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路地裏の12月  作者: 九頭
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路地裏の12月②

「行ってきます」

「あ、行ってらっしゃい」

「病院、早く連れていってやるからな」

「うん、ありがとうね。お兄ちゃん」

妹に見送られ、少年は路地裏へ出た。

ナイフを隠し溜息をつく。

彼は昔のことを思い出していた。

3年前のことだ。

俺と妹は捨てられた。

突然、住んでいた家からは遠く離れた

この街に置いていかれてしまった。

原因はどうせ大した事じゃない。

それでも俺らは必死で足掻いた。

足掻いて足掻いて、

ようやく今の暮らしを手に入れた。

今の目標は、妹の病気を治すことだ。

その為に、一刻も早く

金を稼いで病院に行かせなければいけない。

少年は路地裏を抜け、街へ歩いていく。

今日も雪は降り続いていた。

そして、街は血に染まっていく。


日が傾いてきた頃、

薄暗いテントの中に少年はいた。

盗品商のオヤジと向かい合っている。

「ほほお、コイツはすげえ」

オヤジは感嘆の声をあげた。

彼は透明な宝石で飾られた指輪を鑑定していた。

「そうなのか?その指輪、そんな高いのか?」

少年は首を傾げる。

「ああ、コイツは間違いない。

遂にやったな坊主!

妹ちゃんの病院代、これだけで払えちまうぞ!」

「本気か!」

少年はこれまでの

働きが嘘のような量の金を持って、

妹の待つボロ屋に帰っていった。

彼は不思議な気分になった。

今までは理不尽に降り掛かる不幸しか見えなくて

他人の幸福を妬んで生きて来た自分が、

幸せな、雪で遊ぶ子供達や

手を組んで歩く恋人達の姿を見て

素直に羨ましいと思えてしまったのだ。

妹の病気を治したら、

2人で金を稼いで、

あんな風に、幸せに生きていける。

不意に思い描いてしまった甘い未来に

少年は笑みを零した。

その時、何か視線を感じた。

どこまでも冷たい、視線だ。

少年はそれが何者かのものか

勘づきその方を向く。

路地裏のゴミ箱から

お姉さんの光を失った目がこちらを見ていた。

「はは、やっぱり、そうだよな」

俺は沢山の人を殺した。

沢山の幸せを奪った。

それなのに、

自分ばかり幸せになるのは、不公平だ。

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