3話 会談
会談当日。
王都にあるサイアス家の豪邸の一室に招かれた。
僕が会って話をしたいということは織り込み済みだったらしい。かなりスムーズに事が運んだようだ。
部屋に入ると依頼主らしき人物が机を挟んで座っていた。後ろには執事さんも立っている。
「ようこそ、ネシア君。私がサイアス家当主テオドア・サイアスだ。さぁさぁこちらにかけてくれ」
金髪の荘厳な雰囲気をまとうおじ様だ。いかにも貴族らしい服装をしている。
僕は彼の前ソファに腰を掛ける。
「これは私の故郷で作られるお菓子だ。口に合うかは分からんが食べてみてくれ。」
勧められたバスケットの中にはクッキーらしきものが入っている。。
「あ、ありがとうございます…。では、いただきます」
1口サイズのクッキーを手に取って食べる。
「おいしい!」
自然な甘みでしっとりとしたクッキーだ。
「そうかそうか!それはよかった。実は砂糖は使わずに特産のハチミツを代わりに使ってるんだよ。わが地元の自慢のお菓子なのだ」
なるほどと思わず餌付けされるところだった。見た目に沿わず温厚な御方みたいだ。
だったら尚更怪しいのだが。
「こんなおいしいお菓子は初めてです!」
お世辞ではないが機嫌取りのためにそう言う。
「ふ、そうだろう、そうだろう!それにな...」
「テオ様次の予定もございますのでそろそろ本件に入りましょう」
後ろに控えていた執事さんがコソコソ言う。
「おー、そうだな。して聞きたいことがあるのであればお答えしよう!」
テキトーにはぐらかしながら聞こうとも思ったが回りくどいのは嫌いだから直球でいこう。
「依頼内容の詳細を確認したいんですが」
「うむ、わが娘フェリカの護衛だ。もうすぐ14でな、冒険者デビューが近いのだ。そこで君と組んでもらい経験を積ませたいのだ。」
引っかかるキーワードが多すぎる。
まず14で冒険者という選択だ。
裕福な家庭、とりわけ貴族は本来学園に通うのが一般的だ。さらに言えばそうでないとしても貴族ならば騎士団に入るとか、跡継ぎの補佐的な役割だったり保険に掛けられるものだろう。
冒険者という選択肢万一にもありえない。
「はっはっ、難しい顔をしておるな。君の疑問はごもっともだ。1つずつ話していこう。」
僕の顔を見て何を考えているか察したようだった。サイアス様は続けて言う。
「まずフェリカには10歳上の兄がいてな。既に婚約もしており子を授かっている」
なるほど跡継ぎに困ってないのか。
「私たちは学園や騎士団入りを勧めたのが頑なに嫌がるのでな。まぁ、これまでずっと縛り続けてたからな、自由な冒険者にあこがれたのだろう。いずれは家に戻ってもらうつもりだが今くらいは好きなことをさせてあげたいのだよ」
そういうものなのかと思う。
僕とは真反対の境遇で想像できないな。
サイアス伯爵はさらに続ける。
「加えて言えば我々はサイアス家でも分家に当たる家系でな。複雑な事情があるのだが1代限りの伯爵家なのだよ。私が爵位を譲ればわが一族は男爵に格下げだ。今は兼任しているだけなのだ」
そういうことか。
ふと思い出した、これを1番聞きたいことだった。
「なんで僕を指名してくださったのですか?僕は最近ローグ卒業したばかりですよ」
これを聞かないことには納得でない。
「実は娘が冒険者になりたいと言い出した時から調査していたのだよ。条件は真面目且つ低ランクし冒険者だ。」
なんともよくわからない基準だな。
「君はローグでありながらクエスト失敗はおろか早いうちにランクアップ制限まで到達していたそうではないか。腕も立つのだろう?」
ふむ、確かに僕はローグとしてはかなり堅実な過ごし方をしてきたし、爺さんに鍛えられた剣術のおかけでクエスト失敗もなかった。
「あと、名のある冒険者はな、貴族や王族の息がかかることが多いのだよ。娘は未熟故そういった面からの危険もある。だから注目されておらず腕のある冒険者を探しておったのじゃ」
確かに僕は目立つのは嫌いだから静かにやってきたつもりだ。
「なるほど、分かりました。続けて報酬の件についてですが・・・」
まだ納得はできないし疑いは晴らしきれないが言いたいことは分かった。
この後1時間くらいの対話が続いた。
報酬に関しては依頼の金額はもちろん衣食住まで付いてくるという破格の待遇ぶりだった。
ただし娘の護衛として冒険の同行はもちろん危険がないかある程度の監視としての役割もあるとのことだった。
確かにこれでは個人としての自由はなさそうだった。
しかし衣食住に苦労してきた身としてはあまりに魅力的な依頼であることは確かだ。
「本日はありがとうございました。また受注の決定はギルドを通してお伝えすることになると思います」
「そうか、いい返事を期待しているぞ!」
屋敷出る。正直即決なのだが時間をおいて考える必要があるため一旦保留させていただいた。
冒険者ギルドに戻ってミアムさんに相談しようと思う。
まだ日暮れ前なのでギルド内は静かだった。
入り口からカウンターに行く際にかなり派手な装備を持つ少女とすれ違う。
見たとこ同い年くらいだろうか。ブロンドのロングヘアで気の強そうな少女だ。
目が合うが何事もなかったかのようにすれ違う。
「おーい!ネシアさーん」
ミアムさんが声をかけてくれた。
カウンターのほうに進む。
「こんにちは、今の人は?」
「冒険者登録に来たみたいで。私の担当じゃなかったので詳しいことは分かりませんが、かなり上等な装備そうでしたよね。それで会談はどうでしたか?」
ミアムさんは興味津々に聞いてくる。
僕は会談の内容を大まかに話した。
「なるほど~、サイアス様は王からの信頼も厚い方なので信用してよいかと思います。それでお受けになりますか?」
「えぇ、待遇もよさそうですし」
正直、日銭を稼いで生きていくのも選択肢にあったのだが。
豪邸に行ったらそういう生活もいいなと思うようになったのが本音だ。
「分かりました、ではそう伝えておきますね。開始は1週間後からになります」
「分かりました。」
「はぁ~、2人きりかぁ。ずるいなぁ」
ボソッと声が聞こえる。
「??なにか言いました。」
「い、いえなんでもありません!」
まだ時間は昼過ぎであるのだが今日は宿に戻ろうと思っていた時、
「き、緊急です!!」
入り口から鎧を着た兵士が駆け込んでくる。
なにか面倒な予感がする…。
会談が順調そうで何よりでした。それにしてもなにやら不穏な声がしましたね。一体何が起きるのでしょう⁉
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次回もお楽しみに!