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第四十七話 リザードマン退治のおはなし

 8人は大きく湖を回り込みながら、山から続き湖へと流れ込む川の河口へと進んでゆく。

 ジーニス領は東と西を長い山脈によって挟まれていた。眼前に聳える山脈を越えた先、もう一つ公爵領を抜けた先が王の直轄地、そして王都となるわけだ。

 魔族の領土を南に置き、侵攻の際は初めにそれと当たるジーニス。しかし彼が陥落することはこれまで一度も無く、また彼が侵攻を塞ぎ止められたことも一度も無いというのが皮肉なことであった。


「今回は出来るだけ、気づかれないうちに敵の数を減らしてえな」

 敵の姿を認める前にこれだけは言っておかなければ、と口を開くラット。

 洞窟内への侵攻ではなく地上の集落を襲撃するのだ。速攻で気づかれてしまうと総勢で迎撃に出て来られて、20匹に包囲されて戦わねばならないこととなりかねない。

 特にリザードマンは水中呼吸を持つ。湖を回り込んで背後に回られる危険は避けたかった。


「なんか……あんま性に合わないんだけど」

 ぼやくベティ。本気で今回も突撃するつもりだったのかと、ラットは逆に背中に冷たいものを感じながら彼女の顔を見ていた。

 4人で行かせていたら本当に、彼女たちは帰って来なかったかもしれない。

 かと言ってずっと8人で行動するわけにもいかないので、心配にはなるがどうにも出来ないことだった。

 せめて、あまり危険ではない場所で、後に残らないようなちょっとした痛い目に遭い、考えを改めてくれることを祈らずにはいられない。


 と、そうこうしている内に河口付近まで辿り着き、8人はそこに作られた集落を目にしていた。

 川の上と湖のほとりに、木切れを渡しただけのような足場。

 がらくたを積み上げ、その上に枯れた葉っぱを重ねただけといった感じの住居。

 リザードマンたちは緑の鱗に覆われた身体をその間に佇ませ、時折水に潜ったり水の上から槍を突き出したりなどして魚を獲っている。

「……やっぱ、あれだよね。普通に生活してるだけって感じの姿を見ちゃうと……」

 エイミィは苦笑するように言う。どうにも、やりづらいと。


 だが姿を晒して、やりやすい行動を相手に取らせてから戦うというのは無論できないことだ。

 ラットはゴブリンから回収し、良く洗って弦を張り直した合成弓コンポジットボウを構えると、群れの中からやや離れて佇むリザードマンに向かって矢を放っていた。


 狙い違わず首筋に命中し、声もなく倒れるリザードマン。

 続けてミリィが住居の陰に立ち他から視線が通らないだろうと思える一体に向かい、魔法の弩砲バリスタから氷の槍を射出する。

 魔力の弦は完全に無音で槍を射出し、リザードマンは胸の中央に大穴を開けて地面へと転がっていた。


「最初見た時も思いましたけど、それ……凄いですよね」

 アリサが目を丸くしてミリィの手にある弩砲バリスタを眺める。

「ああ……これ? 私は中級の攻撃魔法が使えないから、苦肉の策なんだけど……」

 恥ずかしそうに言うミリィだが、アリサは首を横に振っていた。

「いえ、あたしも学院には通ってなくて、おばあちゃんから魔術は習ってたから」

 そのぶん変わったものも多少は覚えているが、攻撃魔法については基本3種しか使えないのだとアリサは言っていた。


 なるほど、とミリィは思う。あの音響弾サウンドブラスト、あれは本来、騎兵を混乱させるため、つまり人間同士の戦争むけに開発された魔術だ。しかし村の魔術師などは害獣除けとして用いることもあると聞いたことがあった。

 それで彼女も習い、自分の技の中にそれを加えていたのだろう、と。


「あと数匹減ったら突っ込もうか」

 曲剣サーベルを抜きながら言うエイミィ。ベティも腕が鳴るというようにハンマーを引き抜く。

 リックは彼女と背中合わせになるようにしながら周囲を警戒し――突然、彼はシールドを構えながらその場に立ち上がる。

「ベティ、後ろに!」

 彼が叫ぶと同時、その鎧や剣の数倍は金を掛けていると思われる金属製の方形盾ヒーターシールドに矢が命中する。鏃を妖しく光らせる毒矢は甲高い音色を響かせながら盾に弾かれ、折れ曲がりながら吹き飛んでゆく。


