入学までのお話
初投稿です。頑張って楽しみながら書こうと思います。
平凡な高校生活をおくりたい。中学2年生の夏、神崎涼介はふと思った。
もともと涼介はもともと内気な性格だった。感情を表に出すのが苦手で、人見知りも激しかった。母親はなにをとち狂ったのか知らないが、そんな性格を治せと、小学校3年生の夏休みに、自衛隊の現役鬼教官であり、脳筋バカの異名を持つ祖父の所に、人見知り克服という名目で預けたのだ。
そこからの2ヶ月は酷かった。朝は、5時半に起きてランニング、寒風摩擦をした後に一般的に見て豪邸と言っても差し支えない祖父の家の掃除。朝食をとると祖父と共に自衛隊の官舎に出向き、昼まで勉強。昼食をとると、訓練場で、格闘技の練習やサバイバル術を学ぶ。日が暮れる頃、ランニングをして帰宅。夕食をとり、再び勉強。そして就寝。
普通の9歳なら耐えられないであろうこのメニュー。涼介は2ヶ月耐え切ってみせた。それは祖母のおかげだろう。祖母は、優しく、孫に甘く、料理が上手だった。飴と鞭のようなものだ。鬼のように厳しい祖父の地獄のトレーニング、メンタルもボロボロで、心は折れかけ。そこに、祖母の優しい言葉と美味しいご飯。涼介はご飯と祖母に甘える時間だけが至福のときだった。
あっという間に2ヶ月はすぎ、地元に帰ってきた時、涼介はものすごく変わっていた。内気だった性格は前向きになり、勉強も運動も、学年でトップと言われるまでに上り詰めた。当然、トレーニングはずっと続けている。そのため、6年生の秋頃には独特のオーラを纏っており、かなり、モテるようになっていた。
これから順風満帆な学校生活が幕を開ける。内気でダメダメだった自分はもう居ない!今いるのは、勉強も運動も、努力して出来るようになった神崎涼介だ。必ず華やかな中学校生活を送り、彼女を作ってみせる!
彼の決意が無駄になったのは小学校6年生の冬休み後、卒業まであと2ヶ月を切ったある日のことだった。
この日も学校が終わり、家に帰った。宿題を済まし、ジャージに着替えてランニングをする。走り終えた涼介はシャワーを浴びて、夕食を作っている母親を手伝う。お椀をならべ、箸を出していると、父親が帰ってきた。しかしどうにも父親の元気がない。どうしたのかと気にしながらも席に着く。母親も椅子に座り、着替えてきた父親も座る。いつものように食べ始めようとした涼介を父親が止めた。
「涼介、少し待て。」
「なんだよ、俺もうお腹限界なんだけど。」
と涼介が文句をいうと、父親は神妙な面持ちで話を切り出した。
「母さん、涼介、父さんな…出世することになった。」
「あら、やったじゃないあなた。おめでとう。」
「ああ、ただ…」
「どうかしたの?」
「えっと、父さんな、転勤になった。」
「「えっ?」」
「都市部への転勤だ。」
神崎家はあっという間に引越しを決めた。しかし、ここで一つ予期せぬ出来事が起こる。
涼介の通う予定の中学校、市立渚中学校は荒れており、恐喝、喧嘩当たり前の恐ろしい中学校だった。
中学生になった涼介は気づけば渚中学に完全に染っていた。祖父のもとで鍛えた格闘術に加え、トレーニングで鍛えた運動センス、反射神経、そして何事も恐れない強靭なメンタル。小学校で身につけたことは皮肉にも、全て喧嘩の役に立った。
1年生が終わる頃には、1年のトップと呼ばれるようになり、2年後の渚のトップは涼介だと言われるようにまでなっていた。
生憎、家族には不良化したことはバレていない。勉強は相変わらず続けていて、もはや習慣化しているので成績は良いままだ。そのため、父親は当然気づかない。だが、喧嘩でできた傷や汚れは、母親にバレる。しかし、涼介ママンは良くいえば天然、悪くいえばどこか抜けているので、普通にバレなかった。
家では成績優秀な良い子。学校では学年トップの不良という生活を続けていた涼介は2年生の5月、学年で2番目の強さを誇り、涼介の右腕とも言われる、高山健吾にある相談をしていた。
「…なあ、健吾。」
「どしたー?そんな顔して。」
「俺、どこで間違えたのかな」
「と言うと?」
「いや、小学校6年までは順風満帆な人生だったさ。弱さも克服して、モテて、でも…今の俺を見てみろよ!」
「普通に涼介はかっこいいぞ。」
「だが、モテない!よってくるのはコワモテばっかだ!尊敬出来る先輩?慕ってくれる後輩?仲のいい同級生?…全員男だろうがぁぁぁぁぁ!」
「まあ、普通の感性の女子なら渚には来ないだろうな。てか、なんで涼介は来たんだよ。」
「転校生だったからな、渚がここまで酷いとは思わなかった。」
「そういやそうだったな。…話を戻そう。涼介はモテたいのか」
「いや、モテたいってのもあるけど、一番は…普通だ。普通に学校生活をおくりたい。」
「…そうか、なら協力するぞ。」
「本当か?」
「ああ、俺は涼介の親友だからな。」
と爽やかに笑いながら健吾がいう。ここで彼らは高校では普通に過ごすことを決めた。
涼介は残りの学校生活をはっちゃけ、楽しみながら、健吾に勉強を教えながら、と自由に過ごし、健吾と共に無事に県内屈指の進学校、私立城西高校に合格したのであった。
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