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ナール王物語 ~最強チートの合理的殺戮~  作者: 越智 翔
第二章「マグダレーナ」
13/50

第十三話

「ただいま」

「おかえり」


 ピールの街に着いてから、一ヶ月ほど。

 俺はこのところ、毎日、外で剣術を習っている。


 結局、俺がどんなに頼んでも、シルヴィアは俺に剣術を教える気にはなってくれなかった。それどころか、あんまりしつこく頼むと、ふて腐れてしまう。それでも頼むと、押し倒される。


「あれ? もう水浴び、したの?」

「あ……うん、でも、もう一回……一緒に……」

「あ、いいよ! もう、ご飯食べにいかないと」


 では、彼女が剣術を捨てたのかというと、そうではない。今も、俺がいないところでは、日々、鍛錬を重ねているらしい。今日も外で動いてきたのだろう。だから、先に水浴びを済ませていたのだ。

 季節はもう、夏の終わり頃。ただ、ここピールは南国なので、エキスタレアよりはまだ暑い。


「うーん……」


 俺の拒否に、彼女は不満げな声を漏らす。


「時間なくなっちゃうから」

「うーん」


 これだけ一緒にいて、わかったことがある。

 当たり前すぎることだが、彼女は体力オバケだ。無尽蔵のスタミナがある。

 騎士団時代には、重い金属の鎧を身につけて、何キロも走りこんだりしていたのだ。だから、今も体力が有り余っている。


 その分、肉体的な欲求も激しい。食欲も旺盛だし、夜のほうも凄まじい。ただ、今までは、騎士としての禁欲的な生活態度と、貴族の娘としてのたしなみが、ある種の抑制となっていたのだ。それに、愛欲を知らずにいたのも大きい。

 だが今、彼女には社会的な抑制がかかっていない。俺との関係も続いてきていて、だんだん気安い物言いをするようになってきた。変な壁がなくなるという意味では、彼女として、よりかわいらしくなったとも言えるのだが、その分、要求が大きくなってきている。


 ……だから、密かな危機感を覚えつつある。


「しょうがないか」

「うん、しょうがない、すぐ浴びるから」

「いや! やっぱり私も」

「ちょ、ちょっと!」


 日本にいた時、高校のとある先輩の女の子が、こんなことを言っていたっけ。


『女は、オマエ呼ばわりが好きだからねー』


 当時の俺には、理解できなかった。「お前」という言葉には、気安さがある一方で、相手を自分以下にみなすニュアンスもある。友人同士で呼びかけあう時に使う言葉でもあるのだが……たとえば、兄が弟に向かって「お前」ということはあっても、弟から兄にそう呼びかけることはない。

 つまり、女は男に見下されたいのか? 男女平等の日本においても? そんなの不合理だ。


 だが、そうではないのだ。

 男には、自分より優秀な存在でいて欲しい。イケメンだとか、高学歴、高収入だとか、とにかく女を上回る何かを持っていて欲しい。そして、常に上から見守っていて欲しい。

 でないと、自身そのものを捧げたのに、なんだか損したような、自分まで値打ちが下がったような気がしてしまう。


 俺に剣術を教えたがらないのも、その辺が理由ではないかと踏んでいる。

 戦闘力においては、今のところ、彼女は俺の遥か上をいく。強い力をもった勇者としてこの世界に出現したはずなのに、自分より弱い姿を目の当たりにしなければならない。しかも、鍛錬なのだから、駄目なところがあれば、それこそ騎士団の部下達に接するように、叱咤しなければならない。

 その関係性が、いやなのだ。


 魔力のせいであるにせよ、シルヴィアは俺に惚れた。

 だが、それは俺のどこかの部分を、自分以上とみなしているからだ。魔法のせいで認識が狂っているにせよ。

 しかし、日常生活の中で、徐々にそのメッキが剥がれていったら。


 やはり、急がなければいけない。


「ほら! やっぱりはじめるんじゃ」

「だって」

「遅くなるかんっ」


 まだ汗も流していないのに。

 シルヴィアは、俺にむしゃぶりついた。

 これを見る限り、当面のところは、心配要らないのだが。


「こんばんは」

「おー、らっしゃい!」


 鍛錬とは別の疲れを背負った状態で、俺はいつもの酒場を訪れた。

 店主とも、すっかり顔馴染みだ。


「いつもの」

「はいよっ!」


 そうして、俺とシルヴィアはテーブルにつく。

 二人とも、ろくに料理なんてできない。一応、彼女は騎士団時代、簡単な調理くらいはやった。しかしそれは、野戦用の糧食を、ただ食べられるようにするという程度のものだったし、そもそも身分が身分なので、軍隊でも普段の食事は部下が用意していた。

