8話 リベンジマッチ
数日間に及ぶ訓練の後、フェリカはいくつかの討伐依頼のある掲示板を見て悩んでいた。
「うーん、どれがいいかしら」
彼女の選択肢は3つ。ウルフの定期討伐と、ホーンマウス、ブルーバードだ。
「ウルフがいいんじゃないかな。ホーンマウスみたいな小型は特訓の成果でなさそうだし、空を飛ぶ魔獣には中距離の魔法中心の戦いになるからね。リベンジと言う意味でもウルフがいいと思う」
「なるほどね。うん、そうしようと思う」
ウルフを勧めた理由。
僕が言ったことは嘘ではないが、実は気になることもあった。前回の特殊なウルフだ。フェリカもけがをしていたから深追いはしなかったが、初めて見たタイプだった。出来るなら手がかりでも掴みたいものだ。
「ミアムさん、おはようございます!この依頼を受けたいんですけど」
フェリカはウルフの依頼が書かれた紙をもって受付カウンターに向かう。
「あ、おはようございます。フェリカさん、ネシアさんも」
「うん、おはようございます」
「ウルフの定期討伐ですね。数は指定しませんが、2,3匹程度で大丈夫ですので」
「分かりました!」
「ネシアさんも付いているので大丈夫かと思いますが、討伐依頼は十分気を付けてくださいね」
「大丈夫です!私強いですから!」
よくもまぁこんな自信満々に言うなぁ。まぁでも今の彼女なら余裕だろう。僕の見立て的には既にDランク程度の実力はあるだろうが。
僕は生暖かい目でフェリカを見る。
「そう言って大ケガをした冒険者を何人も見てきました。油断は禁物ですよ」
ミアムさんは語気を強めて言う。その通りだ。慢心は命を奪いかねない。何よりの敵は自分の心だろう。
「あぅ、すいません」
フェリカは気圧され委縮する。
「分かればいいんですよ、それでは頑張ってくださいね」
ミアムさんは依頼の紙にスタンプを押す。
「はい!」
「よし、準備整えたら森に行こうか」
「分かったわ」
ケネアの森に移動中、フェリカはふと質問してくる。
「どうして定期討伐って依頼名なの?」
「あぁ、増えすぎたウルフが街道出て通行人を襲うことがあるんだよ」
ケネアの森でウルフは中上位群の魔獣だ。生態的な天敵も少なく増加傾向にある。魔獣の生態系の維持や、街道での被害を未然に防ぐために、王国から定期的に討伐するよう依頼されるのだ。
「ウルフの基本は分かってるね」
「うん、基本は1対1で、急襲から短期決戦ね」
「そうそう、ウルフは群れると危険だ。それとウルフに限らずだが、不意打ちから一気に決める。騎士道に反するから王国の騎士様からは嫌われるけどね」
「うーん、合理的でいいと思うけどなぁ」
「おっとそろそろだな、ここからは静かに動いてウルフを探そう」
「分かったわ」
フェリカは声をひそめて森の中を歩いていく。僕はその後ろをついていく。
「!!いた」
木々の間の少し広めな平地に1匹のウルフが、休憩中のようだ。
「よし、後ろ回り込んで仕掛けるか、1人で大丈夫かい?」
二人で戦ってもいいと思うが彼女の成長のためにも一人でやってもらう。
「だ、大丈夫よ」
そういうフェリカの手は震えている。僕は彼女の手に自分の手を重ねて、
「心配するな、フェリカは強い。僕が保証するよ。自信をもって、ね」
緊張からかフェリカの頬が赤くなる。
「う、うん分かったから。行ってくるね!」
彼女はウルフのほうへ向かう。
ウルフとの距離が感づかれるところまで来る。一呼吸整えると、
「やぁぁぁぁぁ!!」
自己強化魔法で速度を上げてウルフに向かい剣を突き立てる。完璧な不意打ちだったがウルフはお得意のスピードを使って間一髪、フェリカの突き攻撃を避ける。が、
「アイスランス!!」
フェリカはそれを予見したかのように氷の矢を3本放つ。これが僕と彼女の特訓で得た1番大きな成果だろう。僕は魔法が使えないので詳しいことは分からないが、魔法を同時に複製することはかなり高難易度な技術らしい。また、それを実戦で使えるようにするあたりはさすがの才能だと感心する。
彼女の魔法はウルフを狙うも動きを制限するような軌道を描く。ウルフはそれを飛び越える形で避けるがー
「お見通しよっ!」
フェリカは浮いたウルフに向かって地面を蹴り上げると、そのままウルフの頭を弾いた。
一瞬だった。反撃の隙も与えないままあっさりと倒した。
「意外と簡単だったわね…」
「だから言ったでしょ、よしこのままサクッと終わらせるぞ」
「よーし、どんどん行くわよ!」
今度はさっきとうって変わり自信がついた様子だ。
しばらく進むと今度は川沿いに2匹のウルフが見つかった。どうやら水浴びに来たようだ。少し離れた位置から僕は
「2匹相手なら引き目に戦って隙を伺うのがいいがウルフの特性的にそれは難しい。だから1匹は僕がひきつける」
「一人でも大丈夫よ」
実力的に問題ないだろうが
「まぁ今後僕たちで連携する際の参考にしたいからな、それに僕が倒すわけじゃない。フェリカが片方倒したらこっちも担当してもらうつもりだ」
「そういうことね、だったらネシアの言う通りにしようかしら」
「!あぁ、僕がウルフたちに割って入るから近いほうを担当してくれ!」
「りょーかい!」
フェリカの元気な返事をよそに僕は剣を引き抜いて2匹のウルフに割って入る。
グルルルルルル!!
僕が2匹の注目を集めていると
「行きます!」
フェリカが一方のウルフに仕掛ける。僕はもう一方のウルフと向き合うと
「さて、軽く遊んであげるかな」
僕はウルフの動きに剣を合わせる。
突進を避けるとウルフの長く鋭い爪と剣を交わす。
「いい感じだな」
フェリカとウルフの気配を感じながら戦闘を進めていく。フェリカの相手をするウルフはだんだんと消耗しているようだった。なにも問題ないかと思った、その時_
フェリカ側のウルフの気配が大きく変わった。僕は咄嗟に目の前のウルフを切り捨てると
~~~♪
と管楽器のような不気味な音が流れる。
「フェリカ!!そいつから離れろ!」
そのウルフは先ほどの2匹とは違い爪や牙はさらに長く毛並みが逆立っている。何より黒く染まった毛と赤い目がいっそう不気味に感じた。
フェリカの才能が存分に発揮されました!
次回は7月4日19時に投稿予定です!
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次回もお楽しみに!