第六十二話 調査依頼のおはなし
さて、今回も依頼選びの時間がやって来た。
「とはいえ、どうしましょう」
ミリィは言っていた。南の街へ行く途中でこなせる依頼、そんなにきついものでなく、時間のかかるものでもなく、いや村からの依頼であればそこで途中一泊してしまうのもいいかもしれないが。
ともかく条件を考えるとだいぶ限られる筈だ。
それに合致するものがあるだろうか。
「……丘巨人みたいなのはもうやめようね?」
カイルがぼそっと呟き、ラットたちは苦笑する。
「他にはあれか、依頼説明に無いようなモンスターが出て来そうな奴もパスしねえと」
ラットが言い、ゴブリンシャーマンとトレントは本当ひどかったよねえ、とエイミィが答える。
「じゃあ、森と洞窟も駄目ってことですか?」
ミリィはそう言いながら依頼書の群れを眺めていた。
その上でペンギンズは新米冒険者であるため、幻獣種の討伐は受けることが出来ない。
なかなかに難しいと彼女は唸っていた。
「討伐依頼じゃなくて、何か別なの無いかな。……ほら、あの迷子探しみたいな」
エイミィはそう言って依頼書の束を眺める。
そしてほどなくして、一枚の依頼書を指さしていた。
「ねえねえ、これ。村外れに住んでる、ある女性の調査依頼って、どんなんだろ」
――調査?
ラットたちは微妙な顔をしていた。そんな事、冒険者に頼むべきことだろうか。
「でも、依頼内容が良く分からない割には……他の条件は良さそうなんですよね」
ミリィはそう言って、依頼書を眺めていた。
このジーニス領には4つの街がある。それを線で結ぶと扇のような形になる感じで街は位置しており、領主館のある街が北の街と呼ばれるほど離れてはいないのに対して、南の街はやや遠い。
そして、領主館と南の街を結ぶ直線を更に延長すると、黒き森の中にある魔王城に行き着くわけだが、こちらはまあ置いておこう。
依頼書にある目的地の村は、西の街と南の街を結ぶ直線上にあった。
そこまではちゃんと街道も伸びており、移動のついでで受けるには申し分のない場所。
報酬額も、必ずしも戦闘となるとは思えない依頼内容の割には悪くない。
というか調査依頼であるので、成果があろうがなかろうが調査期間だけ冒険者を拘束する。報酬額は高くなるのが当然と思えた。この間のエルフ国への偵察依頼と似たようなものだ。
「滞在費用は村持ちで、報酬は一日につき200。それが三日間……」
三日居なければならないことだけが難ではあるが、悪くはないのじゃないか。
ラットたちはそんな気分になっていた。
特に急ぐ旅でもなし、むしろ休みに行くと言っても良いのだ。
「じゃあ、この依頼を受注しますね」
ミリィはそう言って、掲示板から依頼書を引き抜く。
馬車は特に使わず、歩きで現地へと向かうペンギンズ。
その旅路はのどかなものだった。盗賊も魔物も出ないし、特に誰とも出会わない。
「クレアさんは、もう出発したのかな?」
エイミィはそう言いながら、道端に咲く花を眺めている。
「どうだろうな、やっぱ一人旅となると危ねえだろうし。……ああ、あの人なら馬車でも使うかな?」
ラットもそう言って、景色を眺めていた。
踏み固められた土の街道はずっと続いている。右側に遠く望む山脈と、やや色を変える湿地帯。
パーティ結成からそろそろ二ヶ月ほどになるのか。この4人で色んな物を見て来たなあ、と。ラットはそんなことを考えながら歩を進める。
途中流れる川の近くで食事を取り、石で作られた橋を渡って更に進み、彼等がようやく村へと辿り着いたのは初夏とは言ってもやや暗くなるほどの時刻である。
松明を掲げて進むラットたちは村人に冒険者であることと依頼を受けて来た事を告げるが、どうにもその反応は要領を得なかった。