「哨戒してるヤツが居たってのか」

 ラットは振り返りながら弓を構えていた。だが、蔦の絡む木々の間に保護色となったリザードマンの姿は簡単には見つけられない。

 そうこうしているうちに次々と矢を射掛けられ、ラットはマントを掲げて即席の防壁としつつ、弓を仕舞い込みながらその場を後退する。


「ど、どうするのさ……!」

 大きな背嚢を背負いながらおろおろと辺りを見回すリート。防御幕プロテクションの対象を決めかねている風の彼を、その服を掴んで引き寄せながらカイルは水幕ウォータースクリーンの魔術を自身の側面に張る。

「まずは自衛、そして、下がる方向を決める」

 そして彼は前方を向いていた。この後に起こることを全て予想したように。

「行く方向は、すぐに彼女が示してくれるから」


「下がれェ!」

 エイミィは吼えるように大音声で告げ、駆ける。

 その身体各所に筋力強化フェザーの光が灯り、彼女は一気に川へと、一切の遮蔽が無い場所へと踊り出て、その身を晒してみせる。

 彼女の姿に気づき、騒ぎ立てるリザードマンたち。

 そして湿地帯の林の中から次々と射掛けられる毒矢を全く気にすることもなく、川に沿ってリザードマンの集落へと突っ込むエイミィの周囲に防御幕プロテクション水幕ウォータースクリーンが展開する。


 最初に目の前へ立ち塞がる者、槍を持ったリザードマンへと曲剣サーベルを投げつけ、その胸部中央を刺し貫いたエイミィは、走りながら背中の留め金を外し、両手剣をその手に収める。

「おおおおおおおぉっ!」

 咆哮をあげながら集落へと飛び込んだ彼女はそれを一閃。

 住居を形成するがらくたが叩き斬られ、凄まじい音を立てながら破片を散らす。佇んでいたリザードマンが彼女の姿を視界に収める暇もなく、遮蔽物越しに振るわれる長大な刃によって両断され、血を吹き上げながら舞ってゆく。

「……無茶苦茶じゃない」

 ベティはそれを眺めながら、呆然とそう呟いていた。


 暴れまわるエイミィを放置出来ず、また彼女が集落へと突撃したため狙うことも出来ず、川へと飛び出すリザードマンたち。

 それを待っていたかのように飛び出したラットがその首を落とす。至近距離で弓を構えるのにやや躊躇したリザードマンの首にダガーを打ち込み、捻り上げて絶命させる。

 それにやや遅れて飛び出したのはリックだった。弓を捨てて腰の剣を抜こうとするリザードマンの腕に盾を叩きつけ、怯んだその首へと彼は鉄の長剣を打ち込んでいた。


 エイミィが突き進むその後方、打ち漏らしのリザードマンが飛び出そうとする。それを林の中から狙撃するアリサとミリィ。炎の矢ファイアボルト氷の矢アイスボルトに穿たれたリザードマンたちは即死はしないものの、エイミィを追うことは出来ずその場でのたうち回る。

 カイルはその上に竜炎ナパームレインの魔術を降らせ、集落ごとを焼いていた。


「これで、幾つだ?」

「数えてはいないけど、20にはちょっと少ないだろうね」

 ラットの問いに答えるリック。その目が水中から現れ、砂浜をミリィたちのいる林へと走る数匹のリザードマンを捉えていた。

「リート! そっちに幾つか行くぞ!」


 慌てたように水辺と逆方向に向かおうとするリート。

 それと、ベティがすれ違う。筋力強化フェザーの光を強めながらハンマーを振りかぶった彼女は、そこには魔術師しか居ないと思っていただろうリザードマンたちを出会い頭に叩き潰し、打ち上げ、そして出て来た水面へと突き戻していた。

「やっぱり、突撃で良かったんじゃない」

 そんな事を言いながら燃える集落の先を見るベティ。

 彼女の目には、砂浜に両手剣を突き立て、こちらを見ながら笑って手を振るエイミィが映る。


 そして、彼女の横にはリックが寄ってきて、苦笑しながら口を開いていた。

「いや、全然違うと思うよベティ」

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