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第六十四話 南の街のおはなし

 さて、南の街に着いたペンギンズだが。

 西や東の街とはまたがらりと変わる雰囲気に、彼等は圧倒されていた。

「なんか、物々しいよねえ」

 エイミィは周囲を見回しながらそう言う。

 往来に溢れる鎧姿。冒険者たちの姿が、ここには他の街よりもずいぶんと多いのだ。


「強い魔物――つまり、比較的報酬額の高い討伐依頼を求めて、って事なのでしょうかね」

 ミリィはそう言っていた。

 ジーニス領の南側は強力な魔物が増える。それは主に黒き森と呼ばれる、魔族の大穴を囲う森に生息しており、時折そこから漏れ出てくるものだけでも討伐にはかなりの人手を必要とした。

 ギルドが仲介する依頼の中でも難度が高いものに関しては、依頼の受注にも規定人数というものが設定されるようになってくる。

 1パーティでそれが満たせない場合には複数パーティで受注するなり、人数が揃うまで連絡待ちということになるわけだが、手間がかかるぶん報酬額も跳ね上がるというわけだった。

「それでクレアさんも南へ行くって言ってたんだな。まあ、俺たちにゃ当分関係ねえことだが」

 ラットは言い、ペンギンズは人の波を避けながら街の中を見て回ることとする。


 鍛冶屋が2つ、冒険者の宿が3つ、ギルドの支部も大きな物。

 そして冒険者ギルドと提携していない酒場や飲食店、屋台なども数知れず……と、南の街はまさに冒険者の街といった具合である。

 高い報酬額を一体どこから捻出しているのかとも思ったが、この街で得た報酬の大半は恐らくこの街で消えるのだろう。それは税として街に戻り、また冒険者へと渡されるわけだ。


「ちょっとだけ、依頼の掲示板を見に行ってみる?」

 そんなカイルの提案に従いギルドを訪れたペンギンズは、そのあまりの人の多さにゆっくり依頼を眺めることすらも出来ず、喫茶スペースの隅で縮こまるようにして果実水を啜ることとなっていた。

「こりゃ、依頼の内容どころじゃねえな」

 人の群れを眺めながら言うラット。時間帯が悪かったのかとも思うが、それにしても。

 これでは、恐らくは少なかろう新米向けの依頼を探すことすら困難だ。これまでのように掲示板前で相談しながら依頼を選ぶことなど、出来るとはとても思えない。

「あ、ちょっとミリィ、あれ見てあれ」

 エイミィはそう言って近くのテーブルを示していた。そこに座る冒険者たちは、目の前に浮かぶ映像を見ながら何かを話し合っている。

 彼らが見ている映像は、こちらからではやや見にくいが、依頼掲示板のものに思えた。


「ああ、なるほど。幻像ホログラムの魔術を使ってあっちの映像を持ってきてるのね」

 ミリィはそう言ってうなずき、手のひらに魔法陣を生み出していた。

 光学系の幻術なら彼女はそれなりに得意とするところだ。ほどなくして生み出された小さな四角形の画面を、ラットたちはミリィの後ろに集まって眺める。

 だが。

「あれ……新米向けの依頼って無くねえ?」

 ラットは言っていた。ミリィたちもその映像を拡大したり移動させたりなどしながら探してみるが、新米でも受けられる依頼はどこにも見当たらない。正確には、あるのが要正規ライセンスの依頼ばかりだという事だが。

「ここのギルド支部自体が新米パーティお断りって事でしょうか」

 ミリィはそう言っていた。


 あり得ることではある。その辺の裁量はギルド支部ごとなので、ただのゴブリン退治でも新人お断りにすることは可能だった。以前ペンギンズがやったようにリーダーが正規ライセンスを持っていれば育成枠があっても構わないため、そこまで問題が出る訳でもない。

