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なろうラジオ大賞参加作品

5年後の1万円

作者: 仁司方


「先輩、これ持ってますか?」


 とリコがひらひら振っているのは、万券だった。いわゆる1万円札。


「最近キャッシュレスだから。コインランドリーで使う小銭しか持ち歩いてないな」

「ほへぇ、ハイテクっすね。じゃあ、資産としての1万円はお持ちですか?」

「……俺をなんだと思ってるんだ?」

「金銭感覚がまともな先輩でよかったです」


 いきなり人の懐具合を探ってくるとは、何を企んでるこいつ?

 若干警戒心が芽生えたところで、リコがにぱぁ、と笑みを浮かべた。


 万札ふりふり、質問を変える。


「5年後、この1万円はどうなっていると思いますか、先輩?」

「福沢諭吉から渋沢栄一に変わってる」

「それ5年もかからないじゃないですか、もうすぐっすよ」

「他にはないだろ。日本円がデジタル通貨に完全移行とか、どれだけ早くても30年はかかる」


 こいつはあやしい陰謀論チューバーの話を真に受けて、日銀が破綻して円が紙屑になると思っているのか?


「5年後も1万円は1万円のまま、それが先輩のご回答ですか?」

「1万円が1万ドルになればいいけどな。もちろん米ドルで」

「うーん、先輩がなかなかのマネーリテラシーをお持ちだとはわかりましたが、ちょーっとわたしの求めと違うんですよねぇ」

「おまえのために磨いた金銭感覚じゃないからな」

「手っ取り早く答えますと、9039円なんですよ」

「あー、インフレの話か」


 なーんだ、という顔の俺を見て、リコは手品の種を先にバラされたマジシャンみたいにふくれた。


「わかってたんですか!? イジワルっすね」

「おまえの質問の仕方が悪い」


 購買力の上下で紙幣の額面は変わらないし。


「なんですか、デフレの30年で、日本人が忘れ去ってしまった経済の真理ですよ? 先輩って、世界の秘密を知ってて自分だけ安全圏に逃げるタイプなんですね?失望しました」

「話を無駄に広げるな」


 世界経済の真実とか、お外でそういう話しちゃ駄目だよ?


「つまり、先輩はすでに備えができてるんですね? ドル預金とか純金積立とか」

「いやそこまではしてないけど。投資セミナーとかにはついていかないぞ」

「わたしはただ、時間とともに失われていくものは早く活用すべきと思ったまでです」

「若さとかな」


 皮肉で言ったのに、リコはぱぁっと満面の笑みで。


「見解の一致に達したところで、ご飯に行きましょうか。わたしからは『御馳走様でした先輩』と、プライスゼロのスマイルが提供されます」


 ……飯は奢った。サイゼだけど。


10000円が9039円になるというのは、5年間2%のインフレが継続した場合の実質価値の話です。

当然のことですが、毎年定率で物価が変動するわけではありません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど!ただ持っているだけでは目減りしてしまうのですね。 [一言] 会話が楽しい1000字でした。上手いこと言って奢らされましたね。 でも楽しいひと時はプライスレス!
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