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魔法が使えないのでギルド職員をクビになりそうです〜わたしの師匠は魔王様にゃ!〜  作者: 椎名咲良
1章 落ちこぼれ少女が魔王の弟子になる話
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36◆side??? 魔導ギルドと騎士団②

続きです。毎日閲覧、ブックマークありがとうございます。

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「こんなもんは擦り傷だ! この非常時に怪我をしたからと戦線離脱等、我が正義が許さん! 今すぐ戻らねば!」


 また始まったよ、と支部長は溜め息を吐く。

 

 目の前のこの男はとにかく厄介だ。頭が硬く融通が全く効かない上、正義感が異様に強く正義の為ならば自分の身や立場など一切気にせずに行動する。


 今回の場合、それが自分の身だった。頭からは流血し明らかに満身創痍の状態にも関わらずモンスターが蔓延る街に戻ると言うのだ。いくらなんでもこの身体では命を捨てに行く様なものだが、それすらも美学と捉えているのがこの男だ。


「……あのなあ、その怪我じゃ無理に決まってんだろ副団長殿。そんな身体で戻っても死にに行く様なもんだ。せめてちゃんと治療してからにしろよ」


「そんな時間は無い! 今戦わずしていつ戦うと言うのだ! 今この時も街の人々はモンスターに襲われている! 街の平和を守り、人々を助けるのが騎士だ! その為ならばこの命、惜しくは無いわ! 失礼する!」


「待て。何ふざけた事をぬかしてんだクソジジイ」


 言いたい事だけ言って部屋を出ようとする副団長に支部長が怒りを露わにそう投げかけると、副騎士団長の足が止まる。


「……なんだと? 貴様もう一度言ってみろ魔導ギルド! 正義を侮辱する気か!」


「前から馬鹿だとは思ってたがここまでとはな。馬鹿も休み休み言えクソジジイ。正義感が強いのは結構だが命を粗末にすんな。大体、テメェが死んだら誰が騎士団を纏めんだよ」


「騎士団長殿がおられる! 私が死んでも正義感溢れる騎士団長殿ならば、騎士団の正義を果たして下さるはずだ!」


「……残念だが、もう騎士団には正義はねえよ」


 支部長はそう言って机の引き出しから一つの書類を取り出し見せつける。今朝方、サラ達に見せた物だ。


「……なんだ、それは」


「こいつにはとあるリストが記されてる。昨日、うちの優秀な職員が【アーリアル商会】の地下施設で人体実験が行われてる証拠を掴んでな。そこに被験者として捕らえられていた人間についての身元調査の結果だ」


「じ、人体……実験だと!? み、見せろ!」


 血相を変えて支部長に駆け寄り、書類をひったくると食いる様に書類に目を通していく。


 書類に目を通していくに連れてどんどん顔色が悪くなって行き、全て読み終わると力無く床に膝をついた。


「そ、そんな馬鹿な……全員がここ一ヶ月に騎士団に逮捕されてから救助されるまで行方不明だっただと……しかもこの名前、数人見覚えがある……私が調書をとった者達だ……そんなまさか……信じられん……」


「これが真実だ。騎士団は裏で逮捕した奴を【アーリアル商会】に人体実験の被験者として流していた。しかもその中には合成魔獣(キメラ)に改造され、化け物にされた者もいたそうだ。十中八九騎士団長も黒だろうよ。うちの職員が見つけなかったらどうなっていたか」


 そう支部長に告げられ、副騎士団長はついに項垂れる。信じられなかった。


 己の信じた正義は、一体なんだったのだ。正義と信じた騎士団には正義はなかった。正義は魔導ギルドにあったのだ。


 己の全てを否定された気分になった。正義感が強く、信頼し着いていくに値すると信じた騎士団長が、裏ではこんな悪事に手を染めていたというのは特に堪えた。もう、何を信じたらいいのかわからなくなり、


「……私は、何を信じたら良いのだ」


 無意識に、今まで他人に見せた事のない弱音が漏れた。騎士とは街の人にとって強さの象徴。強く在り続けなくてはならなかった。努めて強い姿だけを見せ続けて早数十年、初めて弱音を吐いた相手はよりにもよって今まで散々恨み言をぶつけてきた相手だった。


