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03. 幼


 部活を終えて帰ろうとする最中さなか、ハルカは校門の近くで一人立っているリョウタの姿を見つけた。


「みんなごめん、先に帰ってて」


 部活仲間にそう言うと、ハルカはリョウタの元へ駆け寄った。

 え、なになにそういう関係!? と仲間達から冷やかしの声が聞こえて、白い頬が紅潮する。


「リョウタ、どうしたの?」

「お疲れ。俺もさっき部活終わったからさ、ハルカのこと少し待ってみた」


 リョウタは照れ臭そうに笑うと、ハルカに一緒に帰ろうと言った。

 二人はゆっくりと並んで歩きだした。


「何か話してよ……」


 しばらく無言が続いたあと、ハルカがそう切り出すと


「あぁ……、部活はどう?」


 と素っ気なく言うリョウタに、せっかく二人きりのときにそんな話? と思うハルカ。


「なによそれ、もしかして緊張してるの?」

「ちげーよバカ、お前の様子が変だったから……」


 そう言われて、ハルカは初めてリョウタに心配されていたことに気づいた。

 他所よそのクラスの女子達から圧力をかけられて以来、リョウタと連絡をとることに消極的になってしまっていた。さいわい、あれ以降は何も言われていないのだが。

 リョウタが自分の異変に気づいてくれていたことが、ハルカには嬉しかった。


「ねぇリョウタはさ、いつからわたしのこと好きだったの?」


 唐突な質問に歩みを止めたリョウタは、珍しいものでも見た表情になる。


「あのさぁ。聞くか普通、そういうこと……」

「だって、気になるじゃん……」


 聞いておいて恥ずかしそうにするハルカを、リョウタは呆れた顔で見ると、過去のことを振り返った。


「ガキの頃にさ、よく一緒に公園で遊んだろ? 俺の運動神経をハルカが褒めてくれたことがあってさ、その時だった気がする。ハルカのことを意識しだしたの」


 そんな幼少の頃の話に、ハルカは意外そうな顔をした。


「え、そんな昔なの?」

「う、うるせーな。ハルカはどうなんだよ……」


 当然のように返ってきた質問に、ハルカは心の中で謝りながら


「秘密です……」


 と小さく言った。

 それありかよとリョウタに言われながら、ハルカは慌てて話を逸らそうとする。


「ねぇ、まだ神社巡りとかしてるの……?」


 リョウタは昔、神社の雰囲気が好きで、色々な神社に参拝に行くと話してくれたことがあった。


「あぁ、たまにな。てか俺の趣味、覚えてくれてたんだ」


 意外そうな顔をするリョウタに、ハルカは一歩近づいた。


「今度さ、わたしも連れていってよ。神社巡り」


 リョウタの好きなことに、ハルカは興味があった。


「もちろん。ハルカと行けたら楽しそうだ」


 リョウタは嬉しそうに言うと、ハルカの手をとった。

 夕暮れの帰り道に、二つの影が初々(ういうい)しく繋がった。





 帰り道をリョウタに途中まで送ってもらって帰宅したハルカは、夕食の支度を手伝っていた。

 フーフフーンと鼻歌交じりに食器を取り出していると


「あんた機嫌いいわね……。学校で何かあったの?」


 と母親の洋子が気にかけてきた。


「えっ、なにもないよ……?」


 彼氏に近くまで送ってもらったなんて言えない……、と思いながら平静をよそおうハルカは、逆に問いかけた。


「お母さんは、なんだか元気ないね……。なにかあった?」

「べつに大したことじゃないんだけど、アサガオを外に出すの忘れたのよ」

「え、それだけ?」


 ハルカは拍子抜けした。

 夏の風物詩とも言える植物のアサガオを、洋子は毎年夏になると支柱を立てた鉢で、種から育てているのだった。

 

「歳かしらね。最近、忘れっぽくなってきたわ……」


 洋子は雨風や日照りの強い日は、アサガオを室内に入れるようにしていて、翌朝それを外に出し忘れたという話らしい。


「別に大丈夫でしょ? お水と肥料あげてるんだし」


 そもそも、そんなに大切ならずっと室内に置いておけばいいのにと思うのだが、ハルカがそんなふうに考えているのを読み取ったのか、洋子が口を開いた。


「あんたねぇ、植物に光が必要なことくらい知ってるでしょ? 水と肥料だけって、それは私達に例えると食事と睡眠だけみたいな話よ? そんなの健康的じゃないじゃない」


 そう説明する洋子に、ハルカは納得のいかない目を向ける。


「十分健康的な気がするけど……。なら私達にとっての光ってなんなの?」


 問われた洋子は、うーん……と少し考えた。


「一言で表すのは難しいけれど、愛情……?」


 母親から出た愛情という言葉に照れくささを感じたハルカは


「ハイハイ、わたしはお母さんから愛情たくさん頂いてますもんね」


 と嫌味っぽく言って、話を終わらせる。

 そんなハルカに向かって洋子は小さくつぶやいた。


「そういうことじゃないんだけどなぁ……」





 夕食のあと、ハルカは自分の部屋で久しぶりに小学校の卒業アルバムを手にとった。


「うわー、懐かしい。あったね柳の木とか」


 ページをめくりながら、ハルカはリョウタの姿を探した。


「いた! あいつ今と髪型変わらないじゃん」


 小六の頃のリョウタや友達の姿を見てニヤニヤしながら、さらにページを進めていくと、ある写真でハルカの視線が止まった。

 それはクラス全員の顔と名前が載った個人写真のページ。


「どうしてこの子が……」


 そこには例の謎の女の子が幼気いたいけに写っていて、下にはミユナの文字があった。


(やっぱり……、写真の子と電話帳の子は同一人物だったんだ……)


 そして同じページにはハルカの顔写真もあった……。


(どういうこと……。ミユナはわたしとクラスメイトだった?)


 ハルカは他に彼女が写る写真がないか探した。すると、彼女は学校行事や教室の写真にも普通に写っていて、それはまるで普通じゃないのは何も覚えていない自分ではないかと思えるほどだった。


(ウソ……なんで何も思い出せないの? わたしは一体なにを忘れている……?)


 ハルカは怖くなって卒業アルバムを閉じた。

 椅子にもたれ掛かると、天井を見つめながら考えた。

 彼女は今どこで何をしていて、自分とはどういう関係だったのか……。

 同じようにクラスメイトだった友達に連絡して聞いてみるべきか、悩みながらスマホの方を見ていると着信音が鳴った。


(あっ、リョウタかな……?)


 ハルカが嬉しそうにスマホの表示を確認すると……。


 ミユナ──。





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