No.1 影に隠れた冒険者
連載始めます!
頑張ります!
近接攻撃に特化し、俊敏な立ち回りで柔軟にその場に対応する頼れる剣士、アーサー。
14歳にして、国王直属魔導騎士団団長に就任した王都創設以来の天才魔導師、アッシュ。
敵国の一個隊を一人で守り切った王都の守護神、グレゴリー。
千年に一度の美貌をもち、奇跡の聖女と呼び声も高い聖職者、カルラ。
その影に隠れた男こそ、無職者の俺、シュウ。
こうして見れば、確かに凡庸で頼りがいのない男だった。古くからの付き合いという肩書だけではもう限界であることを、俺は何となく感じていた。
「アーサー、アッシュ、そしてカルラ。俺たちは“五人で”ここまでやってきた。が、シュウでは俺たちについてくることはできない」
隣の部屋からグレゴリーの苦々しい声が響いてくる。
月のやぐら。そう銘打たれた宿屋は俺たちをプレミア会員として無償で一人一部屋を貸してくれていた。
だが、いつからか彼らはパーティー会議の際、俺のことを呼ばなくなった。
「まあ、実害はないしいいけどさ。ただ……ちょっと寂しいよな……」
ベッドと机だけの小部屋に静かに声が響いた。
無職者の俺だが、唯一ひとつだけのスキルがあった。
収納スキル。あらゆるものを無限大に別空間に保存できる能力だ。
そういうわけで、普段は彼らの荷物持ち兼雑用係として利用されていた。
「まあ、そうですね。高難易度クエストを主軸とする僕たちには戦闘力が必要です。だったら、メンバー交代をすることこそ得策かと」
美形でアイドル的立ち位置になっている彼も実際はこんなところだ。
「……俺も何とかしようとは考えている」
続いて聞こえたのはアーサーの声。嫌々庇っているようや口調だ。
もう俺がこのパーティーにおいて必要とされていないことは明らかだった。
それでもまだ俺が追放されていないのは彼女の意見が多かった。
「シュウさんも出来ることはやってくれています。努力する人を追い出すのは……」
カルラは言った。
さすがは聖女と言うべき発言か。
要するに俺がまだここにいるのはカルラの慈悲によるところが理由だったりする。
「……まあいい。次のダンジョン攻略でシュウの残留の賛否は決めるとしよう」
「そうですね。次の攻略は魔のボーナスステージと呼ばれる謎のダンジョンです。ちょうどいいでしょう」
「俺も賛成だ」
「魔と呼ばれるダンジョンですからね……慎重に行きましょう」
隣で椅子が引きずられた音が聞こえる。
『シュウ、お前は気のいい奴だが実力のないお前を俺たちはいつまでも見切れない。俺たちはそれくらいの場所まで来ているんだよ』
頭の中で声が聞こえた。
アーサーのユニークスキル《意思伝達》によるものだろう。
「……そうかい」
今夜は怒りで眠れなさそうだ。
どうしてこうなってしまったのか。
伝説のパーティーと呼ばれ、4人の勇者なんてセリフが言われるようになってからしばらくが経つが、その間も俺は貢献していたように思える。他のパーティーとの交渉、荷物運び、後処理、家事全般……。どれも能力を必要としないがなくては困るものだ。
当然の如く、彼らのお願いには無償で応えてきたが、その分の経験値はどこにも付かない。そうなれば四人との差が広まるのは必須。
だがそれに甘えていいと思っていたのは俺だけのようだ。
「……ハァ、アホらしい」
天窓を見上げると、そこからは満点の星空が降り注いでいた。
次の攻略で俺がパーティーから追放されることはなんとなく分かっていた。