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第五十二話 遺跡のスケルトンのおはなし

 雑草と土の中に埋もれる、苔と蔦に覆われた石。

 神殿跡のように見える遺跡へと辿り着いたペンギンズは、まともな建造物も残っていないように見えるその場所で、手分けをしてダンジョンの入り口を探しにかかっていた。

「やっぱ地下よね? ありそうな所って言うと……」

 呟きながら地面を見て回るエイミィ。

 ラットは自身でも地面の石材に刻まれた痕跡などを追いつつ、ミリィに声をかける。

「なあミリィ、確か空洞とか探知出来なかったっけ?」

「あ……そうね、やってみる」

 ミリィは、はっと気付いたようにロッドを構えていた。


 そう、このところ気になってはいたのだ。

 あのリザードマンの時といい、前回の森の時といい、思い出してみればゴブリンたちの迎撃を受けた時もそうだったか。敵の接近に彼女が気付けて居ないということに。

 彼女は、探知魔術を使用していない。怠っている――とまで言うつもりはないが、これはやはり少しぼんやりしているのと、カイルに教えた後のことであるため、彼が使うと思っている部分もあるのだろう。

 だが、カイルはやはり不慣れだ。使わなければならないという意識がない。

 しばらくの間は気をつけねばならないだろうとラットは思い直していた。


「あと、探している間に妙なものには会いたくねえ。敵の探知の方はカイル、頼むぜ」

「……うん、わかった」

 言って生命探知を起動するカイル。

 それを見て、ミリィも何か――思いついた言葉を躊躇うように、やや顔を伏せていた。


「この辺りね」

 ミリィが示した地点の近くを慎重に当たると、一部浮いたようになっている石を見つけた。

 他との苔の付き方もやや異なり、これが以前は頻繁に動かされていただろうことにも気づける。

 果たして、その石を外した場所には、鉄環に繋がった鎖のような物が隠されていた。

 ラットがそれを力いっぱい引くと、少しずつ付近の石床がずれてゆく。

 やがてぱっくりと口を開ける地下への入り口を、ペンギンズたちは並んで覗き込んでいた。


「ここが魔術師の隠れ家ってわけか」

 松明に火をつけながら言うラット。

「新しい足跡は無いみたいね。だいぶ長いこと留守にしてるのかな?」

 階段を見ながらそう言うエイミィに、ミリィは生み出した魔力の明かりをその中へと進ませる。

「そういう事なら……中にあるものも少しは貰ってもいいのかしら」

「そうだね。ここの主が未だに生きているのかどうかすら、定かではないことだし」

 カイルは言い、少なくとも入口付近には危険がものがないことを確認して中へと足を踏み入れる。


 ここは、この遺跡に元から存在していた場所だったのだろうか。

 隠れ家というのだからそんなに広くもないのではないかと思っていたラットたちは、10メートル近く続く階段の先に長い通路が存在するのを見て、その認識を否応なくあらためることとなっていた。

