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第三十話

「イキイキしてたねー」


 暗い森の中の道を走っていたはずが、いきなりピンク一色の空間に。

 プカプカ浮かぶ女悪魔が、俺に話しかけてくる。


「おい」

「七人もやっちゃうなんてねー」

「今、時間がないんだ。話なら後で聞く」

「時間? そんなの止めてあげたよー?」


 そうか。

 邪神なんだから、それくらい難しくもないか。


 すっと緊張を解いて、俺は向き直る。


「それで、俺に何の用だ?」

「うん」


 空間に紙切れが浮かび上がる。


「そろそろ次のリストを見てもらおうかなーって」

「ああ、キル数か」

「そゆこと」


------------------------------

<成果表>

------------------------------

キル数   ご褒美

…………  …………

…………  …………

20    ノーマルガチャ5回

25    魔法能力レベル1付与

30    戦闘能力レベル2付与

35    絶倫軍曹

40    火事場の馬鹿力(週1回)

45    ノーマルガチャ7回

50    魔法能力レベル2付与

55    プレミアムガチャ1回

60    戦闘能力レベル3付与

…………  …………

…………  …………

------------------------------


「なんか報酬が豪勢になってきたな」

「そりゃあね。でも、その分、もらうのも難しくなってきた感じ、するでしょ?」

「確かにな。5人刻みか」


 とはいえ、直接的な戦闘力が高まっていくわけだから、ノルマ達成はむしろ簡単になっていくのかもしれないが。


「で、それなら確認したいんだが」

「うんうん、なんでも訊いてー」

「この絶倫軍曹って」

「よくぞ訊いてくれました! そっち方面でも更にパワーアップ! サイズは小型そのままに、スムーズなプレイを実現する潤滑性、そして確かな感触を与える硬度を兼ね備え」

「いらねぇよ」


 俺の拒絶に、女悪魔は不思議そうな顔で言う。


「えー、必要だよー」

「なんでだよ!」

「だってこれから、彼女がバンバン増えるのに」

「増やしてたまるか!」

「マグダレーナちゃん、かわいそう」

「お前のせいだろが」

「君のせいじゃないの?」


 やめよう。不毛だ。


「で、この魔法能力ってのはなんだ」

「ん? 魔法が使えるようになるよ。ただ、魔法は準備がないと使えないからね、この世界」

「そうなのか?」

「そうだよ。魔法の道具とか、儀式とか、そういうのがいるの。だから、そういうのナシでいきなり聖剣の力を振るう天野君とか、巨大な火の玉を投げつける比嘉君とか……君達異世界から来たのが、どんなに規格外か、わかるでしょ」


 確かに。

 もっとも、なぜか俺だけ落ちこぼれているような気もするが。


「ん? でも、前にマグダレーナは魔法を学んだとか」

「うんー。マグダレーナちゃんも、治癒魔法の専門家で、まあ、レベル3はあるかなー。でも、魔法の道具って高価だから、そうそう手に入らないから、使えないんだよー」

「じゃ、どうやって練習したんだ?」

「それはほら、教会の大学にいる間は、備品があったし?」


 なるほどな。

 で、今はそんな高価なものは持っていない、と。


「じゃあ、俺が魔法を使う場合にも」

「あらかじめ、何かの魔力をこめた道具を使えば、それに適合する魔法なら、使えるようになったねー」

「ふうん、楽しみだな」

「まだレベル1だから、大した威力にはならないよー?」

「なんだ、そうか」

「でもでも、属性は問わないからね? マグダレーナちゃんみたいに治癒魔法とか浄化魔法とかだけってことはなくて、呪文とか知識とかなしで、どんな種類でも使えるから、それは強みかなー」


