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第二十四話

えっ、えっ……

試しに投稿してみただけなんですが、レビューをいただくとは、畏れ多いです……


どうしましょう、第四章の序盤までしか、下書きがないんですが、もっと書いた方がいいんでしょうかね?

 埃をかぶった本の山。

 それに、どことなく湿気た空気。

 薄暗い部屋の中は、ひんやりとしていた。


「災難だったね」


 セリオス司教と呼ばれた、黒衣に眼鏡、三十路のイケメンは、事情を一通り聞き終わってから、溜息をついた。


「このところ、ここゴヤーナの治安も悪化しているんだ」


 これも、グオームとプレグナンシア間の戦争が影響しているらしい。

 ここゾナマは、王権の弱い地域だ。各地の貴族が寄り集まって、合議制でことを進めている。ところが今回の戦争で、序盤に有利だったプレグナンシア側につく勢力が目立ち始めた。そんな中、折悪しくも、政治的にバランサーとして機能していた老王が死去してしまった。


「これで反王権派、反エキスタレア派が勢いづいてね。王位も半年くらい、空位のままだ」

「まあ、そうなんですか……先の陛下がなくなられたという噂は聞いたことがありましたけれど、そんなにひどかったのですか」

「ひどいものだよ。見るといい、そこの山積みの聖典を」


 さっきから気になっている。

 南国の湿気た空気にさらされたまま、それらの本はずっとそこに積まれたまま。


「サーク教会は、エキスタレア側とみなされてしまった。反王権派は、大国に媚びる既存の路線を嫌悪している。土着宗教の再興を看板に掲げているから……つまり、うちの宣教活動も、今ではおおっぴらにはできない。前には子供達が聖典を学びにきていたのに、今はサッパリだよ」


 なるほど、そういうわけか。

 しかし、サーク教会がエキスタレア側、というのは……

 まずいな。俺の情報がこいつ、セリオス司教から、エキスタレア近くにあるサーク教本部に伝わって、そこからまた、あっちの王女とか天野達に伝わるなんてことは……


 それはそれとして。天野達が人間同士の戦争に駆り出されたのは、やはり属国の戦況悪化を受けてのことなのだろうか。

 だとすると、俺達の召喚の意図は、魔王が理由ではないのか? あの性悪な女悪魔のことは別として、トゥラーティア王女やその部下達にも、何らか思惑があったはず。

 プレグナンシア王国は、エキスタレアにつぐ規模を持つ大国だ。なんだかんだときれいごとを言いながら、やはり人間同士の権力争いのために、俺達を招いたのか。

 しかし、それなら、悪魔の力を持つとみなされた俺を排除する理由は? この辺、どうも合理的に整頓できない。


「で、君達がやられたという手口だが……実は、割と一般的なものなんだよ。君達が見た喧嘩は、ほぼ間違いなく、彼らの準備したお芝居だ」


 失ったもの。

 黄金の馬を売却して得た金のほとんど。

 なにせ、金貨が一万枚、それに宝石類も量がありすぎたので、ほとんどを背負い袋に入れておいたのだ。これがまとめて盗まれた。


「君達が雇ったという二人組の人夫だが、恐らく、別に犯罪者でもなんでもなかったはずだ。ただ、この土地では、いつでも誰でも、いきなり悪に手を染める」


 多少の小銭と、いざという時のためにと個人で持っておいた換金用の宝石は、一応手元にある。

 それと、盗まれたもののほとんども、実は取り返してはいる。


 あの後、必死で追いかけたのだ。すると、探し回った挙句に、裏通りに打ち捨てられた荷物が見つかった。

 値打ちはそこまででもないが、嵩張るもの。シルヴィアの金属製の鎧などが、放置されていた。言うまでもなく、あまりお金にならないからだ。

 荷物の置き引きに成功したあの連中は、いったん裏通りで、戦果を確認した。すると、金貨に宝石がザクザク……この状況で、さして値打ちもない品物まで、全部抱えていこうなど、合理的とはいえない。重いものをノンビリ運べば、それだけ追跡者に見つかる危険が高まるのだ。だから奴らは、金貨と宝石だけ奪って、どこかへ消えた。


