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第四話 パーティ結成のおはなし

「相変わらず凄い行列ねえ……」

 街の外、小さな露店の前に集まる人と、並ぶ人の列にエイミィは呆れたように呟いていた。

 2週間前にも見てもらったことではあるし、今回またあの列に並ぼうとは思わない。

 ただ、この人の群れを眺めたくてやって来たのだった。


 彼等が目当てとするあの露店には、少女二人が占いのババと呼ぶ者がふんぞり返っている。

 黒に近い緑色の髪、緑の瞳。褐色の肌を持つ10歳前後に見える幼女だが、自分のことを五千年生きているとほざき、子供扱いすると怒るので、みんな仕方なく占いのばあさんとかそんな風に呼んでいた。


 それが何をしてくれるのかと言うと、レベルを見てくれるのだという。

 レベルって何だよとは思うが、まあその人間の総合的な技量とかそんなようなものらしい。

 最初は誰もそんなものを信じる者は居なかったのだが、つい数年前。魔王アーベル討伐パーティを彼女がざっと見て、いけるいけると言った結果本当に損害1名くらいで行けてしまったので、それ以来。

 彼女の露店に出来る列と人だかりは少しずつ増え、こんな有様となっていた。


 なお、彼女は現在ノクティ・アリスと名乗っている。

 簡易テントの中で椅子をかたむけ、やや高めのテーブルに足を乗せながら、ノクティ・アリスは前に並ぶ客たちをつまらなそうに眺めては、あくびを噛み殺していた。


「おう、お主は数日前にも見たような気がするのぅ。レベル21、そんなすぐ上がるものか」

「そっちはレベル13じゃ、近接戦闘技能Ⅲはまあまあじゃが、それ以外なんもないのではな」

「レベル30、しかし器用貧乏よの。隣の特化剣士に良く戦果で負けておるじゃろお主」

 そんな感じで次々指差して回り、頻繁に水を飲んでいる。

 ヒマでヒマでどうしようもなくなって始めたお遊びではあったが、こうなるともう苦行だった。

 まあ、遠からず領主の兵たちがやって来て追っ払われると思うのだが、そうなったらもう次の店は出すまいと決めている。


 大体人間の兵だとレベル50くらいが上限なのだが、まあ育った者にはあまり彼女は興味が無かった。

 どちらかと言えば初心者の方を面白く感じる。これからどう伸びるのかが楽しみで。

 そういった意味では2週間前に見た者達は面白かった、と彼女は思い出し笑いをしていた。



「レベル8じゃなぁこそ泥よ。お主……魔物はおろか人間と戦った事もあるまい?」

「うっ……」

 ラットは言葉に詰まっていた。確かにその通りなのだ、剣を振るったことはないではないが、それは戦いと呼べるようなものではなかった。

 だがそんな事をここで言われては困る。これからしばらくの間は、どこかの冒険者パーティに拾ってもらって食いつなごうとしていたのだから。

「いや、そんな事はないだろ? ええっと……婆さん? もう一回見てくれないか」

 食い下がるが、それが良くなかった。

 むっつりと不愉快そうな顔をしたノクティ・アリスは、とんでもない事を言いだしたのだ。

「おやおや、お主……隣のマリウス領で500銀貨の罰金を課せられておるではないか。さっさとあっちへゆかぬと、吾が捕まえて衛兵ガードに突き出してしまうぞえ?」

「うわっわっ」

 とぼければ良かった。しかしラットはそれが真実だという反応を見せてしまった。

 おそるおそる周囲の人だかりを眺めると、その全員がこちらを見ている。

 もう冒険者としてやって行こうという望みは潰えたのだと、その時ラットは悟っていた。誰が凄腕でもない、他領とはいえ罰金バウンティ持ちの盗賊を引き取るものかと。


「レベル8ですって? ならうちに来なさいよ」

 予想を裏切るそんな声が掛けられたのは、突き刺さる視線に耐えながら人混みを逃れて立ち去ろうとしていたところだった。

 それがエイミィとの出会いだ。ミリィはあまり賛同出来ないような様子で、無言で隣に立っていた。


「ふむ……」

 ノクティ・アリスは横目で彼等を眺める。

 エイミィの方がレベル13、近接戦闘技能Ⅲに補助魔術技能Ⅰ。

 ミリィの方がレベル15、魔術戦闘技能Ⅱに補助魔術技能Ⅳ。これは何か妙な遊びをしておるな。

 そして最後に、ミリィに連れられているぼんやりとした感じの少年が。


「ほう、レベル7で神聖魔法技能Ⅲのみか……」

 これは少々おかしかった。神聖魔法というやつは外付けの技能なので、その習得はあまりレベルに影響を与えない。ということは技能無しで5~6の初期レベルを確保しているということだ。

