41◆sideリーゼロッテ 天才少女と魔導殺し①
リーゼロッテ視点になります。
「ーー【虹彩の槍】!」
「グガァァァァ!」
「邪魔ですわよ! はぁっ!」
行手を阻むモンスターを【虹彩の槍】と手に握った【虹彩の剣】で薙ぎ払いながら目的地へ向かう私は現在、商業区に入ってすぐの街並みを走っていました。
リリーナがモンスターを素早く対処してくれているおかげで建物、住民共に被害は大して出ておらず中央区とは比べ物にならない程被害は軽微です。たまたま買い物の為商業区へ来ていたリリーナには感謝ですわね。
辺りでは騎士や冒険者が未だ空から供給され続けるモンスターに苦言を呈しながらも戦い続けており、住民の避難を先導しています。
「キシャァァァァァァ!」
「ひぃぃぃぃぃ! た、助けてくれぇぇぇぇ!」
「っ! いけませんわ!」
ふと逃げ遅れた住民がカマキリ型のモンスターに襲われているのを発見したので足を止めて助けに向かいますが直後、その頭部を一筋の光が貫き、モンスターは力無く倒れました。こんな芸当が出来るのは一人しかいませんわね。
モンスターが倒れると、近くの屋根から見慣れた金髪のメイドが私達の前に着地しました。
「ご無事ですか。住民のお方、お嬢様」
「メ、メイドさん……? あ、ありがとうございます!」
「流石ですわね、リリーナ」
「勿体なきお言葉です」
そう言ってリリーナはこんな状況にも関わらず普段と変わりない様子で深々とお辞儀して見せました。
リリーナは風、氷、光の三属性の適性持ちで魔法で作った矢を放つ魔導弓の使い手です。魔導弓は矢を作った属性に応じて着弾した際の効果が変わる為、状況に合わせて多彩な使い方が出来る反面で二属性以上に適性がないとその良さを引き出せないという不便さを持ち合わせていて、使い手は王国でも数える程しかいません。
その数少ない魔導弓使いの中でもリリーナは飛び抜けて優秀であると私は思っています。そこそこに広い商業区を一人でこれだけカバー出来るのなんて彼女以外には不可能でしょうね。
その後、助けた住民を通りがかった騎士に引き渡して避難場所までの誘導をお願いすると、リリーナは私に尋ねて来ました。
「お嬢様、何故また此方へ? 此方は私に任せて頂ければ問題ないですが」
「ちょっと事情が変わりました。時間が惜しいので結論だけ言いますが、私はこれからこの事態の原因となるモンスターを倒しに行きますわ」
「いけません。お嬢様の身に何かあったらどうなさるおつもりですか。行くのならば代わりに私がーー」
「リリーナ、心配してくれてありがとう。でも、これは私の役目なのです。誰かに任せる訳には参りません。ここで貴女に任せてしまえば私はきっと、彼女と対等ではなくなりますから」
普段謙遜していますが、リリーナは強い。多分、私よりも。彼女に任せたらきっと私の代わりにモンスターを倒してくれるでしょう。
ですが、それではダメなのです。そんな事をしたら、私は二度とサラさんと対等ではいられない。私より遥かに難しい役割をこの後担う事になる彼女と並び立つ資格は無くなります。
それに、もしこの状況でリリーナがいなくなればモンスターによる被害はどんどん広がるでしょう。私では、リリーナと同じ事は出来ませんから。
「リリーナはこのまま商業区の防衛をお願いします。一人でこれだけ街を守る芸当は私には出来ないのです。私を信じて下さい」
「……わかりました。ですが、条件が一つ」
「なんでしょうか」
「決して怪我はならさぬ様。無傷で帰ってきて下さい。では、失礼します」
そう言ってお辞儀をすると、リリーナは凄まじい跳躍力で屋根に飛び乗ってそのまま走り去って行きました。
「……無茶言いますわね、相変わらず」
苦笑いして再び走り出す。これから戦うのは相当強いモンスターだと言うのに、無傷で勝つなんてどんなハンデですか全く。メイドが主人に無茶振り等、他所の家じゃ聞いた事もありませんわよ。
ですがまあ、やってみせましょう。従者の信頼に応えるのも主人の役目ですから。
襲い来るモンスターを薙ぎ払いながら走り、数分で目的地に到着しました。ですがーー
「これは一体……? 静か過ぎます」
そこは何故か異様に静かでした。まるで辺りから切り離された様に静かで、モンスターも見当たりません。
……そもそも、リリーナがこんな異様な光景を見逃すとは思えません。一体何がーー
「っ!?」
辺りを見回して突如身体に悪寒が走った為思わず後ろへ跳ぶと、今までいた場所がバコン! という轟音と共に吹き飛び、地面の煉瓦が粉々になっていました。
「そこに何かいるのですか!? ですが、姿は何処にもーーっ!? 【虹彩の氷壁】!」
また悪寒が走り咄嗟に目の前に氷で出来た見えない壁を張るとドゴォン! と凄まじい衝撃と共に壁にヒビが入りましたが、壁に触れたおかげで何が当たっているのかがわかりました。
それは拳です。恐らく金属で出来ているであろうゴツゴツとした巨大な拳がそこに見えました。ならばーー
凄まじい衝撃に耐えきれずに壁がパリン! と割れる音を聞きながら私は衝撃を逃すべく自分から後ろに飛ぶと、自分の背後に氷の壁を出現させてその壁を蹴り、前へ飛びます。ーーお返しですわ!
