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森とエルフと初代皇帝と

「目を覚ましなさい!いつまでも初代皇帝の野望に騙されてはダメ!


彼から始まる極北の石碑重視の時代が多種族との調和と共生を邪魔していたの!


エルフは! 森とともに! 生きるべきだったの!」


帝国末期の活動家 エルフィン·ラゼルの演説から



「……ずい分ともの凄い言われようだなぁ……」

 

思わず漏れた俺の言葉に先輩が苦笑した。


「森林再生活動の有名な活動家だったらしいからなぁ」

「しかしここまで言われるほど初代皇帝は何かやらかしてましたかね」

「あの人物もかなり毀誉褒貶が激しかったからなぁ」



“初代皇帝ほど毀誉褒貶にあふれた人物もいないだろう。

伝統的なエルフ社会を破壊し、後の帝国につながる様々な改革を行った。

エルフの保守的な一面として語られる「一人一本令」だが、初代皇帝が制定したことから判断すると、ある意味第二拡大期の原因である可能性が……”



「魔術重視政策もあるが、特に帝国の在り方を変えたのは『一人一本令』だろうな」


 先輩の言葉に俺は長年の疑問をぶつけてみた。


「一人一本令って一体なんで採用されることになったんでしょうかね?」

「それまでのやり方じゃ生息圏がなかなか広がらなかったってこともあるだろうよ」


 先輩は棚から「森林再生法」などの書籍を並べて見せた。


「これらの本にもあるように、それまでのエルフの言う生息圏拡大法は木をたくさん生やして終わりというわけじゃない」


 思ってもみなかった話に俺は目を瞬かせた。



“ 「いい子にしてないとエルフが木の種を撒きにくるよ」


 グラスランナーに伝わる、親の言うことを聞かない子供に言う言葉。

 帝国の拡大期にエルフ達が森の周りの草原に 木の種を蒔きに来たことに由来。

 草原を中心に暮らしていたグラスランナーにはかなりの恐怖だったのだろう。”



「まずは木の種を蒔く。

その周りの下草を刈って肥料にもする。

木が育って小動物や鳥が移り住み、実がなるのを二回ほど待ってエルフが住める場所としていたらしい」

「かなり長い時間かかりますね」

「だから初代皇帝の頃には人口があまりにも増えすぎて、かといって平原にも出られず、かなり苦しい生活を強いられた人々が多かったようなんだ」

「そこで『一人一本令』ですか」



“巫女:エルフは、森と共に生きるのではありません。

僧:なんということを!

巫女:エルフは! 木と共に生きるのです!

皇帝:巫女様、よくぞおっしゃられた!これで人々は、生きる場を得ることができよう! ”


七大悲劇の一つ「皇帝と巫女」から



「これによって帝国の領地は飛躍的に広がった。だがそれは『森』ではなかった」

「かなり環境が激変したんじゃないですか?」

「したんだろうなぁ。

古都当たりを中心とした『樹上運送』が末期には廃れる勢いだったらしいから」


 ……『樹上運送』とは何なのか聞けないまま話は進んで行く。


「でもまあ、気を付けた方が良いぞ。

それ、劇のセリフだから」

「ああ、歴史劇だから創作も混ざっているんですね」

「そもそもばあさんだったらしいぞ、巫女」

「ええ!?」



“時代によって三大、五大、七大と増えていく 帝国を代表する悲劇のどれにも入れられる芝居の「皇帝と巫女」。


 書籍を調べてみると、当時の聖樹の巫女は引退間近の老婆。


 可憐な美少女巫女と初代皇帝との秘めた恋の……というのはどうも芝居の脚色であるようだ”



「最終的には巫女の発言がきっかけだったんだろうが、そこに至るまでの政治的な何やらはあったはずだからな」

「そちらの資料はないんですかね?」

「皇帝は神聖化されやすいからなぁ」


 それでも時と共に人々の考えは変わってゆく。



“各王の横暴さを思えば、皇帝という概念を考えたくもなる”


“皇帝一人の資質に左右されるものの、皇帝の政という形には有意な点がある”


“皇帝が支配することこそが繁栄の要であり、批判する輩は人ではない”


“皇帝などという古びた制度にいつまでしがみついているのか”



「末期とかに反皇帝の考えから帝国に都合の悪い事実とかの資料がまとめられたりしてないですかね」


図書室から宿屋への帰り道、先輩との別れ際に俺はそう愚痴った。


「地方にはもしかしたら帝国崩壊の被害から逃れた資料が残っているかもな。それらがやってくることを神に祈るしかないな」


 そう言って去っていく先輩の後ろ姿を見送る俺に、宿屋からリュートの音が聞こえてきた。


 そうとも。

 新しい情報はいつも外からやって来るのだ。



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