表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
路地裏の12月  作者: 九頭
5/8

路地裏の12月⑤

「妹を、お願いします」

少年は医者へ頭を下げた。

「おねがいします」

それを見た妹も同じく頭を下げる。

医者は微笑みを見せ、言う。

「ああ、任せて。

今から30分後に手術やるから、

妹さんは待合室で待っててね。

少年は、手術終わりには絶対病院にいて。

手術、1時間くらいかかるからね。

分かったかい?」

兄妹は頷いた。

それから、

2人は待合室で静かにその時を待った。

緊張感が漂い、時間感覚が滅茶苦茶になる。

妹は、不安そうな表情で下を向いていた。

そんな彼女を見て、少年は笑いかける。

「そんなに緊張しないでもいいって。

大丈夫だから」

「うん、分かってるけど、

どうしても緊張しちゃうね」

「なら、楽しい事でも考えて

気を紛らわせようぜ」

「楽しいこと?」

「そう、楽しいこと。例えば、そうだ。

昨日も聞いたけど、クリスマス。

何をお願いするか決めたか?」

「昨日、寝ながら考えて決めたよ。

ぬいぐるみ!

私、可愛いぬいぐるみが欲しいな。

1人でいるの、寂しかったから」

「そっか、ぬいぐるみか。

うん、分かった。クリスマス、楽しみだな。

絶対、サンタさんは来てくれる」

「うん!」

妹は嬉しそうに答えた。

「2人とも。時間だよ」

話していると、

背後から医者に呼びかけられた。

彼はいつもの笑みを浮かべながらも、

どこか緊張しているような感じがした。

「お兄ちゃん。行ってくるね」

妹はそれだけ言い残し、

医者と共に手術室へ向かっていった。

妹の姿が、遠く離れていく。

そんな光景に少年は、

妹がずっと遠い所に行ってしまう気がして、

もう会えなくなってしまうような気がして、

泣き出してしまいそうになる。

姿が見えなくなる寸前に、

妹は振り返り少年の方を見た。

彼には、妹が不安と恐怖に

支配されているのが明白に分かった。

2人の姿が見えなくなる。

少年は病院を飛び出し、

街のおもちゃ屋へ向かった。


ぬいぐるみ。

可愛い、ぬいぐるみ。

テディベアで良いだろうか。

少年は大きいサイズのテディベアを

手に取り、感触を確認する。

彼はおもちゃ屋にいた。

それは、今年も良い子にしていた

妹にはサンタクロースから

プレゼントがあるはずで、

その役目を担えるのは彼しかいないからだった。

そして、手術を終えた

彼女の笑顔を見たいからでもあった。

「これが、いいかな」

少年は巨大なテディベアを購入した。

妹がぬいぐるみを抱いて一緒に眠れるように、

彼なりによく考えて選んだものだ。

少年は大きな袋を提げ、急ぎ病院へ戻る。

まだ、雪は降り続いていた。

彼は人混みを掻き分け、

風のように街を走り抜ける。

そして、少年は見てしまった。

街端に置いてある大きなゴミ箱の、

その隙間から覗くいくつもの目。

これまで落としてきた首達の

冷たい視線が少年の心臓を貫いた。

彼は、その視線から目を逸らせない。

震え上がるような寒気に襲われる。

殺気が首筋を撫でた。

視界は何度も何度も暗転し、

その度にぼやけていく。

すると突然、後頭部に衝撃が走った。

脳が激しく揺れ地面に倒れ込む。

遠く離れていく意識の中で見えたグレーの制服。

この街の、警察の制服。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