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妹シリーズ

「協力してくれなきゃ、貴女を殺して私も死んでやる」とお嬢様に言われたので、渋々協力することになりました

作者: あかり

 私は、とある乙女ゲームの悪役令嬢「メリッサ」に仕える侍女である。名前はセラと言う。

 前世の記憶を持つ私は、前世の記憶をつぶやいてしまったがために、メリッサ専属の侍女から、なぜか妹であるアデル専属となった。

 アデルに「知っていることは全て言いなさい」と、言われたときは、面倒ごとに巻き込まれたくなく、すっとぼけていた。しかし、アデルは何処からか刃物を取り出して……

「教えてくれなきゃ、貴女を殺して私も死ぬ」

と、脅すものだから、仕方なく全て話しましたよ。


つい、意趣返しで「アデル悪役ルート」が教えてしまいました。そして、そのことを話しまったことが運の尽き。「アデル悪役ルート」について根掘り葉掘り聞かれてしまった。しかし、どんなに詳しく説明しようとも、私は「アデル悪役ルート」は未プレイ。うわさで聞いた「アデルがアンドレンの婚約者になる」こと、「この国の王妃となったアデルは、隣国の王妃となったメリッサに殺される」ことを説明した。


泣くかな?と少し心配になったが、なんとこのお嬢さん喜びだしましたよ。その喜びように思わず引いてしまいました。だって…・・・

「やった!私が死ねばいいのか!!」

 と言って、飛び跳ねて喜ぶんですよ。頭がおかしいとしか思えない。逃げるように、アデルの部屋を出ようとしたら、いきなり腕をガッシリつかまれてしまった。

「セラ、お願いその『ルート』になるように協力して」

「嫌だ」

 アデルは私に協力を請いてきた。しかし、私は速攻で断った。

だって、「悪役ルート」への手助けなんて、自分で破滅フラグを立てるようなことしたくない。異世界転生したのだから、そう簡単に死にたくない。

「私に協力してほしかったら、土下座して」

「ドゲザって何?」

 断る口実に土下座を要求すると、アデルは土下座について聞いてきた。だから、懇切丁寧に土下座のやり方と、土下座がいかに屈辱的なことなのかを説明した。

 そしたら、このお嬢さんときたら、満面の笑みで土下座をしてきた。そして火のついた燭台を取り出して一言。

「協力してくれなきゃ、この部屋に火を付けて一緒に死にましょう」

 アデルのこの言葉に絶望した。協力しても、協力しなくても死亡フラグが立つ。だったらまだ長生きできる『アデル悪役ルート』に協力した方がいい。私は渋々協力することにした。


 まず、最初にして最大の難題はどうやってアデルがアンドレンの婚約者になるかだ。メリッサは生まれたときからアンドレンの婚約者である。そこで私がアデルに「クソ妹作戦」を提案した。

 今、「小説家になろう」で密かに流行っている「クソ妹」。姉の持っているものを何でも欲しがるクソ妹は、たいてい、姉の婚約者も欲しがる。これなら、アデルがアンドレンの婚約者の地位を欲しがってもおかしくない!!

 しかし、この作戦には一つ欠点がある。両親がまともだとアデルは速攻で修道院送りになってしまう。今のところ、侯爵・侯爵夫人共にまともな人である。そのことに、頭を悩ませていると、

「いい方法がある」

 アデルはそう言い、私を伴い王宮図書館に向かった。王族に関する書物が多く置いてあるため、普通は王族以外立ち入りが禁止されているが、侯爵以上で高位文官職に就いている者、または王族から許可を得ている物は例外として蔵書を閲覧することが許されている。アデルは、メリッサの妹ということで王宮図書館の蔵書の閲覧が許されている。

 守衛に入館証を見せ王宮図書館の中に入ると、人目を盗んで鍵を開けて閲覧禁止エリアに入った。アデルがピッキング道具を取り出したときは、思わず逃げ出したくなった。何でできるのか聞いたら、「お姉さまを助けるのに必要な技術だと思って、独学で学んだの」と答えた。このお嬢様は何を目指しているのでしょうか。


ここ、閲覧禁止エリアに入ると、アデルは本を探し始めた。そして、一冊の本を手に取った。その本は禁忌と言われている『黒魔法』について書かれた本である。アデルが本を開いた瞬間、全身に鳥肌が立った。

