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人間とは

“「あの木泥棒をなんとかしていただきたい!


帝国初期の頃ならいざ知らず、初代様の『一人一本令』が出た後に木の一本たりとも無駄に切れるものではない。

それを奴らは大挙してやってきて木を切り倒しまくって去っていく。

……人間というお猿もお仕置きを受ける時間です」”



「……猿呼ばわりはひどいなー……」


 帝国中期ごろ、帝国と人間が関わり出したあたりの文書を読んで俺は頭を抱えた。


「『エルフの傲慢の証』といわれているけれど、 まあ、そう思ってもしょうがなかったと思うね」


先輩の言葉に俺は軽く頷いた。


「エルフとその頃の人間の間で木に対する扱い方が違いすぎたのはあったでしょうね」

「それで後に帝国崩壊の発端になったわけだし」

「相互理解のための努力はあったみたいですよ」


 俺は一冊の書籍を見せた。



“読者諸氏には想像できるだろうか?


見渡す限りの大地に木々は数えるほど。そのほとんどは農地で、麦畑が広がっている。

われらの街に穀物を売りにくる人間たちはそのような場所に住んでいるのだ。


彼らは魔力も扱えないが、頑強で真面目だ”


「人間 その驚異的世界」



「……というか、穀物を売りに来てたんですね」


 思わぬ帝国と人間の繋がりに俺は驚いた。


「エルフは昔こそ獣肉も食べていたが基本的に木の実中心の食生活だったことを考えれば、かなりの変化があったんだろうな」

「森か穀物か、悩ましい時代もあったようですし」



“「前々から私は申し上げておる。

皆様方が猿に毛が生えた程度に持っておられる 人間という種族がいかに帝国にとって脅威となり得るか。

帝国拡大の基本である森を、彼らは畑とかいうもののために焼き払うのですぞ!

……その畑の産物を取引している者もいるようだが?」”



「結局のところ帝国は人間を臣民として取り込む道を選んだ」


 先輩は俺に資料を見せた。


「辺境の方では住民はほとんど人間、エルフは役人として数えるほどという場所も珍しくなかったらしい」

「さぞかし派遣された代官は苦労したことでしょうね」



“任地に赴任して以来今まで連絡ができずに申し訳ない。

何せエルフより多種族が多い土地は初めてだったので安定するまで思ったより時間がかかってしまった。

そういえば「弓の練習をするといい」という忠告ありがとう。

こちらは武芸が盛んで、おかげで初対面の話題に困らなかった”



「それなりに溶け込んで重用されたものもいたらしいぞ。あまりに出世してまわりに妬まれた者もいたらしいし」

「その辺りは今も昔も変わりませんね」


 俺はため息をついた。



“「結論として、貴君らの報告はいらぬ世話であったと言わざるを得ない。

かの夜会で我が友人である人間の商人が連れてきた私について言及せず、連れてこられたかの館の貴人を持ち上げた?

そもそも、彼が私よりかの方を尊重していることを私が知らないとでも思っていたのか?」”



「そのあげくに帝国を滅ぼされているんだから世話がありませんね」

「『エルフはその身の傲慢によって国を失うことになった』とか教会で言ってるらしいけどな」


 そう語る人間たちにこそ、その傲慢がないと言えるのだろうか。俺はふとそう思った。


 今やエルフもドワーフも グラスランナーさえも、「人間」の名の下に自らの文化を塗りつぶされた上ですぐ隣で生きている事実を忘れ去っているのに。


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