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第2話 ちくわ大明神様

「慌てないの。落ち着いて」

「誰がお前なんかの家来になるものか! 撤回しろッ!!」

「はいはい、それで良いから。冗談よ。クサリの魔法も使っていないから安心して」


 俺を奴隷にする発言は冗談、そう言ったのか。


「冗談……? そうなのか」

「そう、冗談。クサリ使っていない証拠を見る?」

「クサリっていうのは」


 言葉からしたら環状の物を繋ぎ合わせた物の事だが、しかし魔法という言葉も出て来た。

 クサリという名の魔法、それは何の魔法なのか。


「奴隷の証よ。奴隷が主人の命令に逆らえなくする為の魔法。まぁあたしはそんな魔法は元々使えないけれどね」

「嫌な魔法だな……」


 人を奴隷に落とす魔法であったのか。虫唾の奔る類だ。


「あたしもそう思う」


 ミウの反応は正常な人の反応で良かった。なかなか好感を持てそうだ。


「それで、空を飛ぶ魔法ってどうやってやるんだ」

「うーん……あたし達セラフの種族は自然と勝手に覚えちゃうのよね」


 その兄の姪っ子シャーリィなんて生後三ヶ月で空を飛ぶようになったとかはどうでもいい。魔法の使い方を知りたいのだから回りくどい話はいらない。

 このミウはどうにも余計な話をしたがる癖が有るのだと察する。


「じゃあ魔力濃度を先ず計るべきかしら。これで才能の大半が決まるから」

「魔力、濃度…… 魔力にも濃さが有るのか」

「水に溶かした時の限界を1000とした値の事よ。家庭用魔導器はこれの100エーテルを基準にしているの」


 何処からかコンセントプラグを取り出す。家電製品みたいな物に見える。

 だから「シャーリィちゃんの鼻にプラグを突っ込んでも使えちゃうのよね」とかいう脱線はいらない。そのシャーリィ、シャルリエッタは魔力濃度が100エーテルという規格外数値を持って産まれて来た。天はシャルリエッタ・ファビウスを依怙贔屓したのだと噂されている。


「へえ……電気みたいなものか」


 説明を聞けばそうとしか思えない。電気に例えればエーテルが電圧、ワットが魔力量みたいなものだ。


「冒険者はね、この魔力の結晶、魔結晶をダンジョンから集めるのが主なお仕事なの。モンスターを退治する事で集めたり、そこら中に落ちているのを拾い集めたりする訳」

「そこら中にって、ここらの石ころにその魔結晶が落ちていたり――」

「――する訳ないでしょう。ダンジョンからって言ったじゃない」


 ダンジョン、そういえば第二階層のゴブリン如きとか、あの草原の場所をダンジョンって言っていた。そして一枚のカードを持ってエボリウスダンジョンゲートのエントランスホールなる場所にワープした。

 このシャンダルキアには元々魔力が存在しない。ダンジョンと呼ばれる異世界へのゲートを潜るり、その中で魔結晶を利用する事で魔力を得られるのだとか。


「じゃあ、俺は今は未だ魔力を持たない状態か」

「ダンジョン内に居たからマナを吸って得ているってば」


 体内に吸収して自分の魔力の形、魔紋を刻みながらマテリアライズする事で我が物に出来る。それで炎が得意だとか氷が得意だとかに分かれる。


「魔力には個体のマテリアル、液体のエーテル、気体のマナがあるのよ。マテリアルは魔結晶とも言うわね。あたしのこの羽根もいわばマテリアルよ」

「マテリアル……あっ、あぁ! ゴブリンを倒した時に爆発した奴!」


 出会った時にゴブリンを倒した攻撃。

 羽根を飛ばして光の爆発を巻き起こしていた。あれも魔法であった。


「アセンションフェザー、セラフの得意技ね」

「つまり魔力が切れると翼が禿げる」

「禿げないわよっ!」


 禿げないのか。魔力とは違う通常の羽根も付いているようだ。


「えっと……そうね、検査器が有った筈…あ、これこれ」

「その道具が?」

「エーテル測定器よ」


 手の平サイズの箱状の機器だ。

 いったい何処から取り出すのか、胸の谷間から出て来たのだがゴソゴソと何やら多くの物が入っていたように思う。他に何が在るのか気になるのでちょっと覗かせて欲しい。


「これを握ってスイッチを押せば……あたしは38エーテルよ。やってみて」

「分かった」


 手渡しでエーテル検査機器を受け取る。

 ミウの証言によれば38エーテルは人類の中じゃ最上位クラスだそうで天才に分類される。「シャーリィちゃんとジュリアちゃんが異常なだけなのよね」と100は人類には有り得ない数値らしい。そもそも人の限界が42エーテルだといわれる。稀に超越している人も居るけれども、完璧な人は居ない。「ただしシャーリィちゃんを除く」と付け加える。そのシャルリエッタという少女はいったい何者なのか。本当に凄く何度も推して来る。その妹のジュリアちゃん、ジュリエッタという少女も天才なのだがとんでもない変人だという。天はジュリエッタに依怙贔屓はしなかった。


