9話 黑き魔獣
不気味な音が流れるとウルフの様子が変わった。
黒く変容したウルフの気配はもはやウルフと言えるものではなく、ウルフに似た何かと言うのが正しい。
「フェリカ!避けて!」
そのウルフは先ほどの2倍以上の速度でフェリカに襲いかかる。
「くっ!」
「≪神気解放≫!」
僕はとっさに神気を使いウルフに詰め寄るとフェリカとの間に入ってウルフの爪撃を受ける。
「っ!これは…!」
Dランク程度の実力はあるだろうか。神気を使用しているにも関わらず腕に重い感覚が走る。
しかしこれでヘイトが僕に向くはずだ。ウルフにすれば強いが僕の相手じゃあない。そう思ったのだがー
「えっ!どうして私ばっか狙ってくるの~」
このウルフは執拗にフェリカを狙っている。
「フェリカ!背を向けないように!」
「わかっ、てるけど!」
そのウルフはフェリカと僕の間に入り援護出来ないように立ち回っている。どうやら頭もよくなったらしい。
しかし言い換えれば挟んでいると言うことだ。フェリカを守るという依頼には反するだろうけど、早く倒すことがフェリカを守ることに繋がる。
「フェリカあの木に向かって魔法を!」
「っえ!?何を撃てば?」
「なんでもいいから早く!」
「氷の矢!!」
ウルフ魔法の発動を察知して一瞬だけひよる。その刹那ー
「はぁぁぁぁぁ!」
僕は溜めた神気を一気に解放し瞬間的に驚異的なスピードでウルフをなぎ払う。
さすがの黒いウルフでも致命傷だったのだろう。傷口から魔力が溢れて形がなくなると魔石だけが残った。
「や、やった!」
フェリカは相当疲れたようで座り込んでしまう。無理もないか。かなりの強敵であったことには違いない。
しかしだ、
「まだ喜ぶには早いよ。どうやら音を聞いた他のウルフが来たみたいだ」
「えぇ?」
影から黒いウルフが3匹。見たことの無いそれについて今の今までの情報をかき集めて推察する。
「フェリカ、どうやらあのウルフたちは操られている可能性が高い。原因は分かんないけど狙いは君だ。」
ウルフとのにらみ合いが続く。
「ウルフからすれば自身を狙う相手に対して攻撃的になるはずだ。でも僕がいくら引き付けても君ばかりを狙っている。外的要因により洗脳か操り人形にされているんだろう」
「そんな…。一体誰が?」
「分からない。けどその在り方はウルフ、いや生物としてあまりにも不自然だ。」
「じゃ、じゃあどうすればいいの?」
ウルフがじわじわと距離を縮める。僕は周りの気配を探るが人らしき気配を感じられない。いや、あったとしてもこの森にいる冒険者には荷が重いだろう。
「フェリカ、立たなくていい。魔法は撃てるかい?」
「うん、そんなにたくさんは出来ないけど、」
「十分だ。1対3なら厳しいけど、2対3なら何とかなりそうだ」
「どうすればいい?」
もっと弱音を吐くかと思ったけど、十分肝が座っていて感心する。
「僕に釘付けにして3対1状況にもってくるから援護攻撃をしてほしい」
「でも連携なんてしたこと無いし、それに釘付けにするって言ったって、そんなこと出来るの?」
「大丈夫。フェリカはセンス良いから、直感でやってもらえればいいよ。それに僕に考えがあるんだ」
「分かった。でも無理はしないでね。危険だったらすぐに逃げて良いから!」
優しいな。この状況においても他人の心配が出来るだなんて。なかなか出来ることじゃない。
僕はその声を聞いて一息置くと、
「よし、行くよ!」
体内の神気を集めて一気に解放する。
「《神の衣》!」
金色のオーラを身体を包み目が赤く染まる。
するとフェリカを狙っていたウルフたちはこちらを見るなり、突然襲いかかる。
僕は剣を持ち3匹のウルフの攻撃を受ける。
ウルフは地面を蹴りると木に登り、様々な角度から僕を狙ってくる。そこに
「氷の矢!」
フェリカの攻撃がウルフの行動を抑制する。