 となれば――あれは英雄候補か、と彼女は納得した。

 そう思って能力詳細を確認すれば、彼の魔力量は常人の4割増し。惜しい事に精霊使いではないが、夜間の魔力回復量も1割増し程度に増えているのが見えた。


 そう珍しいことでもない。100人集めれば10人ほどは居るようなものである。

 ただ、重要なのはそれがどんな生き方を選ぶかという事と、それが活かせる世の中であるか、ということだった。

 殆どの英雄候補は農民だとか商人だとか、そんな風な生き方で一生を終える。

 冒険者を選んだという点ではあの少年は良かったが、それでものぅ、と彼女は溜息を吐いた。

 魔王が討たれた後になって出て来た英雄候補では、まあ大したことにもなるまい。


 英雄たる条件のうち最も重要なものはタイミングの良さだ。

 必要な時、必要な物を持って必要な場所に立つこと。それこそが全てだった。

 実際今回の魔王討伐パーティにも英雄候補など誰一人としていない。

 突出したレベルを持っていた魔導暗殺者ナイトブレードの青年も、その魔力量は常人の8割程度しかなく、それを徹底して低消費の魔術しか用いない事で何とかものにしていたのだ。


 じゃがまあ――あれは面白そうじゃの、と。

 街の方へと向かってゆく4人、新たな初心者パーティの結成を彼女は眺めていた。

 そしてその前では、いきなり客のレベルを見るのをやめてしまった彼女に対し、居並んだ客によるババ様早くしてくれコールがだんだんと大きくなっていっていた。



 4人はやや日の傾いた程度の時刻に冒険者の宿へと到着していた。

 中はがらんとしている。おそらくみんな、あのババ様のところへ向かっているのだろうと思えた。

「結局カイルのレベルは見てもらえなかったのね」

 ミリィが溜息を漏らすが、エイミィはそれに笑って返していた。

「いいじゃない、冒険者神官はとりあえずどこでも拾っておこうって感じだし、初心者の子をいきなり捕まえられたのは幸運だったわ」

 むしろ変な事を言われなくて良かったのかもしれない、そんな事をエイミィは続ける。

「で、俺は……」

 おそるおそるラットが声をあげるが、それに二人は黙り込んで顔を見合わせていた。


「盗賊は、要る……わよね? なんかどっかの冒険譚で見たわ」

 来いと言っておきながらそんな事を言うエイミィ。

「まあ、鍵開けが出来るかどうかで洞窟なんかの実入りが違うってのは良く聞くし」

 ミリィはそう言うが、しばしの間を開けた後で続けていた。

「でも……罰金持ちでしょう?」

「あああ……」

 項垂れるラット。しかしエイミィは開き直ったかのように言っていた。

「いいのよ、別にこの領内で活動するぶんには問題ないんだから」


「それじゃあ、予定してた4人が揃ったわけだし、パーティ名を決めましょう」

 仕方ないとばかりに言うミリィ。しかしこれがなかなか決まらなかった。

 案は出るのだがエイミィとミリィのどちらかが反対して決まらず、ラットやカイルも案を出すことを迫られたが彼等が言うものは全て二人ともに却下され。


「じゃあもう、ダイスで決めようぜ。一発勝負でリロール無し!」

 いい加減ダレた頃にラットが言い出したそれに、エイミィが立ち上がる。

「面白い……見せてあげるわよあたしのダイス運!」

 そしてミリィとカイルが止める中、牛の骨を削って作ったダイス3つが出した目は、6・4・2。

 これまで出た候補をごちゃまぜにして作った表を参照した結果は、虹色のペンギン一家。


 全員が沈黙していた。これでいいのかとエイミィを見た。だが彼女は強硬にこれを押した。

 そして、そういうことになったのだった。

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