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第五十八話 ハーピィ退治のおはなし

 さて、今回はハーピィ退治である。

 西の山岳地帯に現れ、山沿いに続く街道を通る商人などが時折襲われるというものであり、街道守備隊から依頼が出ている。

 既に被害が出ていることと、飛行する魔物であることから討伐目標数の少なさの割には報酬も良く、なかなかに悪くない依頼であるとペンギンズには思えていた。


 だが、それよりもちょっとだけ気にかかっていることがラットにはある。

「なあカイル、ハーピィって言われると、どんなモン想像する?」

 山道を進みながらラットはそう問いかけていた。

「顔と胸部が人間の女性で、下半身が羽毛に覆われてて、足には鉤爪。そして両腕が翼になってる……で、どう?」

「ああ、俺が思い浮かべるのもそんな感じなんだけどよ」

 その、顔の問題である。


 ハーピィについては二種類の姿が語られるのだ。

 先程カイルが言った身体特徴については全て共通している。しかしその人間の部分について。

 美しい女性であるという証言もあれば、醜い老婆であるという証言もある。どっちなんだよとラットはずっと思い続けていた。

「単純に、どっちも居るんじゃない?」

 エイミィはそう言っていた。まあ、普通に考えるならそう思うべきなのだろうか。

「なら今回は、どっちなんだろな……っと」

 道が細くなって途切れ、もはや岩だらけになった場所で、ラットはその岩の一つをよじ登る。手近な場所に杭を打ち込み、ロープをかけて抜けない事を確かめるとそれを岩の下へと垂らす。

 ロープ伝いに上がってきたミリィたちに手を貸し、引き上げたラットとカイルは更にその先へと進んでいった。

「そろそろか? カイル、探知の方はどうよ」

「……大きな反応は幾つかあるね。鷲くらいの大きさのものと……人間大がちらほら」

 そう聞いたラットは弓を抜き、岩場の陰を中腰になって進む。

 そして人間大の反応があると言われた方へと軽く視線を送り、ひどく微妙な顔をしてみせた。


「ハズレだ、婆さんの顔が付いてやがる」

「ラットさん……冷静に考えて下さい。私達はそれを討伐に来たんですよ?」

 溜め息交じりにミリィに言われ、ラットは確かにと思い直していた。

「じゃあ、当たりって事でいいのか? 遠慮なくやれる分」

「だろうね」

 苦笑するカイル。そしてラットは片目だけ出してそのハーピィへと視線を注ぎ、合成弓に矢をつがえる。鏃に魔法陣を浮かべた矢はラットの視線に導かれ、彼が狙うハーピィの左胸へと突き立って血を吹き出させた。


 奇声をあげながら飛び上がる数体のハーピィたち。そして旋回する彼女らにラットたちはすぐに見つかり、足の鉤爪を振り上げながらハーピィは急降下して来る。

 迎え撃つカイルの炎の矢ファイアボルト。正面からそれを受け、胸から翼にかけてを燃やされたハーピィは空中でもがきながら地面へと落下する。

 もう一体にはミリィの氷の矢アイスボルトが飛んでいた。しかし、以前使用していたものとは若干その魔術は異なる。

 まるで照準を合わせるかのように青い冷風を流し、そこからやや小型化した氷の矢アイスボルトを次々と連射するミリィ。

 本来この距離であれば致命傷を与えられるかも怪しかった氷の矢アイスボルトが、ハーピィの体に次々と着弾して完全に引き裂いてゆく。空中で肉塊と化したハーピィはそのまま墜落していった。

「……今のが、手に入れた研究成果ってやつか?」

 問いかけるラット。ミリィも少し信じられないといった顔をしながらうなずき、ロッドを見下ろす。

「ええ。魔力消費は上がりますけど、今の威力で5割も増えていないのだったら、純粋な強化ですよね」


 後で聞いた話によると、本命の魔術を発動させる前に青い風を流し、その視覚効果による発動補助で消費魔力の大幅な軽減と弾速の上昇に成功したとかなんとか。

 それだけでもないようだが、発動までやや時間がかかる代わりに大幅な強化が施された氷の矢アイスボルトという理解で良いようだった。

 初級の魔術にこれだけのカスタムを加える人間など聞いたことがないとミリィは言う。


 そして、続いて降りてくるハーピィをエイミィは曲剣サーベルで迎える。

 こちらはもう、いつも通りの鮮やかさだった。振り下ろされる鉤爪を避けつつ、足首でそれを切断すると、再び飛び上がろうとしたハーピィの動きを許さずに背後から心臓を串刺しにする。