「依頼を出してること、村の人皆が知ってる訳じゃないのかな?」
エイミィは言い、荷物の中から取り出した依頼書を眺める。
「だな。こりゃ本当に……依頼を出してる人間、個人の依頼ってわけか」
ラットはそう言って唸り、村人に依頼人の名を告げて、教えられた家へと4人は向かう。
そこは村長の家という事のようだった。
けれど依頼人は村長ではなく、その息子。
冒険者であることを告げたラットたちは村長とその息子が、何故勝手に冒険者など呼んだのかということについて口論となるのを聞きながら、与えられた離れの小屋に逃げるようにして引っ込んでいた。
「……いやあ、こんな事情だとはわからんかった」
小屋の中に荷物を下ろし、息を吐くラット。
「依頼受注の時点じゃあ、殆ど説明もしてくれないもんねえ」
同様に小屋の中で自分のスペースを確保しながら、言うエイミィ。
討伐依頼ではないため、ギルドから受けた解説はこの辺りの簡易なガイドと遭遇する可能性のあるモンスターについて、程度だった。あとは依頼人が村の長の子であることだけは告げられたか。
もう少し調査してくれてもいいのに、とは思うが、仕方あるまい。
依頼余りの時代だ。ギルドの調査能力は大型のモンスターや中規模以上の群れに対してだけで、ほぼパンクしかけて居るのだから。
「済まなかったな……どうも、居心地の悪い思いをさせた」
村長の息子――バズと名乗る30前ほどの男が小屋に現れたのは、それから20分ほど後のことであった。
「構いませんよ。若い冒険者なんて、どこでもあまり良い扱いをされないのには慣れていますし」
カイルは微笑して言う。
そう言ってくれるとこちらも多少、気が楽だ、と。そう返したバズは、依頼について何か聞きたいことはないかと、ラットたちにそう問いかけていた。
「……そう、調査依頼ということでしたよね」
ミリィは口を開く。その、村外れに住む女性に、何か不審な点でもあるのかと。
「い、いや……そういう事では……その、無いんだが」
妙にはっきりしない風で口を開いたバズは、その女性について語り始める。
その女性――名をモニカというらしい20代後半ほどの人は、元々この村の住人ではない。
ひと月ほど前にやって来た流れ者で、しかしそういった生活にはもう疲れたと言ってこの村で空き家を買い、住み始めた。
なかなかに綺麗な女性で、あまり村人と積極的に交流はしないが、その謎めいた雰囲気は村でもそう悪く受け止められているわけではないのだという。
核心を避けるかのように語られるバズの言葉に、ラットは少しにやけてしまう。
「で、バズさん。三日間の調査で、彼女に何か妙なところがあれば教えてくれって事かい?」
「あ……いや……」
口ごもるバズに、エイミィは首を傾げてしまっていた。
ラットは笑いながら言葉を続ける。
「無い方がいいって感じだな。親父さんさえ納得させられれば、求婚でもしたいって感じかい」
バズは苦笑し、ラットの言葉にうなずいていた。
「ああ……、そうだ。まあ俺自身、あまり彼女と親しい方であるとも思わないし、受けてくれるかどうかもまだわからないが……」
彼は村長の長男、次期村長だ。地位的には、余程いやでなければ受けてくれるのではないか。
そんな気配が彼の言葉からは感じられていた。
「三日間じゃあ、その人……モニカさんが村へ来る前のことまでは流石に当たれないぜ。それでもいいかい?」
確認するラットに彼は少し考えはしたが、うなずいていた。
過去のことは特に気にしない、この村で彼女を迎えて悪いことがなければそれでいい、と。
ラットはうなずき、そして仲間を振り返る。
「わかりました。どこまで出来るかわかりませんが……出来る限り不安は取り除きましょう」
ミリィはそう言って、バドに笑いかけてみせていた。




