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つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)

電車で一緒になった後輩が心なしか嬉しそうな件について「先輩は、おっちょこちょいです」

掲載日:2020/12/16

 三月末。


 高校の卒業式はだいぶ前に過ぎた。


 電車に乗ると、知った制服を着た女の子がいた。


「おはようございます先輩」


「あれ、帆野夏」


「そうです。帆野夏です」


 久々に元部活の後輩に会った。


「今日は……部活?」


「はい。部活ですよ部活」


「楽しくやってる?」


「やってますよー」


 窓の外を見て帆野夏はのんびりと言った。


 どこか、窓の外を流れる景色が速すぎると思ってるのかな、とそんな帆野夏を見て思った。


「……寄せ書きとマグカップ、ありがとな」


「あ、はいっ、ちゃんと使ってくださいねマグカップ」


「使ってるよ」


 卒業式はごたごたしてて時間がなかった。


 そんなことを予期してか、僕たちの代は、卒業式準備の日に、寄せ書きと名前入りのマグカップをもらった。


 帆野夏からのメッセージも、水色のペンで書いてあった。


 それを思い出しながら、僕は言った。


「帆野夏って字、綺麗だよね」


「そんなに綺麗じゃないですよ。先輩へのメッセージは、とってもとっても丁寧に書いたから綺麗なのです」


「そっか。ありがとう」


 電車が揺れた。僕は帆野夏の捕まっているつり革の隣のつり革につかまった。


「先輩……は、あの、北海道に……」


「北海道? ああ、北海道の大学に行きたいって話したっけ?」


「はい」


「ああ、それで北海道が出てきたのな。ま、結局北海道には行かないよ」


「え、そうなんですか?」


「そう。落ちちゃったからな。後期で受けた地元の大学に行くよ。今日も、そこに入学手続き資料を出しに行くところなんだ」


 僕はかばんから封筒を少し出して見せた。


「あ、そうだったんですね」


「部活でもおっちょこちょいキャラだった僕らしいよな」


 帆野夏は一瞬、笑ってから封筒から慌てて外に目を移したように見えた。


 僕も帆野夏と同じ方向を見る。


 遠くを見ると景色の流れる速さは遅くなる。


 当たり前だなあ。


 そんな当たり前なことを帆野夏も考えているのだろうか、と帆野夏を見ると、やっぱり少し笑っている。


「先輩は、おっちょこちょいです」


「そうだな」


「でも、先輩は頑張りました。わたしも頑張ります」


「うん」


 帆野夏はしっかりした後輩ってイメージだからすでに頑張ってると思うけど。


「……ふー」


 何かを言いかけた帆野夏は、息をはいた。


 少し沈黙の時間。電車は高架の上に登って速度を上げた。


 速度は上がったけど、高いところを走ってるので、遠くまで見える景色はさらにゆっくり動く。


「ま、方面が一緒だしまた時々会えそうだな」


 帆野夏の持ってるつり革がぴょこんと動いた。


「はい」


 帆野夏は短くそう返した。


 高架の上に造られた駅。


 帆野夏の高校、そして僕がこの前までいた高校の最寄り駅だ。


「あ、じゃあ、降ります」


「うん、じゃあな」


 ドアがリズミカルなメロディと共に開く。


 その音に、後押しされたかのように、帆野夏は唐突に言った。


「先輩、また会いたいです」


「おお、飯でも行けたらいいな」


「は、はい喜んで」


 少し慌ただしい会話と共に、帆野夏は他の何人かの乗客と共に降りた。


 ドアが閉まる。


 電車は発進し、また景色が流れ始めた。


 ふと、カバンの中の封筒を眺めてみる。


 この入学手続きの書類を書いていた時は、正直まだ第一志望の不合格を引きずっていた。


 けれど。


 僕はもう一度外を見てみる。


 いつの間にか、降りる直前の帆野夏の笑顔が、頭の中を占めていることを自覚した。


お読みいただきありがとうございます。

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