 であれば十分、役には立つかもしれない。道具さえあればだが。

 レベルなら、じっくり上げていけばいいのだし。

 それより、大事なポイントが他にある。


「ここまでで三十一人だから、戦闘能力はレベル2になったねー。これなら、まあ一人前かなー? ピールで戦った、あのリックも、レベル2の上のほうくらいだったからねー」

「そうなのか? シルヴィア相手に互角だった気がするけど」

「シルヴィアちゃん、レベル3になりたてだから、実力は同じくらいだったんだよ。それに、リックのほうが、ずるい戦い方ができてたからね」

「そういうことか」


 それと、未知の能力がもう一つ。


「この……火事場の馬鹿力ってのは?」

「瞬間的に能力が跳ね上がるんだよー」

「へえ、どれくらい?」

「どれくらいって言われてもなー。少なくとも、今の時点では、天野君には絶対勝てない程度かなー」

「なんだ、それくらいか」

「まあでも、いざって時にはそこそこ使えるよ」

「使うには?」

「念じればそれとわかるよ」


 ふうん、なるほど。

 まあ、知りたいことは、だいたいわかった。


 ……と思ったけど、一つだけ。


「なあ」

「なに?」

「お前、やっぱりワザとだろ?」

「なーにがー?」

「アイスウォレスの牙」


 偶然というには、あまりに意図的だ。


「俺があれを引き当てたからシルヴィアをクッコロ病にしたのか、シルヴィアがクッコロ病にかかるって知ってたからあれを引き当てさせたのか、どっちだ?」

「んー? たまたまだよー?」

「騙されるかっ」

「騙すも何も、私は言いたいことしか言わないし? それに、何か損でもした? 結果的にすぐ手元に薬があったんだから、いいじゃん」

「このっ……」


 損とか得とかじゃなくて、こいつの掌の上で踊らされているような感じがいやなんだよ。


「ねね、それよりさ」


 馴れ馴れしく、俺の肩に手をおきながら、女悪魔は嬉しそうに言った。


「すっごくイイ顔してたね!」

「なにがだよ」

「一家皆殺し! すっごぉい!」


 ああ、あれか。


「別に? クッコロ草が必要だったのに、素直に出さなかったから、しょうがなくやっただけだ」

「本当? 本当に?」

「なんだよ。キル数稼ぐためだって言わせたいのか?」

「ううん、それは結果でしょ」

「じゃあ、なんだよ」

「正直に言ってね?」


 顔を近付けながら、女悪魔は続ける。

 ふっと横から頬を寄せられて、不意に漂ってきたなんともいえない蠱惑的な香りに、一瞬、クラッとした。


「……気持ちよかった?」

「あ?」

「気持ちよかったでしょ」

「なんでそうなるんだよ」

「素直になってよ」


 後ろから俺の体を抱きすくめながら、その指先を服越しに這わせながら。

 こいつは促した。


「見てたんだから」

「ちっ」


 そうだった。

 こいつは俺のやることなすこと、全部見て、楽しんでやがるんだ。


「最初はまあ、必要だったからだよね。オッサンは何も渡すつもりがなかったし、家の中には待ち伏せがいたし、やるしかなかった。でも、婆さんを切り伏せた時点で、もう落ち着いてた。すぐに殺さなかったもん。子供を人質にして、クッコロ草も手に入れた。目的はこの時点で達成してたよね?」

「だからって、殺さずに済ませられるわけないだろ。一人殺したら、もう全員始末するしかないしな」

「まあねえ。顔、バッチリ見られてるし、これでまた、ヴァン族の本拠地に駆け込まれたら、厄介だし」

「そういうことだ。キル数だって稼げるんだし、合理的だろが」

「ずるいよ」


 俺の耳に息を吹きかけながら、女悪魔は、なおも俺に絡みつく。


「じゃあ、どうしてあんなことしたのよ」

「あんなってなんだ」

「わざわざ母親の目の前で子供を殺してさ。それに、母親のほうもすぐに殺せたのに、わざわざ殴って、服まで剥いで……」

「ちっ……言っとくけどな」


 くそっ。

 思わずやっちまったんだ、あれは。


「あんな老けた女に欲情したなんて思うなよ? ただちょっと」

「わかってるよぉ」


 ものすごく嬉しそうな顔をして、この自称女神は、俺をひしと抱きしめた。足まで絡めて。


「痛めつけたかったんだよね」

「……む」

「ただ殺したんじゃもったいないから。でしょ?」


 確かに、そういう思いがなかったとは言えない。


「でも、他の連中はあっさりやっちゃったから。せめて、残ったこの女だけは、しっかりイジメてから殺したかった。だからわざわざ娘を目の前で殺して。それでも足りないから殴って、服まで剥ぎ取って。最後の串刺し! ……ねぇ」


 俺が振り払わずにいるからって、どんどんエスカレートしてきた。いつの間にか、俺の耳朶を甘噛みまでしている。


「……あれ、見た瞬間、また欲しくなっちゃった」

「このド変態。サディスト」

「お互い様でしょ? やったのは君、私は見てただけ」


 くっそ。

 ホント、タチ悪いな、こいつ。


「でもねぇ、今、君をベッドに誘うと、死んじゃうから……適当な男をひっかけるかな?」

「勝手にサカってろ」

「ふふっ、かわいい。嫉妬? ヤキモチ? じゃあ、やっぱり我慢かな」

「好みじゃないんじゃなかったのか」

「んー、そこなんだけど」


 ようやく体を離しながら、俺にねとつく視線を浴びせてくる。


「あの瞬間だけは……ちょっとだけ、いいなって思ったかな? ホントだよ?」

「けっ」


 マジで腐りきった女だ。

 けど、こんなんでも、俺の命綱っていうんだから、しょうがない。


「……で、急いでるんだよね」

「ああ」


 そうだった。

 こいつと乳繰り合ってる場合じゃない。まあ、時間は止めておいてくれたらしいが。


「じゃ、セト村の近くに飛ばしてあげようか」

「マジか? サービスいいな」

「ちょっとだけ楽しい殺し方してたし、今日は気分がいいからね」

「……何か、裏があるだろ?」


 こいつの親切は、真に受けないほうがいい。


「悪気はないよー? ただ、ちょっとチャンスかなーって」

「チャンス? ってことは」

「じゃ、そろそろ」


 急速に周囲のピンクが薄くなる。


「おい!」

「いってらっしゃい。なんとか生き延びてね?」


 ふっと周囲が暗くなる。気付けば、暗い森の中。

 生温い大粒の雨が、俺の全身に叩きつけられる。


 離れたところに光が見える。あれがセト村か。


 くそっ。

 何が起きているかはわからない。でも、何事もないってことはない。それだけは絶対だ。

 急がなければ……!

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