「それはどういうことでしょう?」

「このゾナマ特有の血縁、地縁制度が、そうさせているんだ。部族から兵士を出す時、仕事を融通する時、それから犯罪に手を染める時も、全部この繋がりで動く。彼らにとっては、余所者なんて、人間ではないんだ。僕もここに馴染むのに、随分苦労したものだ。まさかマグダレーナ、君が来ると知っていたら……手紙くらいは書いたのに」


 察するに、荷物運びを引き受けた二人も、それから途中で話しかけてきた男も、最後に夫婦喧嘩を演じてみせた一家も。

 全員がグルだった。

 多分、アレだ。俺達にエクス語で話しかけてきたあの男。あいつが即席で計画を立てた。で、それと気付いた人夫二人は、自然な流れで彼らに協力した。


 くそっ。

 それとわかっていれば、俺のキル数ノルマの足しにしてやったのに。


「ご相談しておけば」

「いや、仕方がない。今回の旅は、急なものだったのだろう?」


 俺の横では、シルヴィアが見る影もなく憔悴している。椅子に腰掛け、俯いたまま、何も言い出そうとしない。

 確かに、失った金額はほぼ全財産だ。もっとも、どれだけの金額を奪われたのかは、マグダレーナにも、セリオス司教にも伝えてはいないが。


「あ、あの、シルヴィアさん?」


 彼女の落ち込みっぷりに、マグダレーナは遠慮がちに声をかけた。


「そんなに悲しまないでください。私は、お二人の力になれますから」

「ああ、ありがとう……」

「とられたものは、お金なんですよね? でも、ほら、これ」


 マグダレーナは、懐から、袋を取り出した。中には大量の金貨が輝いている。


「これは……」


 かなりの額だ。

 まず、セリオス司教が驚いて、目を瞠る。


「このお金は、どこから?」

「お二人のものですよ」


 俺もさすがに気になって、彼女に尋ねた。


「なぜですか? もらう理由がありません」

「いいえ、これは、お二人が受け取り忘れた懸賞金です」


 そこで思い至る。

 リックを討ち取ったのは俺だ。ということは、その賞金も、俺のものになる。

 しかし、それをなぜ彼女が?


「復興中の街のお手伝いをしていた時に、たまたま冒険者ギルドの前を通りまして。ご挨拶したら、まだ懸賞金を受け取りにくる人がいないとのことで、窓口のお爺さまがお困りで……それで、明日、ナールさんが教会にいらっしゃることをお話しましたら、目立たないように渡してやって欲しいと頼まれてしまったのです」


 なんでそんなことに……いや、合理性はある。


 まず。マグダレーナに大金を預けるのは、あの街ではおかしなことではない。彼女は既に絶対的な信用を得ているからだ。

 次。ではなぜ、俺とシルヴィアが金の受け取りにいかないのか。ギルドは、こう考えたに違いない、つまり……堂々とギルドで受け取ると、そのせいで「誰がリックを殺したか」が広まってしまう、すると彼の元部下とか、関係者達から復讐される可能性がある、俺達がそれを恐れているのでは、と。

 しかし、マグダレーナは、まさにその場にいて、すべてを目撃している。であれば、彼女は人間的にも信用できるし、間違いはないはず。大事な仕事をこなしてくれた冒険者二人に、代わりにこっそり賞金を渡させるのに、これ以上の人選はない。


「金貨一千枚、一枚たりともなくしてはいません。ぜひともお受け取りください」


 彼女達は、俺がなくした金額がどれほどかを知らない。

 だから、この程度では損失の埋め合わせがきかないとわかっているシルヴィアは、黄金色の輝きにもかかわらず、まだうなだれてしまう。


「シルヴィアさん、落ち込まれるのもご無理はありません。でも、失敗もまた、誰にでもあることです。どうあれ、これだけのお金が手元にあれば、当面の暮らしには困らないはずです」

「あ……ああ、そう、そう、だな……ありがとう」


 無理して顔をあげる彼女だが、いかにも弱々しげだ。

 セリオス司教は、そんな俺達のほうをジロリと見ながら、言葉をかけた。


「まだ諦めなくてもいいかもしれないが」

「えっ?」

「取り返す機会がないでもない」


 なんと。

 そんなことが可能なのか? なぜ?


