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第四十八話 二つの冒険者パーティのおはなし

 それから8人は周辺に討ち漏らしが存在しないかどうかを念入りに調べ、村へと戻る。

 湖の反対からリザードマン集落のある辺りが盛大に燃え上がるのを見ていた村人たちは、殆ど日が傾かないうちに戻ってきた冒険者たちを歓声で迎え、次々と船を出していった。

 そして約束の報酬をいただき、今からならまだ閉門に間に合うと村を出ようとする8人を村人たちは引き留める。夕食をごちそうしたい、今夜一晩だけ泊まっていってもいいのではないかと。

 お昼に少しだけ保存食をかじっただけだった8人は顔を見合わせ、それを了承し、その夜。


 ラットたちの前には完全に出来上がった酔っぱらい一人がふにゃふにゃと転がっていた。


「ねえー、次も一緒に依頼受けましょうよー。っていうかもう8人パーティにしちゃえばいいじゃないー」

 顔を真っ赤にし、ろれつの回らない舌でそんな事を言うベティ。

 ラットたちは果実水を飲みながら、どうしたもんかと彼女を眺め、溜め息を吐いていた。


 なお、この国では酒を飲んで良い年齢とかいうものは特に決められていない。

 煮沸消毒していない水などそもそも飲めたものではないので、飲み物と言えば大体、湯冷ましか魔術で浄化した水に果汁を混ぜた果実水、そして酒といった感じである。

 何故魔術で浄化した水に果汁を混ぜるのかと言えば、それは単純に不味いからだ。

 一切の不純物を取り除かれた水。悪くないんじゃないかと思うのだが、飲んでみるとそれはどうにも不味いとしか言い様のない代物だった。


「いい加減にしなよベティ、ペンギンの人たちも困ってるじゃないか」

 リックが言って彼女を起こしにかかるが、ベティはじたばたと暴れて再び床に転がる。

「連携も出来ないって言ってたけど、出来たじゃない。まあ……さっきの8人パーティとかいうのは冗談だけど、もう少しだけ一緒に仕事してみるの、あたしは悪くないと思うのよねぇ」

 言いつつもビールを飲み干し白ひげを作るベティ。

 それは、確かにと言うリック。ラットたちとしては納得されても困ってしまうのだが。

「得るものが多かった事は認めるよ。でも、これ以上は僕たちだけでやるべきだ」

 幸いと言うべきか、リックは考えを変えることはなくベティを説得し続けていた。


「それにしても、なんでこんなに彼等を気に入ったんだい。随分唐突だったじゃないか」

 そんな事を言うリック。

 確かに、初めて彼等と遭遇した時には少し会話を交わしただけで戦闘になったわけだし。

 結局ベティが気絶した以外では大した損害もなく終わり、その後予定より多くの報酬を彼等が受け取ることになったとはいえ、好かれるようなことをした覚えはラットには無い。

 だと言うのに再会の当初から彼女がこちらに好意的だったのは何故なのか。


「……別に、大したことじゃないわ」

 ベティは少し気分が悪そうにしながらリックの膝の上に頭を乗せ、そう言う。

「こいつらが――凄く、仲が良さそうに思えたから」


 当初、ベティはエイミィがペンギンズのリーダーだと思っていた。

 あっさりと自分を下した同じ巨大武器使いで、ペンギンズの最大戦力であることも疑いない。こちら同様、他はあまりパッとしないし彼女こそが中核だろうと。

 しかし、どうも違うようだ。エイミィの主張はかなり控えめな方だった。

 リーダーはミリィのようだが、彼女すらそんなに率先して何かを言うわけではない。


「うまくは言えないんだけどね。全員が違う方向を向いてるようでいながら、ぴったりと纏まってる。なんでそんな風に出来るんだろうって考えてるうちに、なんか気に入っちゃってたの」

 羨ましく思った。

 もう少し見ていたいと思った。

 そして、同じ輪の中に入りたいと思ってしまった。

 そんな風に語るベティを、リックは微笑いながら見下ろしていた。その褪せた金色の髪を指先に絡めて撫でながら彼は口を開く。

「僕たちにだって、その気になれば出来るさ。……出来ると思う」

 これまでは、ベティが一人でパーティを引っ張ることを好むと思ったから、何も言わずにそうして来たけれど。また、それが楽でもあったけれど。

 そうじゃない方がいいって言うなら、応えることは出来る、と。


 そんな事を言うリックに、うなずきながら聞くベティに。

 ラットはもう、この依頼を受けた時のような危なっかしさや頼りなさを感じることはなくなっていた。


「あ、でもラットだけはやっぱ欲しいんだけど。あんただけこっち来なさいよ」

 いきなり思い出したように言うベティに、ラットは咳き込んで咽る。

 やっぱり、と言うような顔でこちらを向くリックに、ラットは勘弁してくれというような顔を向けていた。


「なんで俺が……」

 と言うラットだが、それに返された言葉はこんなようなものだ。

「だって、うちには斥候スカウト系って居ないんだもの。そこだけがあんたたちとの最大の違いよねえ」

 曰く、弓は撃てるし意見も言える、しかも利他で物を考えられるシティシーフとか、どこでそんなん拾ってきたのよ、と。

 そこまで自分が珍しいものかとラットは思ったが、エイミィはラットの首に腕をかけて得意げに笑ってみせていた。

「ふふん、あたしが拾ったの。この領からじゃないとはいえ賞金かけられて、どこのパーティにも入れてもらえないってこの世の終わりみたいな顔してたコソ泥さんのラットをね」

「それはそれで……良く拾ったわねそんなもの」

 呆れたような顔をするベティ。しかし彼女はがりがりと頭を掻き、リックの膝から起き上がって口を開く。

「しゃーない、自分で探すしかないみたいね。見てなさいよペンギンズ、こっちだってあんたたちが驚くようないいパーティに、これからなってみせるんだから」

 そして青い顔をしながら駆けていったベティは、その晩食ったものの殆どを地面に返却する羽目になっていた。



 翌日、8人は西の街へと戻る。

 東とは随分依頼の内容も違うということに気付いたペンギンズは、暫くの間こちらで活動するのも良いかなどと思いながら休養日を過ごし、また次のゴブリン退治に旅立ってゆくベティさんパーティを見送っていた。

「でも、少しだけ意外かな」

 遠ざかってゆくベティたちの後ろ姿を見ながら、カイルは口を開く。

 その言葉の意図がわからないというようにラットが彼を見ると、カイルは続けていた。

「ラットなら引き留めるんじゃないかと思ってた。もう1~2回は共闘が続くんじゃないかって」

「……そうかぁ?」

 ラットは首を捻るが、カイルはそんな彼に笑ってみせる。

「リック君はああ言ってはいたけど、多分……彼等はこれからが大変だよ」


 確かにそれは思う。ペンギンズがそうであったように、これから暫くの間は色々なズレが生じるだろうし、それが馴染むまでに色々なことがあるだろう。もしかしたら、喧嘩に至るかもしれない。

 でも、だからこそ、それはあの4人ですべき事だと思うのだ。

 そこに自分たちが居るのは逆にあまり良いことにはならない。ラットはそう考えていた。


「あいつらなら、多分大丈夫さ」

 ラットはそう言って笑い、再び寝直すために冒険者の宿へと向かっていた。

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