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第四十一話 報酬のおはなし

「こりゃちょっと……話が違うんじゃねえか?」

 ラットは隠れながらそう呟いていた。


 巣の中に居る魔物の総数などはある程度推測にたよるしかない。

 壊滅した魔族の軍勢から離れた魔物などは後から合流して増えることも有り得る。

 コボルト退治の時に言ったことだが、それにしても。

 依頼書で見たゴブリンの規模と実際の規模が違いすぎるとラットはぼやいていた。


「多分……依頼の際に村人が見たのはただの先遣隊か、分隊の一つに過ぎなかったんじゃないかな」

 カイルも身を低くしながらそう言っていた。今回は彼の防御幕プロテクションに期待が出来ないということで、エイミィも突撃はせず引き気味に戦っていたのが逆に良かった、といったところだ。

 エイミィは若干の矢傷を受けて解毒と治療を済ませ、それでもまだやや青い顔でうずくまっていた。

「使われた毒の種類は多分合ってると思うんだけど……いきなりね」

 彼女の顔色と傷の様子を見ながら、ミリィは言う。

 神聖魔法ならば解毒の際、特に使用された毒の種類を判別する必要はない。だが魔術での解毒は症状をわかった上で打ち消すように使わなければならない。

 緊急時には全毒対応で複数魔術を連続してかける、ということもせざるを得ないが、そこまで魔力に余裕を持てる状況ばかりでもないため、やや処置が遅れるのは致し方のないことだった。


 彼等が眺める先には、巣穴である洞窟への侵入者を探すゴブリンたちの群れ。

 短剣や棍棒を持った者が8、毒矢をつがえる弓を持った者が4。

 更に革鎧と盾、それに片手斧で武装するベテラン兵が2というなかなかの陣容で、耳障りな声で鳴きながら物陰を覗き回っている。

「ある程度のところで仕掛けねえと、見つかるのは時間の問題だな」

 ラットはそう言って合成弓コンポジットボウを構えた。

「……見つかっていないのなら、このまま下がった方がいいんじゃないですか?」

 ミリィは言うが、カイルは首を横に振る。

「いや、危険だと思うよ。少なくとも弓持ちは叩いておかないと」

 ラットも同意見だった。エイミィの体調が思わしくない今、逃走時に発見され更に毒矢を誰かが食らった場合、最悪の状況でどちらかが全滅するまで殴り合わなければならない事態となりかねない。


 ここで、先制攻撃で相手の遠距離攻撃手段を潰してこそ撤退の選択も可能になる。

「……わかりました。ごめんなさい、まだ少し頭が鈍ってるみたい」

 ミリィはそう言い、ロッドを構える。

「初撃は俺の誘導弓ホーミングアローから。これは多分、発射地点を気づかれないと思う」

 ラットは抑えた声でそう告げる。

 それでまず弓兵の1体を潰し、二本目の矢をラットが弓につがえた時点で残りの3体を3人で一気に仕留める。提案された作戦にカイルとミリィがうなずき、了解の意を返してきた。


「じゃあ、行くぜ」

 ラットはそう言って弓を引き絞る。鏃に小さく魔法陣が浮かび、明後日の方角に撃たれた矢が強引な方向転換をしながら空中を駆けて、ゴブリン弓兵の頭部を見事に貫く。

 地面に刺していた矢を抜き、弓につがえるラット。それを認めてカイルとミリィは同時に火炎の矢ファイアボルトの魔術を紡いでいた。

 射出された炎が警戒しながらも立ち尽くすゴブリン弓兵に正面から当たり、その胸から顔面を焼き尽くす。そして、ラットの放った2射めの矢は再び鋭角の軌道を描き、最後の弓兵を胸板から貫き壁に縫い止めていた。


