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第五十三話 魔術師の書斎のおはなし

 その先も、3~4体程度の部隊で現れるスケルトンを撃破しながら進むペンギンズ。

 遺跡の守護を担うスケルトンは壁に埋め込まれた蓄積器コンデンサのためもあってかだいぶ鋭い動きをするが、それでも今のラットたちにとってはさほどの脅威でもない。

 危なげなく戦いをこなしながら、彼等は遺跡一層のかなりの部分を探索し終えていた。


「見えた地形としては……この辺りで最後かな」

 カイルは探知魔術を使いながらそう言う。超音波による地形探知は得られた情報の処理にだいぶ慣れが要るものの、今回の遺跡探索でカイルもそれなりにわかるようにはなって来たようだった。

「ドア……と、下り階段?」

 目の前に見えたものをエイミィは口に出して告げる。

 そこには確かに木製の扉と、そして数メートル続く直線通路の先に、更に地下へと続く階段が口を開いていた。


「ま、更に下層は後回しだ。まずは部屋の方から行ってみっか」

 言いながら、腰のポーチから二つ折りにした革のツールセットを取り出すラット。

 その中に収められていたピッキングツールだの、金属製の小さな鏡だのを抜き出して慎重に鍵穴を覗く。

「なんか、ラットが盗賊っぽいことしてる……」

「パーティ結成から一ヶ月以上経ちますけど、初めて見ますよねそんな姿」

 口々に言うエイミィとミリィに心外だというような顔を向け。

 良く考えたらマジで初めてなんじゃねえのかとラットは愕然としていた。


「……コボルト洞窟で宝箱を見つけた時以来か? まあ、ダンジョンなんてほぼ無かったしな」

 言いながら、ラットはちょいちょいと指先を動かす。

 横に立てた蝋燭の光で鏡越しに鍵穴を見、罠などが存在しないことを確認してからピックを叩き、ピンを押し上げて適切な位置でロックしてゆく。

「良し、開いたぜ」

 扉と壁とを繋ぐバーが引っ込んだのを確認し、各種ツールをしまい込むラット。

 それでもじろじろとラットを見るばかりで扉の先に進もうとしないエイミィとミリィに、妙な居心地の悪さを感じつつラットは扉を引き開ける。


「わぁ……」

 その先には書庫とでも言うべき部屋があった。

 一応机が置かれ、その上にうず高く紙の束が積まれているので研究室や書斎と呼んだ方がいいのかもしれないが、隙間なく埋められた本棚が部屋の9割以上を占めているので、やはり書庫と言った方がしっくり来る。

 ミリィは魔力の明かりを増やしながら棚の間を巡り、その背表紙を見て回っていた。

「この辺りは初・中級の魔術書……でも、タイトルの無い本が殆どですね」

 まさかそういった、背表紙にタイトルの刻まれていない本全てがここの主の著したものであるとは考えがたいが。

 ミリィはそのうち何冊かを手に取り、その中身を眺めていた。

「凄い。……殆どが魔力の節約、効率化や術の高速化に関することですけど、イメージの補正や使用可能な補助式についてまで、びっしりと考察が書き込まれて……」


 また、こういった方向性を見るに、先程自分が考えて結局否定したこと。

 この隠れ家の主は、標準よりも低い魔力量を持った魔術師なのではないかという考えも、ミリィには正しく思えて来ていた。

 何とかして自分の使える魔術を増やそうと悪戦苦闘する様子が、彼の研究成果からは痛いほどに伝わってくる。

 これを持ち帰り、自分の物にしたいという欲求は読むほどに強まるが、それと同じくらいに自分が触れてはいけないものだという感覚も強まってしまい、ミリィはその本を抱えながらしばしの間、動けずに居た。