 だから必然、こうして外食を繰り返すことになる。幸い、この国は外食文化が発達しているので、安くおいしいものが食べられる。


 すぐに熱々の野菜スープと薄っぺらいステーキ、それにパンとミルクが運ばれてくる。

 ちょっと贅沢かなとは感じているが、手元に金はあるのだし、多少はいいものを食べても構わないのではないかとも思う。いざ、逃げることになったら、何も持ち出せないかもしれないのだし。


「いただきま……」

「ヒャッホー!」


 いつものように食べ始めようとした瞬間、この酒場の外で、喚きたてる男達がいた。そいつらはそのまま、ドカドカと店内に踏み込んでくる。


「オヤジ! 酒だ! じゃんじゃんもってこい!」

「はいよっ、ただいま!」

「ここの客にも、全員出してやれ! 俺のオゴリだ!」

「まいどありっ!」


 なんだ? いきなり?


「お前ら! いいニュースだ! 喜べ!」


 集団のボスザルっぽい、やや狂暴そうな小太りの大男が、声を張り上げた。


「グオーム王国軍が、ついにプレグナンシア軍を破った! リプロ砦を落として、進撃中だ!」


 この知らせに、酒場中の客が、おおーと歓声をあげる。

 国軍なんか信用していない庶民だが、それでも自国の勝利は嬉しい。敵国に敗北して、占領下に入ろうものなら、それこそ略奪から婦女暴行から、どんな目に遭わされるかわかったものではないからだ。


「エキスタレア王国の援軍のおかげだ! 聖剣の『勇者』と『聖女』、それに『闘士』の活躍で、砦は一瞬にして陥落したそうだ!」


 ……勇者?

 勇者だって!?


 普通に考えて、勇者は天野、闘士は比嘉のことだろう。

 聖女というのが、どっちのことかは、わからない。たぶん、藤成だろう。星井は、どっちかっていうと性女だし。もしかしたら、二人とも参戦したのかもしれないが。


 しかし、だ。

 砦を落とした? 彼らの力で?


 俺の首をキレイにすっ飛ばした天野の剣技はたいしたものだし、洞窟の中を焼き払った比嘉の能力も凄まじい。だが、あんな程度で、砦を?


 もしかして。

 勇者の能力の覚醒には、段階があるのか?


 あり得る話だ。

 俺だってそうじゃないか。今までの能力は、どれも使いきりだったとはいえ、無駄に消費しなければ、今でもまだ、一回だけは不死身だったわけだし。それに今後の報酬によっては、永続的な強化だって期待できる。


 そう考えると、あいつらは、更なる覚醒を遂げていることになる。

 そして、その力を戦争に使った。


 ボヤボヤしてはいられない。

 あの時には、逃げ切ることができた。

 でも、今、奴らと相対したら?


 どうやったのかはわからないが、星井は俺を見つけるのに成功した。もう、距離も離れているし、その能力がどんなものかもわからないから、もう一度俺を捕捉可能かどうかはわからない。だが、その可能性があるのなら。