「俺は……20。20で合っているよな?」

「うん。20ね。物凄く面白くない事に、一般人ど真ん中よ」


 一般人の平均値は15~25エーテルだそうだ。

 とても平均的で無難な数値である。

 その、凄く、平凡です。


「「俺も魔法を覚えたらお前なんてなぁ!!」キリッ! だって」

「……おいっ」


 俺のものまねをして嫌味ったらしく言い放つ。


「プククククッ、あひゃっ、あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

「おまえ……」

「アヒャアーーハハハハハハハハハハハッ!!」


 器用にも空中で笑い転げる。へそでお茶が沸かせそうだ。

 人を馬鹿にして大笑いをするとは、本当に良い性格をしていらっしゃる。


「ひいぃ、ひいぃ、た、たすけてプククッ、あっはははははは!」


 約5分間、ダンジョンゲート前の噴水あたりで人目も気にせず思い切り笑い続けた。

 通りすがりも遠目に見て避けて通って行く。ミウは傍目には可愛い女の子だけれどもお近付きになりたくない様子だ。


「満足したか?」

「盛大に笑わせて貰ったわ!」

「そうかそれは良かったな」

「えぇそれはもう。こんなに笑ったのは久し振りよ」


 俺の嫌味も華麗に受け流された。


「それで、俺は空を飛ぶ事は可能なのか?」

「勿論。だけれどもマテリアル値が何故だか極端に低いわね。これじゃ2分も持たないわ」

「そっか。まぁそりゃそうだよな。ずっと魔力の無い場所に居たんだし」


 俺にも魔法が使える可能性が有る。それを知れただけでも収穫は有った。


「仕方がないわね。ターミナルには飛ぶ方が手っ取り早かったんだけれど、今回は瞬間移動を使うわ。感謝しなさいよね」

「宜しく頼む」


 瞬間移動も可能なのか。額に指を添えて宇宙空間も飛べるのであろうか、と、そんなチート性能でもなく移動距離の制限は有るようだ。

 伝説の魔法シャンダルキアが瞬間移動魔法の最上位に位置する。シャン、シャント、シャンタル、シャンダルク、シャンダルキアとランクが上がっていく。

 手を差し出され「ほら捕まって」と、俺の第一関節までしかない程に小さな手だ。こんなか細いのに俺よりもずっと強い魔力を秘めている。ぎゅっと握り締めてシャンタルを唱えれば、一瞬で100kmもの瞬間移動を実現させた。


「ほら着いたわ。凄いでしょう。上位瞬間移動魔法シャンタルを苦も無く使いこなせるあたしってば本当天才よね」

「魔法ってば、本当に凄いんだな……」


 凄過ぎて、実際に何が凄いのか良く分からない。

 テレポートのように見えてワープ。飛び越えているのではなく、移動である。

 どっちも一瞬で目的地に辿り着くから似たようなものだが、論理は違う。小難しい話だ。

【空間とは時間と対立する。時間の無い所に空間は有り、空間の無い所に時間が有る。シャンダルキアは、言わば時間を破壊し、空間を作り上げる魔法なのだ】(エルフィスタ王国 魔術研究者 ヨージオ・ハアハ・パンテュミシェロ 1822年4月14~1893年8月8日)