「……どうしたの。何か、凄く悲しそうな顔をして」

 同様に別な本を持ちながら、カイルはミリィのそんな様子に気付いて近づいてきていた。

「いえ……これを持って行くのはちょっと、気が引けて」

 ミリィはそう言い、気になった何冊かの本を持って机へと向かう。

 脇に積まれた白紙から数枚を手に取り、インク壺と羽根ペンも借りさせてもらう。

 本を持って行くのは駄目だが、そのうち幾つかの研究成果をメモ書き程度に写させてもらおう。そんな気持ちで彼女は椅子に座ろうとする。


 と、その時だった。

 ラットたちは、部屋の外に複数人の足音を聞いた気がして、びくりとその身体を震わせていた。


「おや、やっぱり先客が居たのかい」

 部屋へと踏み込んできたのは女性の冒険者だった。暗い洞窟内では黒に見える藍色の髪が、書庫に漂う魔力の明かりを浴びてさっと色を変えるのをラットたちは見ていた。

 革の軽装鎧、腰に差したダガーと長剣、更にラットも持っていたようなツールセットをむき出しで括り付け、背負う背嚢には長い棒を脇に差している。

 典型的な迷宮探索人ダンジョンエクスプローラー、その装いと思えた。

「でもこいつぁ……本だらけか。あまり金にはなりそうにないね」

 彼女は残念そうに部屋を見渡してみせる。

 歳の頃は良く分からない、やや眠たげな目と泣きボクロが特徴のそれなりに整った顔の女。

 その体格は痩せ気味ではありながらも標準よりも大きな胸をそなえ、本人もそれをわかっているのか胸甲は左胸だけを守るような簡易なものをつけて革ジャケットの胸元を開き、それを強調していた。


「姐さん、どうですかい」

 続けて部屋に入ろうとするのは戦士風の冒険者たちだ。このパーティには魔術師が居ないのか、そのためにこの隠れ家の存在は知っていながらも入り口を見つけだせずに居たのだろうとラットは踏んでいた。

 最初に踏み込んできた女は肩をすくめながら室内の様子を示す。

 罠にでもかかって失ったのか、彼女のやや短い左手の中指を追ってラットの視線が動く。

「ハズレさ。少なくともあたしたちに価値のわかるようなものは見つかりそうにない。……そう、実際のところどうなんだい嬢ちゃんたち、ここにあるものは」

 問われたミリィは不安そうに彼女の顔を見上げていた。


「ええ……見てわかる通り、背表紙にタイトルの刻まれていないものは、ここの主が書き残した研究成果のたぐいだと思います。こういったものは……持って帰っても多分、売れません」

 この言葉に嘘はない。

 価値のわかるものなら多額の銀貨を積むだろうが、そういった人物を見つけ出すのがまず一苦労だろう。何せ、高位の魔術師など、ほぼ冒険者の中にしか居ないのだから。

 その言葉を聞いた女は溜め息を吐いていた。

「参ったね。ま、嬢ちゃんたちが大体片付けてくれたお蔭で、ここまで特に苦労をした訳じゃないが。気晴らしにみんな燃やしちまうかい?」

 冗談とわかる言葉ではあったが、ミリィは悲鳴を上げそうになってしまう。

 それをラットは制し、笑って女に声をかけていた。

「やめとけよ、こんな地下で火はやべえぜ」


 続いて、手の中で弄んでいたものを一つ女に投げて渡す。

「ここで手に入った金目のもんといやあ、そのくらいかね。そこの机の引き出しに幾つか入ってたんだが、二着へのお裾分けとしちゃそれでいいかい?」

「……ふん、魔石ねえ」

 女は自分の手の中で淡い光を放つ、その黒い石をしばらく眺めていた。


 魔石――それは魔法生物の死骸や竜の骨などが埋まった地層から出る希少鉱物で、付呪の材料として主に取引される。

 高純度のものなら同量の金と交換されることもあり、魔法的な物品の中ではその軽さと換金のしやすさから戦利品やダンジョン探索の収穫としては最も好まれるかもしれない、そんな品物だった。

「ま、いいだろうさ。まだまだ先の階層もあるみたいだ、ここはこれだけとしとこうか」

 にやっと笑ってそれをポーチに仕舞い、部屋を出る女性。

 その後をパーティメンバーらしき男たちは一度ラットたちに視線を送った後、追いかけてゆく。

 ラットは彼等が見えなくなってから大きく息を吐き、そしてミリィたちを振り返っていた。


「いやあ、……あんま帰り道じゃあ会いたくねえ連中だな。写すだけ写したら、さっさと帰ろうぜ」

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