「ナール」


 シルヴィアが声をかけてきた。俺の表情の変化を、戒めるように。なお、外では呼び捨てにするように言ってある。

 ここではみんな、嬉しそうにしている。だから俺も、めでたいと喜んでみせるべきだ。一人だけ、顔色を変えたとなると。


「食べようか」

「うん」


 何事もなかったかのように、俺達は食事を喉に流し込んだ。


 ……その夜。


「そだよー」


 久しぶりにピンクの空間に浮かんでいる。

 寝る時に、あの女悪魔と話したい、と念じて横になったら、案の定、出てきてくれた。


「君がシルヴィアの巨乳の虜になってるうちに、みんなどんどん覚醒してるねー」

「マジかよ」

「もう、天野君なんか、剣を手で持ってないもんね。聖剣が巨大化しちゃって」

「そうなのか」

「もちろん、手元には白兵戦用の剣は別に持ってるんだけど、もうね、戦争なんて、大きな聖剣を砦に飛ばしてぶつけるだけの簡単なお仕事」

「うへっ」

「魔力を発散しながらだから、直撃しなくても、近くにいる兵士とか、バタバタ死ぬんだよー」


 どんだけ。

 せいぜいが弓矢で攻撃するような文明レベルの世界で、一人だけミサイル持参か。しかも、準備も何もなしに連発できるとか。


「じゃあ、逆に繊細なコントロールは難しいとか?」

「ん? そんなことないんじゃない? 聖剣を小さくして、手元に持つこともできるし、ついでに光のオーラもまとえるから、下手な鎧なんかもいらないしね」


 あかん。

 もう無敵じゃないか。


「藤成ちゃんのほうも、なかなかだねー。怪我を治す範囲も広くなって、一度に百人くらいの重傷者を、一瞬で治してたし」

「げえっ」

「そもそも、リプロ砦じゃ、怪我人すら出なかったけどね。青い光のオーラで、防御結界を張れるようになってたから、弓矢も投石器も届かないし」

「デタラメだな」


 呆れて物も言えない。


「ついでに、比嘉君も、出せる火の球が、大きくなってたねー。もう、クレーターがいくつできたことか」

「……あのさぁ」

「ん? なに?」

「なんで俺だけ、こんな変な能力なわけ?」


 ホント、なんでこんなに不平等なんだよ。

 あいつら、みんな強くて使いやすい能力をもらってるのに。


「えっ? 文句あるの?」

「あるのっていうか……だって、何の魔力もなければ、そもそも殺されそうになったりもしなかったわけだし。いざ使おうとしても、制約が厳しくてなかなか思い通りにならないし」

「でも、君が最強なんだけどね」

「実感がわかない」

「努力が足りないんだよ」

「努力って、人殺しだろ?」

「そう!」


 屈託なく言いやがって。


「もっとシルヴィアちゃんをうまく使いなよー」

「それが難しいんだよ」

「とにかく、戦いに巻き込まれちゃえばいいんだよ。そうすれば、あとは片付けてくれるだろうしさ。で、『殺せ!』っていえば、万事解決」


 確かに、それくらいの強硬手段をとる必要があるかもしれない。


「ま、今日のニュースで、シルヴィアちゃんも危機感をもっただろうし、強くなることには反対しなくなるんじゃないかなぁ」


 そうなってくれると、ありがたい、が。


「そういえば、ここから先、俺、どんなボーナスをもらえるんだったっけ」

「ああ、リストね。はい、これ」


 目の前に紙切れが浮かび上がる。


------------------------------

<成果表>

------------------------------

キル数   ご褒美

…………  …………

…………  …………

10    ノーマルガチャ3回

13    即死攻撃(使いきり)

15    戦闘能力レベル1付与

18    絶倫二等兵

20    ノーマルガチャ5回

…………  …………

…………  …………

------------------------------


「って感じかなぁ」

「ああ……どーも。大変そうだ、こりゃ」

「あとちょっと頑張れば、本当に強くなれるよ!」


 だといいが。


「ってか、なにこの絶倫二等兵って」

「よくぞ訊いてくれました! そっちも強くなれるってワケ! サイズは小型そのままに、威力、耐久力ともアップ、オマケに連射機能まで」

「あー、わかったわかった、あと小型は余計だ」


 あと、気になる能力としては……。


「即死攻撃って?」

「見たまんまだよ。念じた相手がその場でコロッと死ぬの。但し、見える範囲にいる場合だけ。間違えて誰かに使っちゃわないようにね。キャンセル利かないから」


 怖っ。

 チラッと思っただけで、うっかり死なせたりとかしたら困る。

 便利そうだけど、ずっと抱えてるのも不安になるな。

 遠くから天野とか、ヤバそうな連中を消せるならいいのに。まあ、そこまで便利なものが、そんなに簡単に手に入るわけないか。


「ちなみに、この戦闘能力レベル1って、どんなもん?」

「えっと、だいたいの目安でいうと、まぁ、脱素人ってくらいかな。ちなみにシルヴィアちゃんがレベル3相当で、天野君はレベル4くらい。人間の限界はレベル5かなー」

「全然ダメじゃん」

「ちなみに今の君は0レベル」

「げえっ、そんなに弱いのか、俺」

「頑張れ!」


 無責任な激励に、俺は肩を落とすばかりだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 絶倫二等兵があるということは、絶倫一等兵もあるってことですか?
[良い点] 絶倫二等兵は草 [一言] 越智な描写が多くてくどいと感じました。 他の人はどう感じるんだろう。
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