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最果ての図書室にて

Twitter(X)で連載していたものをまとめました。

まわりの小芝居はオマケです。

『最果ての図書室にて』


“帝国の領土は広く、各地の気候も同一とは言い難い。


そもそも最初の五部族の名前も各地で生えていた特徴的な樹木に由来しており、それを見れば各地の違いが一目でわかる。


例えば「赤の部族」はその地に紅葉する落葉樹が多かったことに由来し、「青の部族」は……”



「帝国語は一通りわかっているようだな」


 俺は安堵のため息をついた。


 学舎を追われて幾年月か。代筆屋をやりながらの放浪の旅も限界だった。

 ひょんなことから紹介されたこの最果ての図書室での仕事をとり逃したら、おそらく今後学徒として仕事をすることは叶わないだろう。


「語学はいいとして、基本知識はどうかな?」


 図書室の先輩はそう言って何冊かを目の前に置いた。


「ここには帝国各地の書物が置かれている。帝国の歴史の区分は知っているか?」

「確か六つだったと」



“帝国の歴史を区分けするなら、六つに区分することができる。


まずは帝国以前。


次に破滅の獣の破壊からの復興時期。


各大公の勢力争いから始まる第一拡大期。


皇帝登場からの第二拡大期。


帝国外の各種族との交流が始まる成熟期。


そして現在だ”


“そして滅亡までの衰退期”



「だが、ここにある本のほとんどは成熟期以後のものがほとんどだ。なぜかわかるか?」

「古いから、というわけではなさそうですね。帝国外人向けではなかったから、でしょうか」



“帝国と人間との初接触は第二拡大期に起こった。


なぜ第一拡大期に接触は起こらなかったのか。


その頃、森の復興がある程度完成したことで各大公国はその領土を広げることにより権威を現すことに血道をあげた。


特に北に位置する二人の大公は……”



「エルフと人間との接触は第二拡大期以降。その前にはエルフ以外の者たちとの知識共有など考えもしなかっただろうな」

「でも先輩」


 俺は思わず口を挟んだ。


「エルフも人間だったんですよね?」



“「ラティーナ帝国」


森林とともに生活していた「エルフ種族」を自称する民族により建設された帝国。

千年にも及ぶ統治の後崩壊。


なお「神民化運動」の後、エルフその他を自称する者はいなくなった”



「ああ、“神民化運動”!”神民化運動”だ!」


 先輩はいまいましげに吐き捨てた。


「それが何だったのか、ここの書物を紐解くうちにお前も知るだろう。さてと」


 気を取り直すかのように少し頭を振ると、先輩は俺に向き直った。


「それらの認識は帝国崩壊後打ち立てられたものだ。

もちろんここの書物の大部分はそれらが広まる前に書かれたものになる。

それらを翻訳するときに心しておくことが何かわかるか? 」


 俺は手元に置かれた文章を見た。



“古来エルフとは、森と共に生きる種族であった。


帝国の第一拡大期には、木の種や苗を持ったエルフたちが周りの草原にそれらを植えて回ったという。


彼らが森をそれほど必要としなくなるのは、魔法を発見した第二拡大期まで待つ必要がある”



「……おそらく教会は『エルフは種族などではなく、そう自称する人間達である』と変更させたがるでしょう。……ですが私は」


 俺はかつて学舎を放逐されたときのように、 唾を飲み込んでから言った。


「そのような注釈は文の外に置くべきです。

書かれた文言は、そのままでその書物に存在するべきです」

「……なるほど。言いたいことはよくわかった……」


 相対していた先輩は、堅い表情のまま立ち上がり片手を上げ……俺の片手を取り握手すると にこやかに言った。


「最果ての図書室へようこそ」


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