「何をとられたのか、どれだけの金額が盗まれたのかにもよるが……さっきも言った通り、ここゾナマは、地縁と血縁の強い地域だ。となると、盗んだ貴重品の処分についても、個人の単位では片付かないことが多々ある」


 なるほど。

 つまりは上納金だ。大金を得ておいて、それを全部自分とか、犯行に直接協力した人間同士だけで分け合えばどうなるか。部族の中の裏切り者になってしまう。


 逆を言うと、個人の抜け駆けを防ぐ仕組みがあるということか。あの場にいた九人は、全員、この盗みについて知っている。秘密にしておこうと思っても、誰かが密告したら……だから、大きな仕事になればなるほど、一族の指導者に報告せずには済まない。

 俺達を引っかけた中年男にしても、瞬時にしてあれだけの芝居をやらせる要員を揃え、かつ打ち合わせもなしに人夫二人を仲間に引き込んだ。阿吽の呼吸で盗みにとりかかれるメリットの、いわば根底にあるのが、彼らの血縁システムなのだ。


「もし、どうしても取り戻したいのなら、地元の冒険者を雇うのはどうだろうか」

「いや」


 シルヴィアが口を挟む。


「自分の失敗は、自分で取り返したいのだ」

「気持ちはわかりますが、シルヴィアさん、それは無理だ」

「雑兵が何人やってこようとも、恐れなどしない」

「そういうことではありません、つまり……そもそも、誰が盗んだかを見つけるの自体、地元の人間でなければ難しい」

「くっ」


 この一言に、彼女はまた項垂れてしまう。

 無力感にさいなまれているのだろう。

 だが、セリオスの言うことはもっともだ。


「シルヴィア」

「は……はい!」

「司教のいう通りにしよう。犯人の捜索を頼んでみよう」

「申し訳……」

「自分も不注意だった。しょうがない」


 起きてしまったことは仕方がない。

 それに、大金といっても、所詮はアンコモンのガチャ一回分だ。

 取り返せればいいが、駄目なら駄目で、安全第一で戻ってくればいい。


「わかった……ナールさん、では、明日、私が声をかけてきましょう。進展があるまで、この教会で寝泊りしていくといい」

「ありがとうございます」

「ただ」


 釘を刺すように、彼は強い口調で言った。


「いざとなったら深入りは避けることだよ。場合によっては、奥地まで犯人を追いかけることになるかもしれないが、ゾナマはまだまだ危険な場所だ」

「それは、やはり、犯人の仲間が大勢いるからとか」

「それもあるが……」


 彼は、壁に飾られた肖像画に視線を移した。俺もそれを見上げる。

 ヒゲモジャの聖職者の顔。


「あれは、モルゾウ神父だ。はじめてゾナマにやってきて、教会を建てた。また、ここゴヤーナに流行していた疫病を鎮めた人物でもある」

「疫病?」

「多くの病気を治療してきた、偉大な人物だ。しかしそれでも、最後は疫病に倒れた」


 セリオス司教は、重々しい口調で言った。


「ここゾナマには、まだまだ無数の病魔が巣食っている。奥地に行けば行くほど、そういう危険は増す。だから、本当は、お金や貴重品など、諦めたほうがいい」


 確かに、な。

 金は生きるために必要なのであって、金のために命をかけるなんて、まったくもって合理的ではない。

 ただ……なんとなくだが、なぜか、俺はこのまま、黙って泣き寝入りはしたくなかった。


「どうするかね? 探すというのなら、私が手配しよう」

「お願いします」

「わかった。……今夜はもう、疲れているだろう。ゆっくり休むといい」

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>どうしましょう、第四章の序盤までしか、下書きがないんですが、もっと書いた方がいいんでしょうかね? 書籍化打診してみて、それで書籍化したら続き書くのはどうでしょうか?
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