。


「それよりさぁ」

「うん?」

「ノーマルガチャは引いたけど、プレミアムのほうはまだじゃん?」

「そういえばそうだったな」

「ね、ね、危機感わいたでしょ? 引こ、引こ?」

「その前に」


 大事なことがわかってない。

 勢いでこんなもの、消費するわけにはいかない。


「プレミアムガチャだと、何が違う?」

「それはもう、確率が違うんだよ! コモンとアンコモンは出ないし、その分、よりレアなものが出やすいんだよ!」

「なら、却下」

「なんでー!」

「そりゃあお前」


 俺は肩をすくめた。


「散々期待させといて、どうせまた『レア彼女』ってオチが待ってるんだろ」

「うー」


 そんな単純なやり口に引っかかるか。毎度毎度。


「その手には乗らない」

「逆らったなー」

「逆らったからどうだってんだ」


 だが、曲がりなりにもこいつは神。

 俺はその点を甘く見ていた。


「神罰覿面ー」

「は?」

「奈路智偉人よ、女神を侮った罪により、そなたに女難の罰をくだすぞよ~」

「はぁぁ!?」

「では、下界に落ちるがよいー」

「ちょ、ちょぉおっ!」


 そのまま、俺の意識は暗転した。

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― 新着の感想 ―
>「ハハッ、そういや、そっちの世界の言葉にもあるもんね。どこだったかな? 『二人の妻を持つのは、両手に炭火を持つのと同じ』なんて諺もあるくらいだからねー」 そっちの世界? サビハは異世界知ってるの?
この物語も面白いけど、ここありのが面白いからそちらが完結してから続きを読みたいです。
とても面白く読んでます。 ぜひ続きを!!
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