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No.6 それぞれの独り言

 ザァーと水の流れる音が聞こえる。

 冷たい微風が頬を撫で、冷えていく体が身震いした。

 斧を掴んだまま直立不動のミノタウルスに銀髪の吸血鬼という絶望的事態に俺は考えることをやめていた。

 本能のままに、ぼーっとゴツゴツした硬い地面に座っていた。


「グスッ……ああまったく、お前も苦労な人だな。不憫すぎて言葉がないわ」


 なんの脈略もなく吸血鬼のそれは口を開いた。


「人はいつの時代も利己的だ。……お前、さっき取り引き“物”と言われていたぞ?……クククッ、とんでもないお仲間だな」

「………………」


 吸血鬼は独り言のように続ける。


「にしても己が非力で、憎む者が強者であるとはな……神とは理不尽だ」

「………………」


 ーー神の存在。

 それをこの世界の人々は重要視している。重要視という言葉では緩いくらいに信仰している。

 ……だがなぜ信仰するのか?

 ……それはいざという時の理由付けのためだろう。

 ただそれは主観的意見で客観的に言うならば、

 ……自分たちに恵福を与えてくれる偉大な存在への感謝ということになるのだろう。

 だが実際、どれだけ祈ろうとそれが叶うかは不明。

 そう。


『神は貢がれはするものの、姿は現さない』のだ。

 

 ……まあ、こんな解釈を語れば『人任せ』とか『棚上げ』とかといわれるかもしれないが、俺はそうは思わない。思えなかった。

 簡単に言おう。


 ーー神に慈悲があるならば、こんな状況は生まれていない。もとより、人は悲しまないはずだからだ。


「……にしても急に無口になったな。あの連中といた頃は少なからず一言二言は口を開いていただろう?」


 吸血鬼は楽しげに首を傾げる。

 艶やかな銀髪の長い髪に、水晶のような潤んだ瞳。吸血鬼の特徴でもあるらしいが、ガラス細工のような整った顔立ち。

 ……見かけ上17歳くらいか。

 こうしてみれば、単なる美人な若い女性に見える。


「……君は何なんだ?」

「お前も失礼なやつだな。お前のパーティーの剣士みたいにへりくだらんでいいのか?」


 吸血鬼は目を輝かせている。人のことをそんなにいじりたいのか。


 俺は鬱陶しげに返した。


「……もう逃げ場のないこの状況で、今更命乞いなんてするわけがないだろ。あの場に置いていかれた時点で、俺の命はお前に握られているんだからな」

「……お前。私が指名した時も思ったが、変わったやつだな」


 そうかいと適当にあしらいそっぽを向き、歯噛みした。何で限りなく人間に近い魔物のお前に言われにゃならんのかと。


「ああ……いや、悪い。ただ私は話をしていたかっただけなのだ」

「冗談はいらねぇぞ。魔のダンジョンなんて呼ばれる場所でそんなことを言われてもちっとも嬉しくねぇし、俺はお前の糧なんだろう?」

「ああ……いや……」


 すると吸血鬼は突然ドギマギして、さっきまでの威厳が失われていた。俺は唇を噛んだ。

 ……とにかく魔物の考えることは分からないが、魔物だけあっていいことではないのは確か。


「血を吸うのか?殺して快楽を得るか?それとも……下僕にでもする気か?」


 どのみち人生が終了するなら、一矢報いて死んでいきたい。目を細めて銀色の髪を、おしとやかに立つその姿を凝視した。


「えっ……ええと……」


 突然やる気になった人間に吸血鬼でさえ、動揺を隠せないようだ。


「俺は……俺はな、人に使われることには文句はねぇんだよ。別に俺が不幸せになるわけではないからな。ただ、からかわれたり弄ばれたりするのは、とてつもなく嫌いなんだよ……!」


 俺は足を震わせ、息を乱して、叫んでいた。

 

 今度ばかりはまずかったかもしれない。

 今度の相手は腹立たしい人ではなく、魔物だ。それも吸血鬼だ。

 でも……俺を襲う敵だーー


 ーーパシッ……!


 キレのある小さな音が響いた。

 何が起こったのだろう。

 心なしか頬が熱く、そして痛い。

 呆然としながら顔を上げると、そこには視線を逸らした吸血鬼がいた。


 

洞窟編が書き終わったら、王都編を書こうと思っています。

ボロも多いので流し読みで読んでください……泣

初投稿なのですが、感想やブクマを頂けてびっくりしています。

これからもよろしくお願いします!

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