No.8 魔物の闇
この世界には大きく分けて三つの種族が存在していた。
亜人族。
魔人族。
そして人間族。
まずはそれぞれの特徴の説明からしたほうがいいだろう。
第一に亜人族。彼らは非常に厳格な種族であり、干渉という行為を嫌う。貿易を持ちかけたり、使者を送ったりするだけで戦争が勃発するレベルだ。それと耳や尻尾が付いている。
次に魔人族。彼らは非常に好戦的な種族だ。その上それは『強者だからこその支配欲』から来るものであり、現在でさえ彼らには手を焼いている。異常な魔力で翼を生やしたり、武器を生み出すため戦闘では最強の種族とされている。
最後に人間族。彼らは戦闘では非力だった。だが、持ち前の頭脳で他種族を撃退していた。
この三つが三竦みの状態にあるために平和は続いてきた。
もしそこに新たな種族が現れればとんでもないことになる。
「現状はこんなところだろう」
「……お前は教養があるほうなのだな。てっきり何も言わないから言葉を知らないのかと思っていた」
「失礼だな……!?」
彼女は薄く笑みを残しながら歴史の糸を辿っていく。
「アハハッ……で、その新たな種族の存在だが、それこそが魔物なのだ」
ここ300年のうち、気づけば存在していた魔物の存在。考えてみれば、彼らに関する情報が一般人である俺たちに伝わるのは稀だ。
唯一知っていることといえば、それぞれ強力な種族魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣であるくらい。
「だが、なぜそんなことが分かる?お前がここにいたということは地上には今までいなかったというわけだろう?」
「確かに私は封印が解けたばかりで現在の知識には疎いところもあるが、その300年前の事象はよく知っている」
……なぜ?
ここにいる少女がなぜ、そんな大昔の話を詳細に知っている。
「……考えることはない。私は封印で力が弱まってはいるものの吸血鬼で、死ぬことはない」
つまり彼女は最低でも300歳で、確実にそれ以上。
後期高齢者。なんて表現がぬるいくらいの年齢であるということ。
……吸血鬼の年齢ってどうなってんの?詐欺じゃん。
「何か失礼なことを考えているようだが、実際のところ私は18歳だ。そこで時間を止められていたからな。私からしてみれば300年前など昨日のことのようだ」
くっ……1歳ズレたか。なんてことはいいとして、時間を止める?
彼女の話を聞くごとに俺の頭はおかしくなっていく。現実を改ざんされているようなものだから当然なのかもしれないが、それにしてもこの世界はどうなっているんだ。
俺はこめかみに手を当てた。
「魔物とはもともと力のない人間族が発明した生物なのだ」
「……待て。なら、魔物の研究は300年も前に成功してしまったというのか?」
「信じられないか?」
「まあ……だったらなぜ他種族が気付かない、という話になる」
「だったら私は何だ?」
吸血鬼。誇り高き自尊心を兼ね揃え、実力も超災害級の魔物。
……そうなれば登録の概念も狂ってくるな。元々知っているものを登録しているということになる。
首を傾げた。
自分の命がなくなるかもしれないという状況から、その敵と話を弾ませ、さらには国家を揺るがす大事実を知る。
こんな経験をした方がいらっしゃるなら、早急にご連絡いただきたい。
「……じゃあ、勝手にまとめさせていただくけど。つまり、お前が言いたいのは『自分を恐れないで欲しい』そういうことか?」
「……あ、ああ。……って何を言っている!?私はーー」
「吸血鬼だ。封印されていた。だから血が欲しい。でも、そんな残酷なイメージをしないで欲しい。何だかんだいっても、まだ未熟な女なのだから」
目を瞑って、ここまでの流れを思い返して、思い当たるところをピックアップして羅列し終え、目を開くとそこには顔を真っ赤にした吸血鬼がいた。
口をパクパク動かしているが、否定できないようだ。
成り行きはどうあれ、俺の吸血鬼に対する敵意は抜けた。
それには俺が時代から切り離されて一人になった彼女に共通点を見出したからかもしれない。
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