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第六十八話 洞窟探検のおはなし

 ラットたちは洞窟内へと踏み込んでいった。

 これ以上の待ち伏せがあるとは考え難かったが一応は探知魔術を使い、あやしげな生命反応が無いかどうか定期的に確認をしてゆく。

「カイルの探知ももう手慣れたものね」

 ミリィはそう言っていた。あの遺跡探索以降、基本的に敵の探知についてはカイルが受け持ち、ミリィの探知は先程のような変則的な使用が必要とされる状況や、洞窟内での隠された地形、あるいはトラップの兆候を見るために用いる、という分担がなされている。

 そしてその分担に従って、カイルは少なくとも近距離には他の生命反応、或いは魔法構造物やアンデッドなどを示す動体反応が無い事をラットたちに告げたのであったが。

「ここって、小さい洞窟って話だったよね?」

 カイルは続けてそんな事を言う。


「もしかして、割と広いのか?」

 問い返したラットにカイルは曖昧に首を傾げてみせた。

 どうも反応が少しおかしいらしいのだ。

「……別の洞窟と繋がった……?」

 そんな事を言うエイミィに、ラットは視線をむける。

 ラットとしてもそういった危惧が無いではなかったためだ。入り口に刻まれていた小さな足跡は確かにゴブリンのものと思えたし、であればゴブリンが全く居なくなっているというのは少し不思議だ。


 洞窟の放棄。音響弾サウンドブラストに反応がなかった時点では考えたことだが、ありうるとしたなら他の魔物に追い出されて、といったところがその可能性としては高いだろう。

 だが、出て来たその『他の魔物』はホブゴブリンだった。ゴブリンの近縁種であるホブゴブリンは少数がゴブリン集落の中に紛れて住んでいる事もあり、ゴブリンと敵対してこれを追い出すといった事はあまり考えられない。

「少し、慎重に見てみる必要があるかもしれねえな」

 ラットはそう言い、松明に火をつけていた。


 洞窟内の様子を見て回る。

 小さな檻や粗末な寝床、骨に囲まれた鍋。そして集められたがらくたと、そこらじゅうで火を焚いた跡。それらはゴブリンの住んでいた洞窟特有とまでは言わないが、良く見られる痕跡だった。

 その中に薬品の調合台らしき物を見かけて、ラットは興味を惹かれる。


 歪んだすり鉢と乳棒。そしてその周囲に置かれた素材らしき物品は、乾かされたキノコや白と黒の粉末、籠の中に入れられた虫の死骸など。

 明らかに毒物を作ることだけを目的としたようなものばかりなのが、どちらかと言えば薬を作る方がメインである街の薬師や錬金術師の工房とは明らかに雰囲気を異とする部分である。

 ホブゴブリンが所持していたあの爆発小瓶。あれもここで作っていたとするなら、あまり手を触れて良いことがあるとは思えず、眺めるだけに留める。

 そして更に地下へと進もうとしたラットたちは、その耳にかすかな水音を聞いていた。


「地下水が流れてんのかな……」

 言いつつ斜面を下ってゆくラット。そして彼らは行き止まりに到達する。

 ここで終わりということであれば言われた通り小さな洞窟と言えたのだが、水音のする方へと進んで壁を調べていたカイルは、そこに子供ならば通れそうなほどの裂け目があるのに気付いていた。

「ゴブリンたちは、ここから先へ行ったのか」

 そして、この狭い裂け目があったために探知魔術の反応がややおかしかったのかとカイルは納得する。彼には未だ壁の向こうにある空洞を知るような魔術は無い。

「この先もだいぶ長く続いているようですね」

 探知を使い、ミリィはそう言っていた。


 裂け目には若干掘って広げられたような形跡がある。

 おそらくは水音に興味を惹かれたゴブリンが、自分が通れる程度に掘り広げてこの先を見に行ったのだろうが、それが戻ってきていないという事はどういうことなのだろうか。

「どうしよう。やっぱりこの先にも行かないと、依頼が完了したとは言えないよね」

 エイミィはそう言ってラットたちを振り向き、ラットたちも若干唸りながら考えてしまう。

「一応、一旦戻るか?」

 しばしの後、ラットはそう言っていた。

 何と言ってもこれは新米向け依頼なのだ。状況がだいぶ変わってしまった事をギルドに報告し、この先も探索した方がいいのか判断してもらう。

 ただゴブリン退治依頼を受けたままで、何が待っているかもわからないこの裂け目の先へ進むのはどうにも良い事とは思えなかった。

「それが無難でしょうね」

 そう言ってミリィも同意し、ペンギンズは一旦南の街の冒険者ギルドへと戻る。

 そして、報告を受けたギルド側はホブゴブリンが出たというラットたちの話を驚きを以て聞き、一旦調査の人員を送るという事で話は纏まっていた。

 それを経た後にまた依頼が継続となるかはわからないが、とりあえず。

 今の時点ではこの依頼はペンギンズの手を離れたといえる。


 そして、調査結果を待つまでの間ヒマになったペンギンズは、依頼に出る直前に伝えられた宿を訪れ、クレアを訪ねていた。

「もう依頼を一個受けたんだって? どうだい、この街は」

 たった数日程度での再会を大げさに喜び合うでもなく、同じテーブルについたラットたちにクレアは問いかける。

 冒険者の街、であるが故の、新米パーティにとってはどうしても感じてしまう居心地の悪さといったものについての話である事はすぐに察しがつき、ラットたちは苦笑のような顔を浮かべる。

「少し来るのが早かったかな、とは思ってるよ」

「だろうね。新米だけのパーティなんてのは、ここじゃなくたって珍しいんだが」

 ここではそれを、改めて実感させられたろうとクレアは言っていた。


「とはいえ、今更ベテランを迎え入れようって気にもならないんだろう?」

「そうですね……」

 ミリィは笑いながら答える。当初から、パーティの主導権を見ず知らずの人間に明け渡すという事については警戒していた。しかし今ではその理由もだいぶ変わってしまっている。

 この4人だからこそ、と。ラットたちは心底からそう言えるように、この二ヶ月でなっている。

 羨ましいねとクレアは言っていた。

 死が身近であるこの稼業において、そこまで信頼しあえる者達が集まることなどそうは無い。

 だが、危うくもあるというような、そんな感情もそこにはこもっていた。

 誰か一人を失っただけで彼らは瓦解してしまう。代わりの人員など選べないのだから、と。


「それで、あたしの方はまだソロだ。何か手伝えることは見つかったかい?」

 そう言ったクレアに対して、ラットたちは暫し考えていた。そして口を開く。

「それなら……今受けている依頼なんですけど」

 エイミィはそう言って、昼間に行った洞窟探索についての話を切り出していた。


「……なるほどね。調査結果如何によっては、そいつはあんたらの手を離れちまうってわけか」

 ホブゴブリンの時点で、この街の基準では新米冒険者になど討伐は任せない。

 一部逃しはしたと言っても良く6体相手に無傷で済ませたものだと、クレアはどちらかと言えば呆れたような顔をラットたちに向けていた。

 よって、洞窟の再探索がペンギンズに任されない事はこの時点でほぼ確定していると言える。

 しかし上級のライセンスを持つクレアが居るなら、その判断も変わる可能性があるということだ。

「ま、いいだろうさ。乗ったよ、その話。報酬額がどう変わるかってのも気になりはするけどね」

 クレアはそう言って、また一時的にペンギンズに加わる事を承諾していた。

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