流石にやばいと思い止めようとしたが、一心不乱に読みふけているアデルには、私の声は届かない。


「セラ、帰りましょう」

 アデルは『黒魔法』の本を読破すると、私に声を掛けて立ち入り閲覧禁止エリアから外に出た。その際、司書に見つかってしまったが、アデルが一言聞いたことのない呪文を唱えると、司書の顔から表情が消え、ロボットのような歩き方をしてどこかに行ってしまった。そして、窓を叩き割り身、を乗り出したかと思うと下に落ちていった。人々の悲鳴が聞こえる。アデルと私はその喧騒に紛れるように家路についた。



私は恐れおののいた。黒魔法の威力に。どうやら、黒魔法は人の心や思考力に影響を与える魔法らしい。



それから、アデルは少しずつ両親や屋敷の使用人たちに黒魔法を掛けていった。すると『アデルは何をしても許され、メリッサは全て取り上げられてアデルにそれらを上げることは当然』と考えるようになっていった。


アデルは本当にメリッサから全てを奪った。メリッサのお気に入りの人形、ドレス、アクセサリー、本、宝石、侍女、部屋、友だち。すべてをアデルは奪われた。


そして、アデルはメリッサからアンドレンの婚約者の地位を奪い、メリッサは屋敷から出ていった。

 メリッサが屋敷から出ていったのを見届けた後、アデルは泣いた。

「これで、お姉さまは幸せになれる」

 そう、言って号泣した。そして、

「お姉さまに殺してもらえるような、立派な悪女になって見せる」

 涙を拭った。


アデルは、メリッサに殺されることを目標に黒魔法の勉強に精を出していった。黒魔法を勉強すればするほど、アデルは、段々と正気を失っていく。善悪の判断がつかなくなっていく。人を人だと思わなくなっていく。

 私は、そんなアデルの姿に胸を痛めた。アデルは私に一つの魔法をかけた。その内容は『決して真実を話さないこと』。これにより、私はアデルが黒魔法を使っていること、メリッサに殺されるために悪役になろうとしていることを誰にも話せなくなった。




 ついにこの日が来た。アンドレンの卒業の日。普通のルートとだったらクライマックスシーンだが、『アデル悪役ルート』では始まりに過ぎない。



アデルが黒魔法使いだと、主人公にバレた。


アデルは周りの人々に黒魔法をかけた。


心を操られたアンドレンとは、アデルとの結婚を決めた。


主人公と大司教の息子は会場を命からがら逃げだした。


アデルは国王の心を操り王位をアンドレンに譲り渡した。


アンドレンが国王になってから、アンドレンやアデルに逆らうものは次々に処刑していった。


アデルは処刑をショーのように楽しんだ。


この国は壊れていった。






アンドレンが国王になってから5年の月日が経った。


 王城を『隣国の勇敢な騎士団が、国境を越えてこの国に攻め入った』というニュースが駆け巡った。

 王城に勤めている使用人たちは、我先にと逃げていった。

 アンドレンはそのニュースを聞き、身を隠すように王城の一番奥にある塔に身を隠し、アデルは反対に王城で一番豪華な宮殿へ向かいました。

 

 『アデル悪役ルート』を教えてしまった手前、アデルを置いて逃げるわけにはいきません。当然のようにアデルに着いて行こうとしたら、アデルに

 「逃げなさい」

 と黒魔法を使い命令されてしまいました。私は、自分の意思とは関係なく、王城の外へ出ていきました。

 私が王城を出ていってからしばらくすると、クーデター軍(しゅじんこうぐん)と隣国の騎士団が王城に攻め入りました。隣国の騎士団の中に、立派に成長したメリッサの姿もありました。

 しばらくの沈黙の後、2か所で歓声が起こりました。


ああ……・



私は、膝から崩れ落ち泣きました。アデルが望んだこととはいえ、アデルの死の手助けをしてしまった罪悪感で胸がいっぱいになり、悲しみが涙となってとめどなく流れ落ちていきます。


 その後、討たれたアンドレンとアデルは広場にさらし首にされました。

 アンドレンが恐怖に顔を歪ませているのとは反対に、アデルは満足げに微笑んでいました。

 

 クーデターを起こした主人公は、教会と共に国を治めていましたが、教会からの要請と国民の圧倒的な支持により、この国の新たな女王となりました。


こうして、誰もアデルの真実を知らないまま、「アデル悪役ルート」は幕を閉じました。


「アデル悪役ルート」別名「主人公英雄ルート」

20回周回して尚且つ恋愛要素をガン無視して、レベルだけを上げたときにあらわれるレアルート。


このお話で、一番貧乏くじを引いたのはアンドレンだと思ています。

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― 新着の感想 ―
[一言] うん。確かにアンドレンは悪くないね。 巻き込まれて可哀想に… でもテンポ良く面白かったです(`・ω・´)ゞ
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