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4. 色々決めた

「おかえりー」

「ただいま……」


 俺のメンタルを抉った張本人は呑気にスマホを見ていた。

 席について、お茶を一口飲み、呼吸を整えてから、話し始める。


「さっきの続きだが、俺たちが同居してることがバレるのはまずい」

「うんうん」

「友達に詮索されそうになったら、なんとか回避してくれよ」

「任せてっ。それは陸人も同じだからね」

「あぁ。登下校の時間はズラした方がいいよな」


 高校まで行くためには、最寄駅から一駅いったところで降りることになる。マンション付近を通学路としている同じ高校の学生はそれほど多くないはずだけど、念には念を。


「わたしもそう思う。ねぇ、もしかして、友達呼べない感じ?」

「俺に関する物が一つでもあったら、終わりだからな」

「んー。じゃあ、陸人の物全部捨てていい? ダメ?」


 凪沙は上目遣いで、目が離せなくなるほど綺麗な目をパチパチさせて、俺に質問してきた。ねぇねぇ、どうしてそんな顔しながら、酷いこと言えるんですかね?

 この子、可愛く言えばなんでも許されると思ってない? 自分の武器を最大限活かそうとする姿勢は素晴らしい。が、いちいち凪沙の精神攻撃に動揺していては、これから先やっていけないだろう。


「いいわけないだろ」俺は声色変えず言う。

「ちぇっ」


 もし、同じマンションに入って行くところを見られて、俺が凪沙の元へ通い詰めてるとか、そんな噂が立ったら最悪だ。


 高校生というのは、火のないところでもバンバン煙を立たせる時期だ。ちょっとでも怪しいところを見せたら、平穏な高校生活は終幕を迎える。


 最新の注意を払っておいて損はないはずだ。


「まぁ、そこは追々考えよう」


 さすがに同居生活が終わるまで一切友達を呼べないというのも可哀想だと思う。俺は家に呼ぶほど仲がいい奴なんて知れているけど、凪沙はそういうわけではないのだろう。


「だねー。陸人だって、彼女の一人や二人呼びたいだろうしねぇ」凪沙はクスクス笑いながら、悪気100%の表情で言った。

「かもなー」


 こういうときは適当に流すのが一番! 扱いに慣れて来たな、俺も。


「……彼女……いる……の?」


 凪沙は驚きと困惑に満ちた顔をしていた。


「は? いるわけないだろ。彼女募集中じゃなかったら、さっき凪沙にドン引きされてねぇよ」


 彼女募集中だからこそ、俺の容姿がそれなりの評価を受けていることに過剰に反応してしまったのだ。

 まあ、その結果、心に深い傷を負うことになったわけだが……。


「そ、そうだよね! そうだと思った!」

「おい。言い方に気を付けろ。簡単に泣けるからな?」

「はいはい。超ダサい脅し文句をどうも」

「凪沙はいんの? その、彼氏とか」


 流れで質問してしまったけど、いくら幼馴染とは言え、こういう話題を訊ねるのは少し躊躇する。いや、むしろ幼馴染だからこそ、こういう話を気恥ずかしくなってしまうのかもしれない。


「わたし? いないよ」

「そっか」

「ホッとしちゃった?」


 妖艶な表情で、俺をからかうような声で凪沙は言った。


「んなわけねーだろ。まぁ、彼氏持ちと同居することにならなくてホッとした部分はあるかもな」


 どうやら俺の回答がご不満なようで、眉間にシワを寄せて、睨みつけられた。

 

 何を期待してたんだよ……。


 一通り決めておきたいことは決めることができたので、俺は逃げるように部屋に戻ろうとした時、凪沙の「ねぇ」という声で阻止された。


「どうした?」

「はい」


 凪沙はそう言って、ラインに表示されたQRコードを見せてきた。


「なにこれ」

「いや、見たらわかるでしょ。連絡つかなかったら困るから、教えといてあげる」


 まぁ、連絡は取れないと色々不便なので、上から目線なのが気になるが、波風を立てないように友達に追加しておいた。


「じゃあ」

「ちょっと!」


 今度こそ部屋に戻ろうとしたのに、また呼び止められた。

 どれだけ俺を部屋に帰したくないんだよ。おいおい、好きなのか? そんなことを訊いたら、ギネス級のドン引き顔を向けられるに違いないので、お口をチャックした。


「ん?」

「夜ご飯、なんか食べたいのある?」


 夕飯のリクエストがないかを聞きたかったのか。

 

 基本的に何でも食べれる。唯一、嫌いなものは──


「アスパラ。アスパラ以外なら何でも食べれる」

「へー、アスパラ苦手なんだ」


 なんだかとても悪そうな顔してるけど、大丈夫そ? 夕飯でいじめられない? アスパラ丼とかいう恐怖の食べ物出てこないよね? 


「じゃあ、買い物行ってくるね」

「お、おう」


 凪沙は財布とマイバッグを持って、軽やかなステップで出て行った。


 夕飯が出来上がるまでの間、恐怖に怯えることになった。

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