路地裏の12月⑦
コツン、コツンと足音が聞こえてくる。
また、あの男が腐った飯を届けに来たのだろう。
少年は小さくうずくまり、目を閉じる。
恐らく、ここに来て数日は経った。
今日も、家畜に餌をやるように、
見下した態度で渡される飯を
食べなければいけない。
既に段々と身体が順応してきて、
腐った飯が食えるようになってしまっていた。
自分が醜くて嫌になっていた。
だから、
足音が彼の牢の前で止まったのが分かると
少年は耳を塞いだ。
せめてもの抵抗のつもりだった。
しばらく牢の向こうから何か聞こえてきたが、
無視を決め込む。
しばらくすると、急に音が止んだ。
男が去っていったのだろうと思い
耳を塞ぐのを止めると、
強烈な爆発音と金属が弾ける音が響き渡った。
少年は驚き飛び退くと、
少女の笑い声が聞こえてきた。
「もう、そんなにおどろかないでよ」
声の主によって、牢が開かれる。
「むかえにきたよ、お兄ちゃん」
「なんで、お前がこんなところに。
危ないだろ!こんなところに、いたら」
動揺する兄に、少女は優しく語りかける。
「大丈夫。私、そんなによわくないよ。
そもそもお兄ちゃんにナイフの
使い方教えたの、私だしね。心配しないでよ」
少女は兄の黒い鉄の足枷を
ナイフで砕いてみせた。
兄は少女を抱きしめる。
「手術、手術は上手くいったのか?」
「成功したよ。お医者さんも大喜びだった」
「そうか、そうか!良かった」
兄は彼女を抱き締めて中々離さない。
少女は言う。
「まあ、とにかく今はここから出るよ。
ついてきてね」
「ああ!」
2人は駆け出した。
「そういえば、お前。
その銃、どうしたんだよ。盗ってきたのか?」
「お医者さんがね、くれたんだよ。
昔使ってたやつ、らしいよ」
「へえ、昔、か」
首の無い身体の横を走り抜け、
兄妹は牢獄から脱出した。
雪は、もう降っていなかった。