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第四十五話 西の街のおはなし

「ここが西の街、ジーンさんが住んでた街かぁ」

 門をくぐり、新しい街へと足を踏み入れるペンギンズ。

 その横にはベティさんパーティも未だについて来ていた。というか、彼等はこの街のギルドで依頼を受けたのだからここへ来て当然、むしろついて来たのはペンギンズの方だったのだが。

「しかしなんか、煙が多いな」

 ラットはざっと大通りから辺りを見回し、そう言っていた。

 右も左も、数本の白い煙が常に立ち昇っている。これは他の街では無かったことだ。


「何よ、あんたたち何も知らずにこの街へ来たわけ?」

 ベティはにやっと笑いながらそう言っていた。

 そう、東の街で活動していた筈の彼女たちが何故いつの間にか西へと移動していたのか、それも気になってはいたことである。

「ここで有名なのは、その公衆浴場の多さ。しかも小さいところから大きなところまで、どこも客引きに必死でね。似たり寄ったりじゃない、特徴的な浴場やサービスをそれぞれ提供してるってわけよ」

 ベティは得意げにそう言い、それを聞いたエイミィは目を輝かせる。

「へぇ……! ねぇねぇミリィ、早速行ってみよ!」

「え、いや……その、私は……」

 エイミィに押されるようにして運ばれて行きながら、ちらりとカイルの方を見るミリィ。

 しかしカイルは微笑しながら手を振っていた。ミリィは安心したようにエイミィと連れ立ってゆく。

「よぉし、あたしたちも行くわよアリサ! まだ回っていないところがあるんだから!」

 同様にアリサの手を引いてエイミィたちの後を追ってゆくベティ。

 彼女は途中振り返ると、リックとリートにゴブリン退治の報酬を受け取っておくよう言っていた。


 女性陣4人を見送り、残される男性陣4人。

「浴場かぁ……」

 何やらほんわかとしたような表情を浮かべたラットとカイルは、すぐにその考えを振り払って横の二人を振り返る。

「と、あんたらはギルドに行くんだっけか?」

「……だね。その後は今夜の宿を決めてから……こっちも汗を流しに行くか」

 苦笑しながら言うリック。そしてラットたちはお互い大変だなというような笑みを交わし、ベティさんパーティの二人と別れる。


「さぁて。折角だ、俺らも宿でベッドだけ取ったら、行ってみっか」

 ラットはそう言い、カイルに向かって笑いかけていた。



 ラットたちが選んだ公衆浴場は、その屋上に涼める場所を備えていた。

 支柱を立てて簡易テントのような幌が張られ、長椅子が並べられている。また冷やした果実水が売られており、取れる果物が違うのか東とは味の違うそれを飲みながらラットたちはくつろいでいた。

 浴場の中では特に会話も無い。ただ淡々と身体を洗い、浴槽で身体を温めて出ただけだ。

 だが、こうして風にあたりながら二人並んで座り、頭も冷めてすっきりとした気分になって来ると、言うべき言葉を纏められたような気がしてラットは口を開いていた。


「なあ、カイル。……ミリィ、また不安定になってないか?」

 それも以前に暴走した時とは違うかたちで。

「……うん」

 カイルは否定してくるかとも思ったが、彼は素直にうなずいていた。

「実はね、君たちと分かれて行動していた三日間。それだけの間で、彼女は殆ど眠れなくなってしまってね……」

 なるほど、とラットはうなずく。

 不眠の兆候はエルフの国へ行った初期からあった。元々ストレスが溜まってきていたのだろう。

 そこにシノの死と――カイルだ。


 あらためてラットはカイルを見る。

 彼はペンギンズの切り札だった。別に彼の能力が高いとかそういった話でなく、その性向として。

 ラットがその時出来る事を探して行う人間だとするなら、カイルは後で必要になるだろう事を探してそれに備える人間。全員が手一杯になっているとき襲ってくる脅威に対処出来る人間だった。