 時間と空間の難しい話をして来るが、偉い人の名前が何かおかしい。ど真面目に性犯罪的な事を口走って頭おかしくなったのかと思ってしまった。


「簡単に言えば時間と空間の違いを理解しなきゃ瞬間移動魔法は使いこなせないって事よ」

「は、はぁ……そうか」


 残念ながら学力の低い俺には殆ど理解が出来なかった。

 それは兎も角ターミナルに移動し、目的であった資金調達を行う。


「テウスト大陸の方なら、お金もモビルスーツを使うだけで現金はいらないんだけれどねぇ……ボルガノートはまだまだ原始的だわ。殆どの場面で現金が必要なんだもの」

「モビルスーツ? は? え? ●゛ンダム?」


 まさかこんな異世界でモビルスーツという名前が出て来るとは。

 こっちにもあのアニメが有るのかって、そんな訳は無い筈。ミウも眉を顰める。


「……シャーリィちゃんも確かモビルスーツの名前からガン●゛ムとか言っていたわ。ジャンはどうして?」

「え、だってモビルスーツってロボットだよな。ガンダ●とかの」

「モビルスーツは、これよ」


 胸元の懐中時計を開いて見せる。中には8mm程の球体が収まっている。


「この8mmスフィアがモビルスーツよ。HATA社が開発したピコマシン集合体でね、様々なツールでサポートする人の生活には欠かせない代物なのよ」

「……こっちの世界の科学は凄いんだな本当に…」


 言わばスマートフォンみたいなものだ。

 僅かに魔力を送れば起動し、ステータスウインドウみたいなもの展開して様々な機能を実現させる。ジュースを購入した時も、販売機はこれの大型版で会計もこのモビルスーツで行われていたらしい。

 モビルスーツは言い換えればモバイルステータス、携帯する能力という意味だ。


「シャーリィちゃんもジュリアちゃんも●゛ンダムて言葉が出て来るの。ガン●゛ムって何?」

「俺の世界のアニメ作品なんだ。異世界のな」

「異世界……そう…確かにそんな事も言っていたわね」


 いや待て、その二人はもしかして異世界の人物なのか。そして人類の限界値42エーテルを突破した100エーテルの持ち主、更に傾国レベルの美貌の持ち主だ。

 うってかわって俺は20エーテルだ。異世界人だとしても格差が酷いのでは無かろうか。


「なぁ、やっぱりおかしくないか? シャーリィとジュリアって確か100エーテルって言っていたよな」

「そうよ。あの二人は別格なのよね」


 普通、異世界に来たならそんな感じにチート能力をもっているものじゃないのか。俺にはそんなチート能力は無いのかって。


「それに比べて俺は……おい神様いくらなんでも酷いだろ! ちょっと出てこいや!!」

「煩いですね。私は美少女にしか興味無いんですよ」

「……誰?」

「本当に出て来た?」


 まるでちくわ大明神が如くさらりと現れた。


「どういう事だちくわ大明神」

「はぁ? 誰ですかそれ。私はエルキュトゥリズユーラの女神様ですよこのすっとこどっこい。きもい男はさっさと目立たない所で野垂れ死んでればいいのに」

「酷い言い草だなすっとこどっこいって。て、える? え、えるくと」

「エルキュトゥリズユーラです。これだからきもい男は」


 自称女神なだけに、相応に美しい。しかし言動は残念だ。

 この俺に向かってきもい男だとか、性格が歪んでいる。

 しかし世界の名前がやけに面倒臭いカタカナだ。シャンダルキアじゃないのか。


「……さらりと現れたけれど、え、女神?」

「そうですよー。この世界エルキュトゥリズユーラの女神様です。とっても偉いのです。可愛い可愛い美少女ちゃんの味方なのです」

「何が美少女ちゃんの味方だちくわ大明神」


 こんなのが神様だなんて哀れな世界だ。こいつはちくわ大明神で充分だ。


「ちょっとくたばってくれますか男は」

「神様だっていうなら自分の都合でやってみやがれよ」

「嫌ですよ関わりたくないから。そもそも異分子だからとっとと自分の世界に帰ってくれますか?」

「は? もしかして俺が異世界から来たのがお前が出て来た原因なのか」

「あら、男の癖に察しが良いですね。それだけ賢いならとっとと帰ればいいのに」


 つまり俺がこの世界に来た事で俺の前に出て来た。


「まだ帰らねえよ。だってあっちの世界よりも面白そうだし。つーか俺が20エーテルってどういう事だ!」

「ププッ、20エーテルですって。ねぇ聞きました? プククッ」

「ぷふふっ、笑っちゃ駄目ですってフフッ、ぷふふふふっ」

「……こいつら…」


 何故か女神とミウが意気投合している。

 揃って生意気な女共だ。


「聞けよ! だからどういう事だっつーの!」

「さあ? それがあなたの才能でしょう」

「たしかこいつ「こいつって言わないでよ」の親戚のシャーリィとジュリアだっけか、そいつも異世界人らしいが100エーテルっていうじゃねえか。どういう事だ?」

「あらあなたがその二人を知っているなんて、考えてみれば当然ですね可愛いのだから! そう、勿論! 贔屓しました。当然じゃないですか可愛い女の子なんだから」

「こいつ……女神の癖に」


 とんでもない程に性根が腐った女神だ。

 同じ異世界人でも、女は贔屓して男は帰れというのか。

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