「だいぶ、広いんだね」

 ひんやりと冷たい石壁。剃刀一つ入らないほど精密に組まれたそれに手をあてながらエイミィは呟く。

 壁には松明を掛けるための金具が等間隔で設置されており、そこに残る松明にラットは手持ちのものから火を移しながら先へと進んでゆく。

「……なんか、ぶーんって低い唸りみたいなのが聞こえねえか?」

 そう言ったラットに再び周囲の空洞を探知するミリィ。

「罠ではないようですけど、何か……魔道具のようなものが埋め込まれている感じがしますね」

 彼女はそう言って、それがあると思われる付近の石壁に手を触れる。


「何かって、どんな?」

 問いかけたエイミィにミリィは答える。あまり自信がありそうではなかったが。

「恐らくは、魔力蓄積器マジック・コンデンサー。たぶんそんなに大きな物ではありませんけど、これだけでも掘り出して持ち帰れればひと財産にはなりますよ」

 言われて、ラットも石壁に手を触れていた。唸りのような音は確かにその先から聞こえるようだ。

 だが、掘り出すというのはどうにも現実的とは思えなかった。ミリィも微笑しながら言ったことであるし、やはり冗談だろうと肩をすくめてみせる。


「待って……何か」

 生命探知から動体探知に切り替えたカイルが、道の先を睨みながらラットたちを制止する。

 かしゃかしゃという音はすぐにラットたちの耳にも届いていた。そして武器を構えるラットたちの前に、音の主が白くその姿を現す。

「スケルトン……!」

 現れたモンスターの名を呼ぶミリィの声には、あまり良い感情が乗っているとは言えない。

 まあ、それも当然のことか。自然発生するものも居はするが、主に魔術師によって使役されるために作られるアンデッドモンスター。

 それ自体への嫌悪もあり、また彼等が眼窩に灯す紫色の光は、それが以前のトレント同様、魔力感覚によって周囲を知覚するものであることを示している。今回も彼女の偏光魔術は役に立たないというわけだった。


 エイミィは曲剣サーベルを抜き、3体現れたスケルトンのうち先頭のものを迎える。

 あちらもエイミィと同じく左に短剣を構え右に細剣レイピアを持っており、エイミィはやや敵の出方を見るように遠間で軽く曲剣サーベルを振っていた。

 それを短剣の刃と護拳ハンドガードの間で受け、流しながら右の細剣レイピアを突き出すスケルトン。鋭い刺突を同様に防御用パリィングダガーで流した彼女は、なにやらやけに嬉しそうに笑みを浮かべてみせる。

「ねえラット、凄いよ! この子、正統な王国剣術使うの!」

 それの何が嬉しいのだかラットにはわからないが、エイミィはそのままスケルトンと剣を合わせ続ける。彼女が動く度に軽い金属音が鳴り、松明と魔力の明かりに照らし出された2者の剣がきらきらと光を散らせる。


 ともかく――と、ラットは左の小型盾を構えながら彼女の横に立つように前進していた。

 エイミィが剣でこれだけ長引く相手というのは初めてだ。他のスケルトンが邪魔に入らぬよう、そちらは自分が引き受けなければなるまいと。

 そしてあちらも進み出てきた盾持ちのスケルトンと対峙する。左に方形盾ヒーターシールド、右に片手剣ショートソード。がっちりと防御を固めた姿はリックにも似て、ラットは彼がこういったスタイルの剣士としては本当に正統派であったのだと改めて考えていた。

 ならば、して来る事もわかる。

 ラットはこちらからは仕掛けず、曲刀シミターを構えたままゆっくりと機を伺う。

 やがて盾を前面に押し出しながら前進して来たスケルトンに対して同速で後退したラットは、軽く脇に避けて道を開く。

 その瞬間、ミリィの放った氷の矢アイスボルトがスケルトンの片手剣を握る右腕を砕き、ラットは相手の盾に自身の小型盾を叩きつけながら曲刀シミターを振るっていた。


 残る一体のスケルトンは弓兵。放たれる矢をスケルトンの目前に展開したカイルの水幕ウォータースクリーンが止める。そして、続けて詠唱した炎の矢ファイアボルトが正面からスケルトンに突き刺さり、その弓と矢筒ごとスケルトンを焼いていた。


「楽しかったけど、ここまでだね」

 エイミィは言い、全身に筋力強化フェザーの光を灯らせる。

 斜めにした刃を互いに絡ませた状態から、彼女は腰を捻りながら一歩を踏み出し、両の武器を相手のそれへと激しく叩きつける。そして大きく態勢を崩したスケルトンへと握る曲剣サーベルは走り、頸骨、胸郭、背骨とジグザクに砕いてその上半身を解体してみせていた。


「術者が近くに居たとも思えませんけど……だいぶ、精度の高い動きをするスケルトンでしたわね」

 破壊されたスケルトンを見下ろすミリィ。

 こういった魔術によって作られるアンデッドは主に術者からの魔力供給を受けて活動している。

 そしてその動きは、作成時に使われる術の良し悪しにも勿論影響を受けるが、やはりより大部分を魔力の供給源たる術者との距離に依存するのだという。


「……そのための蓄積器コンデンサ、かな?」

 カイルは壁を叩きながら言っていた。しかし、ミリィは首を捻る。

「それだけのためにこんな物を設置しているとも思えませんけれど……」

 元々かなり魔力容量が少ないような人物であればわからないことも無いが、まさかそんな人物がここまでまともに魔術師を志すとも思えぬことだし、と。ミリィはそんなことを言っていた。

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