「【虹彩の巨拳】!」
虹色に輝く巨大な氷の拳は振るわれた私の腕の動きに合わせて動き、確かな手応えと共に見えない何かに命中しました。
姿が見えないまでも地面を抉られて行くのを見て吹き飛んだ事を認識すると、見えない何かは少しずつその姿を表して行きます。
その姿は白銀に眩く輝く金属の身体。人間によく似たその姿がなんなのか、私は知っています。
ーーゴーレム。地上に出現する事は殆どなく、主にダンジョンや遺跡等に出現するモンスターです。その強さは種によってまちまちですが、共通して硬い身体による防御力の高さとその剛腕による高い攻撃力が特徴的です。
これはその中でも非常に厄介で、別名【魔導殺し】とも呼ばれている私にとって相性最悪の相手ーー
「【ミラージュゴーレム】……っ! 何故こんなモンスターがここに……!」
目の前の相手を認識し思わず息を呑む。ミラージュゴーレムは高位なダンジョンの隠し部屋や宝箱近辺で目撃例が数件あるだけの危険度Aランクの災厄指定モンスターです。
自身の周囲の認識を阻害してあたかもその場所がないかの様に認識させ、それでもたまたまそれを破って近付いた者を光を利用した周囲に溶け込む迷彩能力を持って不意打ちし、数多の高ランク冒険者を一撃で葬り去って来た死の番人。
目撃例が少ないのもそもそも、ミラージュゴーレムと出会って生きて帰った者が少ないというのが大きいのだと思います。死んだ冒険者は恐らく、自分が死んだ事すら気付かなかったのが大半でしょうが。認識阻害については恐らく元よりそこに向かう、と決めているなら効果は無いのでしょう。サラさんの【隠密】と似た様な感じですわね。
ここまででも厄介なのですが、更にこのミラージュゴーレムは魔法に対して極端に強い耐性を持っています。つまり、私との相性は最悪です。ですがーー
「出来れば使いたくはありませんでしたが……ルーちゃん、秘策使わせてもらいますわね。ーー聖器よ、我が元へ来たれ! 今、主人が汝を必要としている!」
私が手を地面に翳し、そう詠唱すると地面に光り輝く魔法陣が展開され、そこから一本の杖が現れました。
その杖は全体的に金と白を基調としたデザインで、先端には三日月があしらわれており、触れずとも膨大な魔力を感じられます。ルーちゃんから授かった秘策。その名はーー
「聖器召喚! 来なさいーー【三日月の流星杖】!」
その名を呼び、掴み取る。
杖に触れた瞬間、身体中に魔力が漲るのを感じる。……流石は聖器。こんな人知を超えた杖を使って、負ける訳にはいきませんわね。
「覚悟して下さい。魔導殺しだかなんだか知りませんが、虹彩の魔女の前に立った事を後悔させて差し上げますわ」
ルーちゃんから授かった秘策、三日月の流星杖を手にしたロッテが次回、魔導殺しに挑みます!
更に、今日で丁度連載開始から一ヶ月になります!読んで下さる皆様の応援のおかげで一ヶ月毎日投稿を続けられました!ありがとうございます!
連載開始一ヶ月を記念して今日は久々の二本更新!夕方頃を予定しています。お楽しみに!
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それでは、次回の更新でまたお会いしましょう!




