No.7
頬がジンジン痛む。
俺はおもむろに頬を撫でた。
ビンタ……!?吸血鬼が人間にビンタをしたのか!?
思うところがあれば、容易に殺すことだってできただろうに。
なのになぜ?
「ああ……いや、すまない」
「い、いや……」
吸血鬼は下を向いて歯軋りしていた。手を出してしまったことを後悔しているらしい。
別に自分より下の者に何をしようが上の者の勝手だと、これまで何度も言ってきているのに。
それとも高貴なだけに、下賤な者に触れてしまったというわけか?
「……お前も人間なのだった。……すまない、勘違いしていたようだ」
「勘違い?人間?……何を言っている?」
とても苦々しげな口調で彼女は話す。まるで、大きな思い違いを見つけてしまったかのように。
「これも何かの縁だ。この際、吸血鬼について教えてやろう。……どのみちお前は死ぬのだから」
「っ!?」
そうだった……。俺は殺される運命だった……。
だが、変えられない既成事実を思い出させられている割に、異常というくらい落ち着いていた。
「……吸血鬼は人だった」
彼女は滑らかに話始めた。
……ってちょっと待て。それは飛ばし過ぎではないだろうか。
よし、一度落ち着こう。
吸血鬼は魔物。
吸血鬼は魔物。
「この表現は正しくないな。うん。正確には魔物と呼ばれる存在は人の手によって作り出された存在である……それを知っておかなければならない」
「ちょっと待て……。それはおかしいだろう?ならばなぜ人は魔物と戦っているんだ?」
俺はしっかりと彼女に向き直った。
もう状況がなんとか、パーティーがどうとか、そんなことはどうでもいい。
はっきり言って彼女の語ることが真実であるかは甚だ疑問だが、もしそれが真実ならこれまでの認識が狂ってしまう。
大袈裟ではなく、実際問題、王都政治は総崩れするだろう。
「それを理解するには少し前の時代について知らなければならない。……聞きたいか?」
彼女は口元をいたずらに歪め、ほくそ笑む。
……クソッ!腹立たしい!
全然恐怖は湧かないのに、なぜ苛立ちは湧く?
だが……この話は聞くべき話だ。
「……聞きたい」
「んん?聞こえんな?」
「聞かせてくださいお願いします……!」
果たしてこの吸血鬼は本気で誰かを殺すつもりで一人を残したのだろうか。
それにあの場で目立たない俺を指名したのも疑問点だ。
……分からん。何を考えている。
「よろしい。ではどこから話すべきか。……よし、決めた。ここからは今から300年前のまだ種族同士が大っぴらに戦争を起こしていた頃の話をしよう」
彼女も俺に習い、腰を下ろした。
ミノタウルスは入口の扉に移動する。
彼(?)はもしかしなくても、彼女のボディガードらしかった。
そして話は始まる。