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6話 実戦

ケネアの森


王都と港町アルメディオをつなぐ中規模の森だ。比較的魔獣も弱く、駆け出し冒険者にぴったりの場所だ。昨日出たロイヤルオークなんて異常なくらいだ。これについては王国騎士団が森に調査を入れているらしい。


「ふぃーこれで最後っと。」


フェリカはかなりテンポよく薬草を集めていた。薬草産地の特徴もよく把握しているようだった。


「こんなもんね、楽勝だわ」


「だけど周囲の警戒を怠りすぎだよ。」


「何よ、ここにいる魔獣なんて大したことないんでしょ」


確かに俺からすれば大したことないんだが。


「そうだけど、そんな考え方だと足元救われるよ」


「ふん、あんたは見てればいいのよ、見てれば」


かなり自信満々に言う。しかし、


...気配がする。ウルフだろうか。


囲まれているな。僕はさっそうと木の上に飛び乗り彼女の様子を見る。どうやら彼女は気づいていないようだ。さて、お手並み拝見と行こうか。いざとなれば僕が入ればいい。


グルルルルルル!!


茂みに隠れていたウルフが一斉に姿を現す。灰色や茶色の魔獣で爪や牙を使いスピード感ある戦闘が得意な魔物だ。


「ーっ!!」


彼女は腰にある剣に手を掛ける。周りには4匹のウルフ。四方を囲まれている。


グァァァァァ!!


「っく!!」


とびかかるウルフを剣で受け流す。


ウルフは連携する魔獣だ。


単体なら大したことなんだが、連携されるとそこそこ面倒だ。


しかし彼女もうまく立ち回っている。死角を作らないように動きながら隙を伺っている。


だが戦闘は平行線をたどり、


「はぁ、はぁ」


フェリカは息を切らしていた。


これではしんどいだろうか。駆け出し冒険者がウルフの依頼をこなすときは一体ずつ襲撃する方法をとる。そもそも正面切ってやりあう相手ではない。1対1なら倒せる実力はあるのだろうが。


「きゃぁ!」


彼女はウルフから攻撃を受けてしまう。助けに入ろうかと思ったその時、


「やってくれたわね!もう許さない!!ファイア!!」


彼女ウルフに向かい手を上げが叫ぶと火の玉が現れる。


へぇ、あれが魔法か。何もない所から火が出てくるなんてすごい技術だ。彼女のファイアはウルフに命中するとやがて燃え広がり倒れていった。


「やった!」


この調子でいけるかと思ったがやはりそう簡単ではない。魔法を使えないようにウルフたちは連携を強めて彼女にかかる。さすがにここまでだろうか。


「さてと、」


僕は木を飛び移り1匹のウルフの真上に移動する。静かに剣を引き抜くと飛び降りて上からウルフの喉元を刺す。


「ぁ。」


彼女のか細い声が聞こえる。他のウルフの視線を集める。かなりご立腹のようだ。さっきより目つきが鋭くなっている。1匹が襲い掛かる。僕は身を動かすだけで1歩も移動せずに避けると背を向けたウルフに刃を突き刺す。


いや、突き刺したつもりだった。見ていなかったため、読み間違えたかもしれない。


「!!消えた」


すぐさま後ろからもう1匹が襲い掛かる。僕は振り向きもせず剣を逆手に持ち替えるとそのままウルフの胸元を貫く。


「こんなもん、だよね」


感じたことのない違和感を覚える。


俺は再び周囲に意識を集中する。


あのウルフは普通じゃない。


ウルフの皮を被った()()だ。


もう気配は消えていた。


僕は剣を収めウルフの魔石を拾う。


「あ、ありがとう」


「あぁ、薬草採取だからと言って気を抜くと痛い目見るぞ。ほら怪我の様子は?」


「う、うん。ここ。」


彼女は腕にかすり傷があった。


ちょっと遅かっただろうか。


サイアス伯爵に見られたら何を言われるか。


僕は彼女の持つポーションを手に取ると傷の位置に振りまく。


すると傷はみるみる消えていく。


「すごい...!!」


「ポーションを使ったことがなかったんだね。ポーションは傷口を消せる効果があるんだ。でも出血は戻らないし、疲労回復の効果もないから応急手当程度に思っといたほうがいいね。まぁ今回は傷も浅いし問題ないとは思うけど。ほら、早く帰るろう、日が落ちちゃうから」


「うん、ありがとう、ございます。」


彼女はうつむきながらそう答える。


フェリカは最後の薬草をしまうと2人で帰路に就く。


帰り際に会話はなかった。


あのウルフのことを考える。


王都西門の直前で彼女は立ち止まると


「ごめんなさい、あなたの言うとおりだった」


「なんだ、怪我をさせたから怒っているのかと思ってたんだけど」


「そんな我儘じゃないわよ!助けてくれたんだし、感謝してるわ」


ふむ、少し考える。


確かに彼女はセンスありそうだし、初陣も果敢に戦ってはいたのだが、僕はある提案をする


「もしよかったら、依頼の隙間にでも剣の稽古をしない?」


「え?」


「もちろんあなたが命の危機を迎えたら助けに入るけど、そんなことばかりしてたら成長できないでしょ。かといって放置してあんたを死なせたらサイアス伯爵に合わす顔もないからね」


「確かにそうね。私がまだまだ未熟だってことも分かったし、何より強くなりたいもの。お願いするわ。」


「わかった。そういえば、魔法はどのくらい使えるの?」


「??初級レベルなら」


「そうなんだ」


それを聞いた彼女はニヤッとして


「もしかして、使えないのwそういえばあなた魔法使ってなかったわね」


「必要なかったからね」


彼女は声色を上げて、いかにもお嬢様っぽく、


「あら、言い訳はよして。私が教えてあげるから」


「はぁ~、結構です」


彼女はムスッとして


「何よ、稽古をつてくれるお礼よ。それに一方的に教えられるのも癪に障るわ」


「まぁおいおいね」


「はーい」


彼女はにこっと笑うと僕を追い越して西門を通り抜ける。


「んぁ~~、疲れた。報告終わったら食事にしましょ、もうクタクタだわ」


「そうだね」


ここに来て1年。誰かとこんな風に過ごしたのは久しぶりだ。


彼女も悪い子じゃなさそうだし、何とかやっていけそうだ。


潮っぽい風が僕の頬を撫でる。


僕はふと立ち止まる。ただ、気になる点が1つ。


(また見られてる、)

敵意は感じられない、観察が目的なのだろうか。


少なくとも今は。サイアス伯爵の目的は何なのか再び整理する必要があるな。


「おーい、置いていくよ~」


「うん、すぐ行く」


僕は不穏な空気も感じながら街の中に消えていくのだった。

フェリカのセンスが感じられるお話でした。


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次回もお楽しみに!

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