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第五十六話 お金のおはなし

 それから、ラットたちはクレアを連れて街へと帰還する。

 彼女はそのままラットが担いでいこうかと思っていたのだが、エイミィが自分が担ぐと言い出して、ラットは代わりに彼女の両手剣を背中に背負うこととなっていた。

「……つうか、こんなモンいつも持ち歩いてたのかよ」

 6キロという重量以上に、左右が大きくはみ出すそれを背嚢の上だの下だの何とか負担の少ない場所に括り付けようと難儀した後そう言うラット。

「へへぇ、意外と面倒でしょ?」

 全身に筋力強化フェザーの光を灯し、軽々とクレアを担ぎながら、エイミィはそう言って笑う。


「まずは、教会へ行ってくれないかい?」

 というクレアの言葉に従い、西の街の教会を訪れたラットたちは、クレアが自分の財布から数十枚の金貨を取り出すのを見て目を丸くしていた。

「見たことがねえわけじゃねえけど……」

 ラットはそう言う。正直なところ、彼等には馴染みが薄いものだ。


 アガート大陸において金の産出量は少ない。そう言われている。

 通貨としてまともに使われることはまず無く、金貨への両替を行うのは貴族や豪商、或いは全財産を常に持ち歩く冒険者が資産を圧縮するためだけであった。

 その価値は概ね銀の50倍。約4グラムの金貨1枚が2グラムの銀貨100枚に替わるという交換レートが王家によって完全に固定されている。

 その交換は領主館のある街に存在する、王家から直接送られている両替所でのみ。

 国内の金山は全て王家管理であり、産出される金は全て国庫に入る。そういったこととなっていた。


「教会だけは金貨での支払いを好んでね。……連中の要求する寄付金が高すぎるからだけどさ」

 クレアはそう言って、再生した左手を握っては開いた。

 欠損していた中指も元の長さに戻り、今やその接合部から先には傷一つない。

 その視線に気付いてか、クレアはラットを見て笑っていた。


「ああ、指かい? 指の一本二本くらいで再生を頼んでちゃ、いくら稼ぎがあったって足りゃしないよ」

 なるほど、とラットは思う。一般的な冒険者のダメージに対する認識というものをようやく知れた気がした。

 基本的に死ななければ安い、それが全てだ。

 即死や、癒し手の居ない状況での致命傷でなければ大抵のものが治せてしまう。最も軽い治癒でも感染症とは無縁になることが出来、頭部以外への傷など殆どが深刻なものとは言えない。相応の金さえあれば。

 指が飛ぶ程度よくあること、と言い切るその言葉は端的にそれを示していた。


 しかしそう考えると、今回の遺跡探索は、金銭的には大した実入りもなかったなあ、と。ラットはそんなことを考えて溜め息を吐いていた。そちらの方もだいぶ当てにしてしまっていたのだが。

「なんだい、シケた顔してるね。……ま、仕方ないか。あたしも今回は酷い赤字だ」

 依頼の報酬が揃ってしょうもない値段止まりなため久々に遺跡の探索などに向かってみたが、それでパーティメンバーを全員失い更に金貨数十枚も資産を減らしたとなると、だいぶ洒落にならない痛手だと、彼女は語る。


