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第十九話 魔法学園の生徒


 それは春の陽気が夏の暑さをはらみ始める頃のことだった。

 からんとベルが鳴り、紫色の髪を二つに結んで前に垂らしている少女が入ってきた。


「こんにちは」

「あ、はい、こんにちは」


 にこりと挨拶をすれば、礼儀正しく返してくれる。

 彼女は特徴的な白いローブと制服を着ており、魔法学園の生徒ということが分かる。生徒がうちの調合屋に来たことはないから、偶然ここにたどり着いたのだろうか。


「あの、このお店の調合師さんは……」

「あ、私です。ええと、調合のご依頼ですか?」


 きょろきょろと少し辺りを見回してから、彼女は私にそう問いかける。私が調合師だと答えると、彼女はすごく驚いた様子で棚を指差す。


「えっ!あの治癒薬も、お守りも、全部一人でやってるんですか?!」

「はい。一人なので多くは作れませんが……」

「すごい……!!っあの、私に調合を教えて下さい!」


 お願いします!と勢いよく頭を下げる彼女に、私は戸惑い慌てながら事情を聞く。これが、私と彼女―ソーニャ・アシュバーナムとの出会いだった。


 *

 

「ミーフェさんミーフェさん!ここ、ここ分からないんで教えてください!」


 からん、とベルを鳴らして勢いよく飛び込んでくるのは、魔法学園に通うソーニャちゃんだ。彼女は課題を手に私のもとまでやって来て、うう、と唸りながらそれを見せてくる。

 あの日、ソーニャちゃんから学園で簡易調合という授業があること、その実技の成績が著しく悪いこと、このままだと進級も危ういかもしれないから先生になってくれる人を探していたことを涙ぐみながら話された。その姿があまりにも不憫だったので、私はこうして調合を教えている。


「ソーニャちゃん。確かに調合について教えるとは言ったけど、簡易調合の課題が出るといつも私のところへ来てない?ちゃんと自分で考えてるの?」

「考えてますよぅ!考えても分からないから聞きに来てるんです!」


 そう言って、ソーニャちゃんは持っていた課題を再度私に差し出してくる。それに視線を移せば、ついこの間までは何も書かれていなかったのに今回は調合配分や材料の性質について色々と書かれており、きちんと考えていることが分かる。

 私はおお、とつい感心の声を漏らしてしまい、ソーニャちゃんの頬を膨らませてしまった。


「あぁ、ごめんねソーニャちゃん。ちゃんと今までのことを振り返りながら考えてたんだよね。うん、成長してる。すごいすごい」


 頭を撫でながら褒めれば、ソーニャちゃんはにへーとした笑みを浮かべてくれた。彼女の機嫌が治ったのを確認し、私は再度、課題へ視線を落とす。


「ええっと……うん、ソーニャちゃんほとんど答え出てるよ」

「え?!えーっと……じゃあ、調合配分が七対三で……匂いが少ないから、魔花の花びらは一枚……?」

「うん、そう。良く出来ました」


 課題をじっと見つめて、悩みながらも出した答えは正しいものだ。私が正解を告げて頭を撫でると、嬉しそうににっこりと笑みを見せてくれる。可愛いなぁ。


「ミーフェさんのお陰です。私がどんな初歩的な質問をしてもちゃんと答えてくれて、何度も教えてくれたから」

「ふふ、そう言われると教えた甲斐があるよ。さて、ソーニャちゃんの用事はこれで終わりかな?」

「終わりですけど、もうちょっとミーフェさんとお話、」

「あ!いた!」


 入り口のドアを乱暴に開け、ソーニャちゃんを見つけた途端に駆け寄ってきた少女。同じ魔法学園の制服に身を包んでいるから、この少女も魔法学園の生徒なのだろう。

 二つに結んだ薄桃色の髪を揺らしてやって来る少女の後ろには、少年が二人、呆れたような顔をしている。


「ソーニャ!今日は魔法実習があるって言ってたでしょう!」

「え、うそ、もうそんな時間?!」

「そんな時間ですよ」


 礼儀正しそうな少年の声にソーニャちゃんは名残惜しそうに私の方を見つめる。そんな目で私を見つめられても困るのだけど……。


「ソーニャちゃん、また暇なときにおいで。その時は色んなお話をしようね」

「うう、絶対ですよ……」

「騒がしくしてすみません、急いでいるのでこれで……!」


 桃色の髪の少女がソーニャちゃんの腕を引っ張って出て行くのを見送る。彼女たちが行った後、少年二人が頭を下げたので、私は気にしないで良いという意味を込めて笑みを浮かべて手を軽く振る。

 それにまた二人が頭を下げ、ドアをそっと閉めて去っていった。



 *


 一日を無事に終えた私はグランの暖かさを感じながら眠りに落ちる。

 でも、最近はよく夢を見る。こことは違うどこかで、とても優しい目をした誰かと過ごす夢を。


「うんうん、大丈夫だよ。これからゆっくり覚えていけば」


 初めて作った料理が黒焦げで、とても食べられないものでもその誰かは笑って食べようとしてくれていた。夢の中の『私』はそれを止めて、すぐにゴミ箱へ放り投げていたけど。


「そうそう。優しく土を被せて……うん、これでいいよ。あとは毎日、適切な量の水を与えればすぐに花が咲くよ」


 庭先に埋めた花の種は一ヶ月もすれば満開に咲き誇っていた。誰かはその花を摘んで綺麗に編み、夢の中の『私』の頭に乗せる。

 その行動の意味が分からなくて、ずっと思考をめぐらせていた『私』の様子を見て、誰かはふは、とたまらず吹き出していた。


「そんなに考えなくたっていいよ。綺麗なものを与えたいと思う、親心さ。だから、こういうときは笑顔でありがとうと、言ってくれるほうが嬉しいな、――」


 顔の分からない誰かはそう言って、聞こえない言葉を口にする。きっと、それは夢の中の『私』の名前なのだろうと、なんとなく分かった。

 そうして、その人が聞こえない名前を口にした時、私の夢は終わりを迎えた。


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