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走れ!月火水木金曜日!  作者: 城塚崇はだいぶいい
8/9

第七話 日曜日  「金木 水火月(かねき みかづき)」

「時間やね・・・。準備はええか?皆、そしてミカヅキ君」

「もちろんだ。始めよう」

 僕は立ち上がるとカメラの前へ移動した。

「僕が先行で文句はないね?」

「ええ、文句はない」

「君達の動画も見させてもらったよ。君達は、E-girlsに憧れてダンスを始めたそうだね。尊敬するE-girlsに敗北するのであれば、本望だろ」

 言い終えたと同時に曲が流れ始める。


 ♪~~~


「!!!? こっ・・・この曲は・・・E-girls『ごめんなさいのKissing You』 

  馬鹿なっっ!!!女性ユニットの楽曲だとぉっっっ!!!」

ミサちゃんが大げさに叫びだした。

これは・・・アニメで時々ある「驚きながら説明もしてくれる」というやつだ。

普通びっくりしたときは「うわぁ」とかその程度しかしゃべれない。

しかしアニメにおいては驚いた時こそ饒舌にしゃべりだすキャラがいる。

主に脇役が担当するポジションだ。

ミサちゃんがアニメ好きという事は調査済みだったが・・・なんかスイッチが入ってしまったようだ。

「金木先輩の男らしい体格では、女性のしなやかなダンスは向いていないっっ!!!

 こっ、これは・・・明らかな選曲ミスだぁぁぁぁっっっ!!!」

ミサちゃんに続いて発言したのは・・・ユリちゃんだ。そういえば最近ユリちゃんもアニメにはまってきていたとの情報があったな。

「全く・・・緊張感無いなぁ」

「わたし達これから、世界をかけて戦うってのに・・・」

 りんね、ユズちゃんが呆れてつぶやく。

 さて、僕は本当に選曲ミスをしたのだろうか?

 否、そうではない!

 僕はE-girlsの楽曲に合わせて、男性的な力強いキレのある素早いダンスを踊り始める。


「・・・・こ、これは・・・『ごめんなさいのKissing You』が主題歌に使われた映画『謝罪の王様』のエンドムービーで使われたEXILEのダンスだぁっっっ!!!」

「なにぃ!!! つまり、この曲はE-girlsの楽曲でありながら、男性の振り付けが用意されているっっっ!!

 金木先輩が『E-girlsの楽曲を使って私達を倒す』という目的を達するのにまさにうってつけの選曲ということになるぅっっっ!!!」

 ミサちゃんとユリちゃんの説明台詞が止まらない・・・。

「MATSU、KENCHI、KEIJI、TETSUYA、NAOTO、NAOKIのダンスが順にトレースされていくぅっっっ!!!」

「映画の上映から7年、あの時の感動が再現されていくっっっ!!!」


「あのさ、あいつらもう何か、金木パイセンの盛り上げ役になってない?」

「シオ、あとであのバット貸して、一発ずつフルスイングだ」


 ・・・大盛況の上、僕のターン終了だ。


 僕は、全力のパフォーマンスを終え、地面に崩れるように座った。

『もうすぐグルコースが切れます』

脳内に警告文が点滅している。

 脳内にインストールした様々なアプリもエネルギーを消費して使用することができる点はスマホアプリと同様だ。脳における栄養であるグルコースが電池の役目を担っており、それが著しく消耗された。流石にEXILEを6人もトレースするのは無理があったようだ。これ以上消耗すると、アプリは停止してしまうだろう。

さて、彼女達のターンが始まる。 5人はカメラの前へ陣取る。

 崩れた姿勢のまま、彼女達を見据える。


 ♪~~~


 彼女達のダンスが始まった。

「・・・こっ、これは、彼女達のダンス動画ではお馴染みの楽曲『おはようのスマイル』だっ!!!

 しかし、過去の動画とは振り付けが大幅に変わっているっ!!!つまり、調整してきた!!!勝つためのダンスとしてっっっ!!!」

 勝負はフェアであるべきだ。僕は彼女達に盛り上げてもらった部分は、しっかり返さなくてはならない。こんなこともあろうかと思って「驚きながら説明する」アプリをインストールしておいてよかった。残りのグルコースは彼女達へ捧げよう。

「5人の連携には一切の乱れなしぃぃっっ!!!まるでプログラミングされた精密なロボットの様にシンクロしているっっっ!!!」

「センターが目まぐるしく変わる立ち位置の再構成の動きも迷いない!滞りない!脳内の情報をWi-Fiで共有しているかのようだぁぁっっっ!!!通信速度は良好!!!以心伝心まさに友情をテーマにした本楽曲にぴったりといえるっっっ!!!皆が主役になれる瞬間、個性を発揮できる瞬間が用意されているっっっ!!!」

「そして、最後の決めポーズ!!!アニメ好きなら言わずと理解できるだろ!!?

「友情」を暗喩するその姿に、悔しいが見惚れずにはいられないぃぃぃっっっ!!!!」




 さて、後は視聴者の投票を待つだけだ・・・。

5分もしない内に、200人の投票は完了した。


 僕の作成した投票と集計、結果発表アプリは、彼女達の用意したタブレットの中で迅速にそれらをこなし今、画面にその結果を映し出そうとしている。


  金木水火月 0 vs 0 ダンス部


画面の表示はそこからゆっくりと数字をカウントしていった。


10 vs 10


20 vs 20


30 vs 30

・・・


50 vs 50  半分まできてまだ同点


・・・


80 vs 80


90 vs 90 

「・・・・そんな・・・馬鹿な」

 僕は結果が出る前に声を出してしまった。

 もっと確実な圧勝を想定していたためだ・・・。


91 vs 91

 カウントアップがゆっくりになり始めた・・・。

 勝負が決する時は・・・近い。


92 vs 92


93 vs 93


・・・


95 vs 95


・・・


「そんな・・・ありえない・・・」

次に声をあげたのはユズちゃんの様だ・・・。彼女もまた圧勝するつもりだったのだろうか?