「報酬……安いんですか?」

 エイミィが問いかけてようやくペンギンズは冒険者としての活動期間を聞かれ、クレアは納得したというようにうなずいていた。

「ああ。一ヶ月ちょいじゃわからないだろうけど、だいぶ安くなってる。数年前なら初心者向けのゴブリン退治だって500を下回るなんて事はまず無かったんだけどね」

 パーティ結成当初、週に2度のゴブリン退治でようやく生活費以外の余裕を持てるように出来ていたと言うラットたちに、クレアは同情するような視線を向けていた。

「それで良く今まで生きて来られたねえ」などとすら言いながら。


 これまで、特に報酬額については疑問を抱いて来なかったラットたちにとってはだいぶ衝撃的な話だ。聞かなければ良かったなんて事も思ってしまったかもしれない。

 この先も、生活費を稼ぐためにはそんな依頼でも受けずにはいられないのだし。

 更に依頼数が過剰なために報酬額が減っているという事情では値段の交渉すらも出来ない。

「クレアさんは、これからどうするんです?」

 エイミィの問いかけに、クレアは笑って肩をすくめる。

「そっちと同じさ。また人を集めるなり、ギルド側で同行者をあてがってもらうなりして、暫くは依頼で稼ぐ。安かろうが確実に金が手に入る物を受けにゃ、生活が立ち行かなくなりそうだからね」

 だから、と。彼女は腰のポーチから、あの書斎で彼女が受け取った魔石をラットへと戻して寄越した。

「助けてもらった礼はそれでいいかい?」

 こちらから礼を言い返すのも変な気がして、ラットはうなずく程度でそれを受け取っていた。


「……にしても、おかしな奴だね」

 クレアはそう言ってラットを引き寄せ、その頭を後ろから抱くようにしていた。

 固まっているラットの髪に指先を突っ込み、梳くようにして弄りながら続ける。

「普通あの状況で飛び込んで来るかい? 妙な下心があった訳でもないんだろうに」

 そして、まぁあったならあったで別に構わないが、と囁いてくるクレアに、ラットはひきつった笑みを向けてみせる。

「魅力的な話だけど、最初はやっぱもっと歳が近いヒトのほうがいいかなぁって」

「ふ……あたしで歳を食い過ぎだってのか、ガキだねぇ」

 そう言って、クレアはラットを解放していた。やや不満顔をしていたエイミィの隣へとラットは戻る。


「だが、覚えときなよ。冒険者が他人をカネの約束無しで助けるなんてのは、下心があるくらいの方がむしろ健全だってことを。……長生きしな、坊や」

 そう言って、クレアは離れていった。

 言われていることがわからないわけもない。冒険者という前提がなくとも、カイルのような態度こそが普通なのだろう。

 そもそも、面識があるとすら言えるかどうかもわからない相手のために命を張るなど、ラット自身としても馬鹿げていると思えることだ。

 たかがこそ泥が、何度か戦いをこなした程度で英雄にでもなったつもりか、と。

 しかしそれでも、目の前で起こっている事であれば見過ごしたくなかったのだ。それが出来なかった。


「さて……魔石こいつでも売りに行くかい?」

 ラットは頭を掻き、クレアから戻された1つを加えて4つになった魔石を手の中で転がしながら、エイミィたちの方を振り返っていた。

 盗賊ギルドの男から聞いた、悪い話の方。それをいつ彼等に告げるべきか、そんなことを考えつつ。



「ふん……一個500だな。それでいいか?」

 置いていた物を取りに、丁度こちらの街へと戻っていたというジーンに彼の店で魔石を見せ、彼からそんな言葉を聞いたラットたちはぽかんと口を開けて彼を見ていた。

「なんだよその顔は。ギリギリの値段だ、これ以上は出せねえぞ」

「い、いや。そうじゃなくて」

 ラットたちは顔を見合わせる。4つで2000、本当にそれでいいのだろうか。高すぎやしないか、といったように。


「随分、高かったんだなぁって」

 焦ったような笑みを浮かべながら言うミリィにジーンは返してみせる。

「最高級品なら同量の金とも交換出来るってのはお前らも知ってたんだろ? こいつはそれよりワンランク落ちるが、それでもそんなもんだ」

 そう言われてもどうもピンと来ない。それは、実際に二千枚の銀貨が入った袋を渡された後になってもそんなものだった。

「……あの人、これについては知ってたんでしょうかね」

 ミリィはそんなことを言っていたが、まさか知らない筈もなかろう。

 そこまで自分たちの金銭感覚はしょぼいものだったのかと、改めて思わせられたラットは苦笑しながら溜め息を吐いていた。

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