2◆落ちこぼれ少女と夕立
「はぁ……これからどうしよ」
定時退勤後、慣れ親しんだ街並みを歩き帰路に着く。
もうすっかり季節は夏模様で、膝上丈のプリーツスカートから覗く足を通り抜ける風が涼しく心地良い。
私の自慢できる数少ない事の一つであるお母さんから受け継いで毎日入念に手入れしている腰まで伸びたプラチナブロンドの髪が風に靡く。
髪を手で押さえながら夕暮れ時の空を見上げると、夜と夕暮れ時の二つの空の色がグラデーションを作っていた。
夕暮れ時の街は夕食の買い物をする親子や呼び込みをする露店で賑わっており、この喧騒の中にいる間は暗かった気持ちが少し明るくなる気がした。
「らっしゃいらっしゃい! 今日の魚はいいよー!」
「お魚かあ。いいかも」
元気のいい呼び込みにふと漏らす。私はどちらかと言うとお肉よりお魚の方が好きなタイプだし最近食べてなかったし今日の晩ご飯はお魚にしようかなあ。
こんな時は好きな物食べるのがいいよね。よし、決まり!
「すいません、いいお魚一つください」
「毎度! なら今旬なアジだな。お嬢ちゃんお使いかい?」
「違いますー! もう就職してるし子供じゃないです!」
酷い! 確かに背は低いし童顔な自覚はあるけどそんな子供に見られると流石に凹むよ!
……ちくせう。胸が……胸があればぁ……
「えぇっ!? ほ、本当かい……?」
「魔導ギルド職員ですよこう見えても! ほらこれギルドカード! ……まあクビ予告されましたけど……」
取り出した身分証明のカードを見せる。
最後の方は辺りの喧騒に掻き消されて聞こえないくらい小さな声でボソッと言ったんだけど、負のオーラは駄々漏れだったらしく店員さんは「す、すまん!」と必死に謝ってきた。
ちなみに魔導ギルド職員の服装は基本的に常識の範囲内で自由。
龍とか模したなんか凄そうな感じのギルド印がついた魔導ギルド職員って身分を証明するギルドカードがあるから、それがあれば魔導ギルドの職員ってわかるし、後は常識の範囲内ならいいでしょって感じで自由なんだって。大雑把。
魔導ギルドの極秘技術やらで作られてるらしくて、なんか紛失しても魔力を込めて念じれば手元に転移してくるみたい。謎技術にも程があると思う。
「悪かった! まさか魔導ギルドの人だとはなあ……アジ一つおまけしとくから許してくれな!」
「……わかりました。それで手を打ちましょう」
アジが二匹入った袋を受け取ってお金を払うと、自宅へ向かうべく足を踏み出そうとするがーー
「……あれ?」
ふと鼻先にぽたりと落ちた一雫の水滴に空を見上げる。
一つ、二つと水滴が増えて行き、あっという間に土砂降りになった。
「嘘でしょー! お洗濯物濡れちゃうー!!」
クビ通告で傷心中の私にトドメの夕立って流石にどうかと思う! 今日朝からめっちゃ晴れてたじゃん! 神様私に厳しすぎるよ!
恨み言を心の中で叫びながら私は自宅へ猛ダッシュを始めた。
同じく自宅へ急いで帰宅する親子や店仕舞いを始める店員を横目に自宅への道を走る。
こう見えて体力にはそこそこ自信があるからね。このくらいでは息切れはしない。
次の曲がり角の先が自宅というところで道端の隅っこに何やら白いモノが転がっているのが見えた。
最初は気にしていなかったが、「にゃあ……」と小さな鳴き声が聞こえて、私は慌てて駆け寄る。
「ちょっと大丈夫!?」
小さく真っ白な毛の猫がそこには倒れていた。
身体は泥で汚れて雨に打たれたせいで体温が下がって身体を震わせているし、身体中傷だらけで息も絶え絶えだ。聞いておいてなんだけど、どう考えても大丈夫じゃない。
このまま放置したら間違いなくこの子は死んじゃうだろうし、連れて帰りたいけどうちペット禁止なんだよね……ってそんな事考えてる場合じゃない!
「私が絶対助けてあげるから」
服が泥で汚れるのやら洗濯物やらペット禁止なんて些事はもう気にせず、その白猫を抱き抱えて目と鼻の先にある自宅に入る。
素早く荷物を置いて部屋に置かれたかなり大きめなサイズの棚に向かう。
学生時代魔法薬学を専攻してた事もあって私の自宅の棚には大量の魔法薬や材料となる薬草、魔法薬について書かれた本が収納されている。その中にある一際目立った瓶を一つ取り出す。
他の試験管くらいの細長い瓶に入った薬とは違い、フラスコの様な大きな瓶に入った薬は卒業祝いの餞別にお世話になりまくった魔法薬学の教授がくれた一つ買うのに家が建つらしい超高級魔法薬【エリクシール】。
名前を聞いて余りの驚きに思わず落としそうになった。餞別でこんな物渡されるとか流石に思わない。
この薬を受け取れないと突っ返そうとしたら教授は、
「いいから受け取っとけ。どうしても貰えねえならそいつは預けとく。だが、そいつを使わないと救えない命に出会ったら迷わず使え。金で買えるそいつと違って命は金で買えねえんだからな」
と言って、後は聞く耳持たずだった。教授、この薬使わせてもらいます。
瓶の蓋を開けると腕の中で苦しそうに小さく鳴く白猫の口に薬を少しずつ流し込む。
最初は苦しそうだった猫も流し込む度に表情が和らいで行き、全て飲み終わる頃には穏やかな寝息を立てていた。
どうやら無事に薬が効いたみたい。ありがとうございました教授……!
今ならダメ人間な貴女の身の回りのお世話をさせられまくった事やら、楽しみにしてたおやつを勝手に食べられた事やら色んな事を少し許せる気がします!
……あの人、私なしで生きて行けてるのかな……
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それでは、次回の更新でまたお会いしましょう!