 残りのハーピィは臆したようだった。旋回したままこちらへ降りてくることはなく、更に一体をラットの弓が穿つと最後の一体は逃走してゆく。

「ち……逃げゃがったか」

 ラットは舌打ちをするが、討伐の目標数は5体だ。一応それは完遂されている。

「別に追わなくてもいいんじゃないかな」

 討伐証明たる鉤爪を切り取りながらカイルは言うが、ラットは少し諦めきれないといったようにハーピィが逃げていった方角を見つめていた。


「ちょっとなぁ。襲われてる人間が居るとなると、仕事外とはいえ見逃したままにするってのはなぁ」

 右の鉤爪5つの回収を終え、依頼の成功を確定させた後にラットは言う。

 討伐数が5止まりであったのは単純に街道守備隊が6体目を見過ごしたからであろう。実際、敵数などというものは説明された通りであることの方が少なく、多少の誤差があっても冒険者は出て来たもの全てを始末して戻るものだ。

 そして今は依頼過剰の時代。たった1体では改めて依頼が出されるかどうかもわからない。

 そういった事情を知るためか、また襲われるのが旅商人であるということのためか、カイルも少し苦笑を浮かべる程度で特に反対しては来なかった。


 ラットたちはハーピィの逃げた方角へと再び岩だらけの道を進んでゆく。

 が、探知魔術を使っていたカイルが僅かに顔色を変えて、ラットたちに隠れるよう告げる。

「ハーピィじゃない……何か、大きなものが居る」

 そう言った彼は、這うようにして岩の間を進み、その先をちらりと覗いていた。

 その表情が凍りついたように固まる。

「……あいつは……」


 カイルに追いついたラットたちも慎重にそれを覗き見て、驚愕に顔を歪めていた。

「グリフィン……!?」

 ミリィが言い、ラットたちはやはりそうなのかといった視線を彼女へと向ける。

 それは、ライオンの胴体に鷲の頭部と翼を持った幻獣で、ユニコーンなどと並んで知らないものは居ない魔物だった。確かに山岳地帯に棲むという話は聞いていたが、こんな場所で遭遇するとは。

 そろそろと音を立てないように岩場を戻るラットたちだが、ただ一人、カイルだけがその場を動かない。あまつさえ短槍ショートスピアを抜こうとするのを目にして、ミリィは彼の腕を必死につかんでいた。


「どうしたの、カイル……まさかあんなのと戦おうって訳じゃないんでしょう?」

 カイルは浅い息を繰り返し、ぞっとするような表情をしていた。

 だが、ミリィを振り返る際には何とかそれを押し留め、ぎこちない笑みを浮かべてみせる。

「あれは……あいつが、そうなんだよ」

 良くわからないといったように首を傾げるミリィに、カイルは一度深呼吸をして再度答える。

「僕と父がこの領へ来た時、襲ってきた魔物。……あれが、そうなんだ」


 その時、カイルとその父は宝飾品を仕入れて戻るところだったのだという。

 運んでいる物が物だけに盗賊などに狙われることを警戒し、街道を避けてあまり人が潜むことも出来ないと思われる山道を選んだのだが、それが良くなかったのか。

 宝石の飾られた腕輪を太陽に照らし見ていたカイルの上に、巨大な影が覆いかぶさるように襲いかかったのは一瞬のことだった。

 父が背嚢に詰めていた宝飾品類は最初の一撃でばら撒かれ、3体のグリフィンがそれに気を取られているうちに、彼は逃げた。その後は、ラットたちも知る通りというわけだ。


「あれだけは……」

 暗い怒りに燃える目でカイルは3体のグリフィンを再び睨む。

 そして、そんな彼に対して何も言えないまま、ラットたちはその場にうずくまっていた。

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