 安全装置だとか、最後の防壁だとか、そんな言葉で呼んでもいい。

 それが、あのシノの死以降、ずっと起動しっぱなしになっているのだ。

 ゼロか1かの苛烈なカードが早すぎるタイミングで切られ続けている。


 追い剥ぎの村へ行くこととなった依頼選びの際にも言ったが、カイルが真っ先に動かなければならない事態というのは異常にして深刻なことだ。

 それがずっと続き、そしてそれを間近で、目を離すことも出来ずに見続けていたのだから、ミリィにとって過負荷となっても仕方がない。

 ……あと、もう一つあるのかもしれないが。それについては今は考えまい。

 ともかくそういう事であるとラットには思えた。


「休養が必要なのかもしれねえな。……ちゃんとした」

 依頼と依頼の間を繋ぐ準備期間のようなものではなく、本当に、身も心も休めるための。

「こんな時にこんな街へ来られたってのは、幸運だったのかもしれないぜ」

 ラットはそう言ってカイルに笑いかける。

「……そう、だね。そうかもしれない」

 カイルもぎこちなくではあるが、微笑を浮かべていた。


 その後エイミィとミリィの二人と合流し、西の街限定の変わった食べ物を探して歩くペンギンズ。

 ラットとエイミィに押され、手を引かれながら進むような感じではあったが、ミリィとカイルの様子はだいぶ以前に近く戻ってくれたようにラットには思えていた。


「あら。あんたたち、まだ居たの?」

 そんな中、ぱったりと道で出くわすベティ。彼女も屋台の食べ物を大量に抱え、それをぱくつきながらまた新しい屋台を覗いて回っているらしい。

「ああ。依頼達成のあと最低1日は休みってのがうちの掟だしな」

 そのまま付いてくるベティにラットは答える。


「ふうん、馬車も使ってるでしょうに、それでやっていけるってのはなかなか稼いでるのね」

 言いつつも、彼女はまた銀貨を1枚支払って数本の串焼きを手に入れる。

 そんなことをしているからすぐに金が無くなるのではないかとラットは思ったが、考えてみればエイミィとミリィの二人も細いくせに良く食べるのだった。

 彼女たちと一緒に食事に行くと本来銀貨3枚で済むはずのところが5枚6枚となってしまうので、パーティを組んだ初期の頃は良くカイルと二人だけで食べ物を買いに行っていたものだとラットは思い出していた。


 なお、街での支払いは通常銀貨のみで行われる。銀貨の価値はそれなりに高いが、それ以下の貨幣――銅貨など――が使える街は少ないので、大体は商品価値よりも高い支払いをしなければならず、こういった屋台での買い物などはだいぶ割高になる。

 それでも雰囲気と美味そうな匂いに釣られて買ってしまうのが困りものだが。

 ラットも今日の夕食だけで遣ってしまった銀貨を今更ながらに数え、その表情をやや苦いものに変えていた。


「そう、なら明日はまた依頼に出るのね。それならもう一回共同で仕事しない?」

 ベティはそんなことを言い出す。

 連携的に、彼女たちのパーティがペンギンズを必要とするとも思えないが。

 何しろ彼女の仲間たちは彼女の援護を行うためだけに特化しており、それ以上に補うところも無ければ彼女たち自身が他を援護することもさほど出来ないのだから。

 そう言って返すと、ベティはふくれたような顔をしていた。

「いいのよ、そんなのはどうでも。単純に、2パーティならもっと大物狩りだって出来るでしょ」


 聞くと、ベティさんパーティは基本、ゴブリンゴブリンまたゴブリンの生活をしているらしい。

 ペンギンズの初期2週間も似たようなものだったので何とも言えないが、それでは報酬もあまり良くはなかろう。

「わかった、でもあんまり危険なのは無しだぜ?」

 ラットはそう言って、翌日彼女とギルドで会うことを了承していた。

 やけに嬉しそうに去ってゆくベティを見送り、ラットの耳元へと顔を寄せるエイミィ。

「ねえラット。もしかして……気に入られたんじゃない?」

 そんな言葉を囁かれ、ラットは飲んでいた果実水を盛大に吹き出していた。

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