 混乱に陥るゴブリンたち。それに構わず、ラットはエイミィを担ぎ上げる。

 弓と矢筒はもはやその場に捨て、背嚢もそのままにして、ラットたちはその場を逃亡していた。



 ほうほうの体で逃げ帰ったラットたちを村長は迎え、未だ依頼が達成されていないことを聞いて呆れたような顔をみせていた。

「まさか、ゴブリン退治にも失敗したと?」

「聞いていたものと群れの規模が5倍は違いますわ」

 あまりの言い草に、村長を睨みながら言うミリィ。

 だが仕方のないことだとラットは思っていた。この村でも当初から、若いラットたちはナメられたような態度を取られていたのだから。

 それで攻略失敗となればそれ見たことかというような態度を取られるのが当たり前である。


「まあまあ。村長、確かにこっちにも不手際はあった。だけど相手の数が多すぎたのも本当だ。少し巣穴に踏み込んだだけで15匹近くの迎撃が出て来たんだからよ」

 ラットの言葉に唸る村長。3倍を越える人数差では、確かに格下相手といっても敗走を余儀なくされて仕方ないかと彼は判断してくれたようであった。

「それに、こっちもこれといった損害はねえ。今日は休んで明日討伐を再開するってことでどうよ」

「まあ……仕方ありませんな。明日できちんと片付けてくれるのであれば」

 村長はそう言い、そしてベッドと食事は提供すると続けていた。


「気分はどうよ」

 ベッドに横たえたエイミィに、その鎧を外してやりながらラットは問う。

「うん……だいぶ良くなってきた。ごめんね、ラット。役に立てなくて」

「いや。こっちこそ、両手剣は流石に拾って来られなかったしな……」

 ラットは頭を掻きながらそうこたえた。ゴブリンどもにあの大剣が持てるとも思えないが、明日再度討伐へ行くにあたって武装の選択肢が減ってしまったことは申し訳なく思う。

 まあ、そういった意味では、どちらかと言えば合成弓を失ったことの方が厳しいわけだが。


「でも、参りましたね。明日再び向かったとして、壊滅させられると思います?」

 ミリィはそう言っていた。今日4匹を仕留めたとはいえ、恐らく巣の中にはその十倍以上、50前後のゴブリンが居ると考えた方が良いだろう。

 更に、そこまでの規模となると確実にリーダーとして部族のシャーマンを持つ。

 魔法攻撃を行うゴブリンシャーマンは、ただのゴブリンとは別次元の敵だった。

「……難しいだろうね」

 カイルは冷静に考え、そう結論を出していた。

 慎重に距離を詰め、気づかれないよう敵数を減らし、各個撃破にて仕留めれば何とかならなくはないのだろうが、彼がここで問題としたのはそれだけの危険と労力をかけるのに報酬が見合うか、ということだった。


「僕たちが約束されたのは、10匹程度のゴブリン部隊を始末するのに相応の報酬だけだよ」

 50匹規模の巣を駆逐するだけの対価としてはあまりに安い。

 本来4人でやるような仕事ではないのだ。2~3パーティを使い、それぞれ数倍の報酬を貰うとして10倍ほどの銀貨をいただかなければ割に合わない。

 だというのに今回、報酬額の再設定は交渉以前に言及すら出来ないままだった。

「まぁ……確かに、な」

 ラットは言っていた。


「明日の朝その話をしてみて、ダメだったら断ってしまうのも手だ」

 カイルはそう言うが、ラットは苦い顔をしていた。

 あれだけのゴブリン集落が近くにあって、このタイミングで討伐が出来なかったとしたら、こんな村などすぐに地図上から消えてしまいかねない。

 それをわかっていて見過ごすことが出来るのか、と。

 報酬額を10倍に引き上げるような要求が通るか以前に、この村にそれだけの支払い能力が本当にあるのかといった点について、明らかにそうは思えないからこそラットは悩んでいた。


「ラット。気持ちはわかる、けど僕たちがまず危険なんだよ?」

 カイルはそう言っていた。ラットはその言葉にほんの少しだけ考え、うなずいてみせる。

「ああ。報酬額の値上げ交渉についてはやってみるさ。だが、この村が払える範囲でな……」

 せいぜいが5倍、それも難しいかもしれないが。

「それが決裂したとなったら……仕方ないかも、な」

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