僕は出来るだけ動かずにウルフの攻撃を受け流している。
激しく動けばかえってフェリカの援護が無駄になるからだ。
他にも理由はあるのだが。
ウルフ3匹による猛攻は長くは続かなかった。
10分もしただろうか。
いくら強化されているとは言え、10分間全力で動けばさすがに息切れもするだろう。予想通りの展開だった。
「ネシア、ウルフが…」
フェリカも細い声で語りかける。魔法を使い続けたからだろうか、魔力の限界が近いんだろう。
「うん、これで決着だね。ありがとうフェリカ。助かったよ」
僕は神気を収めてフェリカの方を見る。
「そう…。ごめんちょっと寝る、ね」
魔力切れと魔力酔い、そしてウルフの様子を見て安心したのか疲れが表に出たみたいだ。
「おやすみ、少し休んでてね」
フェリカが木にもたれて眠りに着くのを片目でながしウルフの方へ向かう。
グゥゥゥゥ…
威嚇こそしているが3匹とも四肢が震えている。立っているのも限界なのだろう。なにか特徴がないか見てみるものの、見た目とそれに付随した身体能力の向上以外に操られた痕跡とかは見られなかった。
このウルフたちもきっと被害側なのだろうと思うがこのまま生け捕りにする余裕もないので斬らせてもらった。
「僕も疲れたかな」
戦闘が終わると僕は急に体の力が抜ける。こんな感覚はいつぶりだろうか。僕はフェリカの傍で休むことにした。
どのくらいの時間が過ぎただろうか、
「あわわわわわわわ!」
「ど、どうしたの!?」
フェリカの慌てる声に急に眠気が覚める。僕も気づかない内に寝ていたようだ。周りは夕暮れの時間で川の水音だけが聞こえる心地よい空間だ。一方のフェリカといえば、
「な、な、な、なんで膝枕なんかしてくれちゃってるの!?」
沈みかけの日に当たって余計に顔が赤く見える。
「だって膝枕すると喜ばれるって本に書いてあったし、頭も痛そうだったから」
「はぁ~、ネシア。この際だから言っておくけどこういうのはほどほどにね」
フェリカは頭を抱えている。
「?どうしてさ」
「ねぇ、あなたねぇ~。こ、こういうのは仲のいい者同士でやるのよ」
「え?僕たちもう仲良しかと思ってたんだけど」
「そ、そうじゃなくって!はぁ~あもういいわ」
なんか呆れられたみたいだ。
「それで、例のウルフは?」
「うん、倒したんだけど、魔石に変化は見られなかったよ」
「そうじゃなくて、どうやって倒したのよ。ずっと私を狙ってたのに急に・・・」
「あぁそれね。僕が神気を使ってウルフの本能を呼び起こしたんだ」
「どういうこと?」
「仮に何かに操られているなら本能に蓋をして目標をこなすと思うんだが、命の危険がはっきりすると本能的な対応が求められるんだ。ほら、僕たちもどんなに大事なものが失われそうでも命にはかえられないでしょ」
「なるほど・・・。それでネシアは神気を使って本能部分に警告したんだ」
「まぁ敵意をむき出しにして威嚇しただけなんだけど」
「それにしたって一体どうしてこんなのが・・。」
「うん、それについてはギルドに報告しようと思う。とりあえず夜になる前に森を出よっか」
「そうね、今日は散々だったわよ。早く帰って休みたい~」
「はは、気持ちはわかるが帰るまでが依頼だからな」
「はいはい、わかってますよ」
先を行くフェリカは振り返って笑顔で話す。思った以上に元気そうで何よりだ。トラウマにならないか心配していたんだが。芯はしっかりとしているんだよな。
しかしだ、今日はどうにかなったがウルフ以上の魔獣が狂暴化したらさすがに危なかった。妙な気配も感じられたし何か大きな事件に巻き込まれていく気がした。
黑い魔獣は一体何なんでしょうか!?
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次回もお楽しみに!