路地裏の12月⑧
「ねえ、サンタさん。
私、今年は可愛い洋服が欲しいな」
「俺のことをサンタさんって呼ぶなよ。
夢が無いだろ」
「じゃあ、サンタ兄さん」
「うるせえな」
「ごめんってば、ごめんごめん」
兄妹は街を歩いていた。
雪は降っていない。
ここは、
あの街からは遠く離れた、雪の少ない街だ。
「どんな服が良いんだよ?」
「んー、可愛いやつ。兄さんが選んでよ」
「いいけど、あんま期待するなよ」
「大丈夫。兄さんは変態だから、
きっとすごいの選んでくると思ってる」
青年は困った顔をした。
兄妹の目の前には様々な店が立ち並んでいた。
競うように、
各店様々な工夫を凝らし商品を宣伝している。
クリスマス商戦、というやつだろう。
兄妹は店を流し見ていく。
その時だった。
青年は見てしまった。
街端に置いてある大きなゴミ箱の、
その隙間から覗くいくつもの目。
これまで落としてきた首達の
冷たい視線が青年の心臓を貫いた。
彼は、その視線から目を逸らせない。
震え上がるような寒気に襲われる。
殺気が首筋を撫でた。
視界は何度も何度も暗転し、
その度にぼやけていく。
「ねえ、兄さん!ケーキ売ってる!
ケーキ食べようよ!」
妹の声が聞こえた瞬間に、
視線は消え、青年はケーキ屋へ
すごい力で引っ張られていった。
あの街を出てもう何年も経つが、
こういうことは度々あった。
きっと、これは呪いだ。
彼に首を落とされた人達の、
恨みが消える事は無いのだろう。
だが、その度に妹の声が青年を救ってきた。
彼は思う。
一生懸命に生きればいい。
それならば、人を殺してもいい。
どんなに不格好な生き方だとしても、
必死に足掻けばそれでいい。
だって、悪いのはいつもこの腐った世界だ。
だから、最後まで生きて欲しい。
死にたい、と下を向くより、
幸せになりたい、と足掻いて欲しい。
妹は不思議そうに首を傾げた。
「兄さん、どうしたの?ぼーっとして」
「少し気になる事があってな。
なあ、変なこと聞いていいか?」
「なんでも聞いて」
「その、今、幸せ?」
「え、言うの恥ずかしいなあ。
に、兄さんは?」
「恥ずかしいから、秘密」
「じゃあ私も、秘密」
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