・・・


そして・・・決着の時が訪れる。


金木水火月 96 vs 104 ダンス部


「「「「「 Yeah!!!!!!!」」」」」

「っっっしゃぁぁぁいぃぃっっっ!!!」

「やったぁぁぁぁっっっ!!!!」

「勝ったぁぁぁぁっっっ!!!」

「よいしょぉぉぉぉっっっ!!!!」

「これって チュワパネッッッ!!!」


 ・・・ばかな・・・僕のダンスは確実に彼女達よりも優れた座標更新を成していたはず・・・。

 驚き顔の僕に向かって話しかけてきたのは、ユズちゃんだった。


「先輩、お疲れ様。とてもいい試合だった。わたし達の勝因が何なのか、分かる?」

「・・・・」

解らない。何も答えることはできなかった。

「わたし達がずっと言ってたこと。ダンスを楽しむこと。ここに全てがあると思う。先輩のダンスは技術はすごいけど、ダンス中の表情は無表情どころかひどいときはどこか上の空」

「ああ、全身の座標を更新するための演算をしていたんだ」

「それ、座標の更新って。 ダンスのことをよくそこまでつまらなそうな表現にできるなぁって、最初から思ってた。ダンスは人を楽しませるためにある。人を楽しませたかったら、まずは自分からってことだよ。先輩のダンスは流れ作業を精密にこなす工場のロボットみたい。すごいとは思うけど、それじゃぁ見ていて飽きてしまう」

「確かに、ミカヅキ君のダンス、最初はすごいと思ったけど・・・途中からはミサとユリの実況の方が印象強すぎてよう覚えてへんなぁ」

「それに対し、わたし達のダンスは、いつも見ている人のことを考えて作っている。楽しいときは笑顔、見せ場では真剣な顔、見ている人へ訴えるために心から踊る」

「・・・心から・・・か」僕はつぶやく。

「そう。先輩のダンスは、心の座標更新が疎かになってたね。次の機会にはそこのところ対策してみて、そうしたら、次はどうなるかわからない。

そして、わたし達のダンスには必ず入っているもの

『ハイテンション』

 それが、わたし達の勝因かな」


 心、ハイテンション、それが僕の敗因?

 グルコースが不足していて今にも停止してしまいそうな僕の脳が、理解できない敗因を押し付けられて、混乱している。

 崩れた姿勢のまま宙を見つめる僕の肩へ、そっと手をあてて誰かが囁いた。

「・・・チュワパネ」

 ???40種類の言語をインストールしてある僕の脳が自動的にチュワパネの意味を検索し始めた・・・。検索結果はエラー 該当なし。

 その瞬間、僕は脳内のグルコースを使い果たしたらしい。

 脳内のアプリが次々とクローズしていく・・・。

 すべてのアプリが停止したあと・・・そこには人間だったころの意識が久しぶりに感じ取れた。

 ダンスに敗北した悔しさ

 全力を出し切ったという爽快感

 そして、不思議な高揚感があった。

 まさか、僕がダンスのことを楽しいとでも思ったのだろうか?


 薄れゆく意識の中で、最後に考えた。

 チュワパネ の意味は僕にはわからないが、この不思議な高揚感が、そのまま答えでいいんじゃないだろうか?


 金木水火月 一週間かけて導き出したダンスの正解 :  チュワパネ


 ところで、チュワパネの語源は何だろう?

 僕の脳はそこで完全にシャットダウンした・・・。


  ************************


 倒れている金木先輩の口に甘いお菓子をたくさん詰め込んでから、私達は部室に落ち着いた。

「・・・・ワタシ達、全知全能の神様に、勝っちゃったね!!!」

「しかし・・・ユズの『ダイジョウブ』の根拠が『笑顔』と『ハイテンション』だけだったとはね」

「全くや、全知全能の神様相手に、なんちゅう糞度胸、もはやただのはったりや」

「ほんと、まさに奇跡の勝利だよ」

「そんなことないよ。わたし達が勝てたのは、奇跡でも魔法でもない、ついでに言うと蜃気楼なんかでもない。負けるはずのない勝負で、負けなかっただけだよ」

「そんなこと言って、95vs95くらいの時、かなりビビってたよね?もっと圧勝できると思ってたんでしょ?」

 勝者たちはハイテンションで会話が進む。

 そんな中、ミサは少しだけ俯いて何かを考えている。

「ミサ、どうしたの?」

「あ、いやなんでもない・・・」

「何?言ってみてよ!!!」

「・・・私達は、神様をやっつけてしまった。もし、あのアプリを使えば本当に世界が平等で争いもなくなって平和な世界になっていたのだとしたら、平和な世界を消してしまったのかもしれない。もしかしたら魔王は私達なのかもしれない」

 わずかな時間の沈黙の後、

「まぁね。それはしょうがないんだよ。シオ達は、正義の味方なんかじゃない。シオ達はシオ達の味方なんだ。この世界を自分たちが笑える世界にするためなら、神でも魔王でも、やっつけなきゃならない」

「それって、チュワパネ!!!」

 再びみんなのテンションは上がる。ミサも笑顔を取り戻す。

「あ、そうだ。現時刻を持ってコードネーム『チュワパネ』の全任務を完了とする。総員よくやってくれた!!!」


ハイテンションは勝利の秘訣だ。

最後にシオが一言つぶやいて、長いようで短い一週間は終わりを告げる。


「ところでさ、チュワパネってどういう意味???」



                              一週間 完了

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