 なお、リーダー以外全員新人などというパーティの組み方も、長く冒険者をやっている人間ほど通常やろうとは思わない。当然命が惜しいからである。


 といったわけで、新人だけのパーティが受注するという"リスク"を負う新米向け依頼を元々出さないギルドがあったとしても、理解が出来ることと思えた。

「しかし、だとすると困っちまうな」

 ラットはそう言って唸っていた。


「お前さん達、新米だけでパーティ組んでるのかい?」

 と、そんなラットたちのテーブルに近寄ってくる男が一人。

 金属で補強した革鎧にマント、背中には動きを妨げない程度の背嚢と円盾ラウンドシールド、腰には付呪が施された長剣とナイフ、そして頑丈なブーツと手袋を付け、鎧の自分で見える場所には数枚の対魔護符アミュレット

 それは、冒険者剣士と聞いて想像する通りの格好だった。以前クレアが連れていた戦士たちも装備の質は一段落ちるが概ね似たような姿をしていたな、とラットは思い出す。


 30前ほどの年齢に見える彼は、ミリィが見ていた幻像ホログラムを覗き込みながら言う。

「新米向けの依頼を探してるなら一階じゃないぜ。この支部は他の街のよりでかいだろ。依頼の掲示板は難度ごとに幾つかに分けて置く場所を変えてるのさ」

 そして新米向けは二階に専用コーナーが設けられていると言う彼に礼を言って、ペンギンズは入り口前の階段を登ってゆく。

「あれがそうかな?」

 と言うカイルの視線を追うと、そこには柱で区切られた狭いスペースがあった。

 置かれている掲示板を見ると確かに新米でも受注可能な依頼だけが張り出されている。

「しかしまぁ……」

 言いながら、辺りを見回すラット。こちらには本当に人っ子一人居ない。

 下の人だかりが嘘のようだった。


「やっぱり初心者パーティってのは珍しいのね」

 エイミィは言う。まあ、そりゃ初心者も三ヶ月経てばそうでなくなってしまう訳だし、毎日とは言わずとも常に大量の人間が冒険者になるような世界だったら逆にやべー気がするとラットも思っていた。

「だが、そうなると逆にここの依頼の捌け具合が心配になって来るよな」

 ものすごい期間、放置されたゴブリンとかコボルト討伐があるんじゃないかと、ラットは依頼書を一つ一つ眺めてゆくが、幸いにもそういったものは見当たらない。

「ある程度日数が経ったら下に移されるんじゃない?」

 カイルの言葉に、恐らくそういったことなのだろうとラットも納得していた。


 さて、眺めてみたところだが。

「大体ゴブリンね」

 そうミリィは言っていた。ここに張り出されるのは下のおこぼれ、というのも妙な話だが、特別初心者向けに用意されているものばかりだ。そうなるのは仕方ないのかもしれない。

 先にも言ったことだがラットとしては、ゴブリン退治は必要なことだと思っているので特に文句はない。けれどエイミィとミリィ的にはやはり変わったものとも出会いたいようで。

 何度も何度も依頼書を端から眺めては唸っていた。

「古戦場に出るスケルトン退治、どう?」

 エイミィが言い、ミリィは少しばかり苦い顔をする。

「自然発生したスケルトンね。でもそういうのって結構ホーントが混じってるから」

 魔術を使ったり憑依して来たりだのするあいつらはだいぶ厄介なのだとミリィは言う。

「魔王城近くの放棄された監視塔を占拠してる野盗!」

「人間はやめようぜ……」

 ラットはだいぶ真面目な顔で呻いていた。っていうか新米向け依頼でいいのかよそれ。


「だったら……やっぱりゴブリン?」

「それでいいと思うよ」

 苦笑するエイミィにカイルもそんなような表情で答える。

 こういった街の周辺なら以前のような、話が違うってな事にはならないだろうし。

 ラットたちはとりあえず、小さめの洞窟掃討を受注し、宿を決めにギルドを出ていた。

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