 副騎士団長の漏らした弱音に支部長は何を言ってるんだこいつは、と言わんばかりに首を傾げると、


「何って、今まで通りでいいだろ。今まで通りあんたの正義とやらを信じたらいいんじゃねえのか」


 そうサラリと言い放つ。


「……簡単に言うでない。私は騎士団の正義をずっと信じてきた。だが、騎士団に正義はなかったのだ。ならば、私の正義とは一体何だというのだ……」


「……はぁ、んな難しく考えずにシンプルでいいだろ。よくわかんねえけど正義なんて結局、何が一番大事で守りたいかだろ。多分な」


「一番大事で守りたい物……」


 支部長の言葉に副騎士団長は自問自答する。


 ーー騎士団の名誉? ……違う。


 ーー騎士団長への忠義? ……違う。


 ーー騎士としての誇り(プライド)? ……違う。


 ならばーー残りは一つしかない。


「……この街だ。この街の人々だ。私はこの街が好きだ。この街の全てが私の宝だ。その為に私は、出世の話も蹴ってこの街を守り続けて来たのだ」


 この副騎士団長は非常に優秀だ。騎士になって数十年、出世の話が無かった訳ではない。騎士団長への昇進の話もあった。


 だが、それは全て断った。出世をすれば、この街にはいられなくなる。それでは意味がなかった。


 彼は他でもないこの街を守りたかった。生まれ育ったこの街を。だからこそ出世の話を断り、この街と共に在り続けた。


 しかし今、この街は大きな危機に晒されている。突如結界は破られ、街にモンスターは溢れて街の人々は今も襲われている。街はこのままでは取り返しのつかない事になる。


 騎士としての名誉? 誇り(プライド)? そんな物豚にでも食わせろ。それよりも大事な物がある。


 傷だらけの身体に鞭打って足腰に力を入れて立ち上がると、支部長を力強い眼差しで見据える。その目には先程までとは違い、覚悟が宿っていた。


「私はこの街を、人々を守りたい。だが、それには悔しいが力が足りないのだ。……頼む、街を守る為に、魔導ギルドの力を貸してくれ」


 そう言って深々と副騎士団長は支部長に頭を下げる。こんな事が他の騎士に知られれば失望されるだろう。騎士団の手柄を奪う憎き魔導ギルドと手を組む等、と。数分前までの真実に折られる前の自分が知ってもそう思うと確信出来た。


 だが、それを副騎士団長が気にする事はもう無い。優先順位はもう決めたのだ。元より正義の為ならば身や立場など気にするのはとうにやめている。


 支部長は深々と頭を下げる副騎士団長に支部長ははぁ、と溜め息を吐くと再び通信魔道具で連絡を取る。


「俺だ。また怪我人の手当てを頼む。何、だから何処からかなんてのは後だって言ってんだろ何度も言わせんな。俺の部屋まで大至急だ」


 そう言って通信を一方的に切ると、支部長は改めて口を開く。


「副騎士団長殿はまずは怪我の治療をしろ。魔法薬やら回復魔法の使い手は待機させてるから、外に出るのはそれからだ。治療が出来次第魔導ギルドと騎士団で協力して救助に当たる、これでどうだ。後、騎士の連中の説得は頼むぞ」


「承知した。……感謝する」


「別に礼を言われる事じゃねえよ」


 支部長がぶっきらぼうに吐き捨てると先程の男性職員が部屋にやって来て騎士がいる事に目をギョッとさせるが、副騎士団長の「急いで治療を頼む。時間が惜しい」との言葉に我に返って急いで副騎士団長を連れて部屋を後にした。


 再び誰もいなくなった支部長室で支部長は出る準備を始めるがふと思い出した様に、


「……そういやここに飛ばされて来るんだよな。人を置いておかねえと。ったくサラの奴、場所を考えろってんだよ面倒くせぇ」


 今もなお、街中で救助に当たっているであろう少女の事を思い出して溜め息を吐くと準備を終えて部屋を後にする。


 魔導ギルドと騎士団。相容れなかった二つの組織が街を守る為に手を取り動き出す。

お読み頂きありがとうございます!


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それでは、次回の更新でまたお会いしましょう!

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