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第二十六話 他の冒険者パーティのおはなし

「なんで魔族だって言ってくれなかったんですか!」

 大変な剣幕だった。

 テーブルを叩きながらそう言うミリィに、ジャニスは穏やかにこたえる。

「見ちまったのかい……」

「見ちまったっつうか、見えちまったっつうか……」

 ラットもまた困ったように言っていた。流石にいきなり殺されかけたとは婆さんには言えないので、とりあえず告げるかどうかの判断はミリィ任せとこの後の流れだ。

 そして、この後ジャニスがどう言うかというのも、ミリィ本人ですらわかっているだろう。

 ジャニスは深い溜め息を吐いていた。


「言えるわけないじゃないか。言ったら、まともにあの子を探してくれたかい?」

 老婆がこう言うのはわかっていた。わかっていてなお、ミリィは返答を用意出来なかった。


 魔族が居ること自体は特に不思議であるともラットたちは思っていない。

 取り替え子チェンジリングというものが、極々稀にではあるが起こるからだ。

 確実に人族同士の子であっても魔族として生まれて来る者がほんの僅かに存在する。

 そして魔族の寿命は長いので、僅かであろうが全く居ない時期というのはそうそう無かった。そういった子たちの女性であれば、農村で牛馬代わりとして使われているのを見る機会も無いではない。


 だが、男性は違う。身体能力に優れる魔族の女性に対して、男性は魔力とその制御力に優れる。

 身体能力自体も人族に比べて低いわけではない彼等を生かしておくのは危険過ぎるため、基本その全てが生まれた瞬間に処分される筈であった。


 女性の逃亡魔族も恐ろしいは恐ろしいのだが、単独ならば冒険者による討伐が可能な程度。

 しかしある程度魔術を覚えた男性魔族には手がつけられない。魔王アーベルのブッちぎった強さを聞いているミリィなどはそれを良くわかっていた。


「せめて、魔術を教えるのだけはやめておいてくれたら……」

 ミリィはそう言って、ザナンから攻撃を受けたことを明かす。使用された魔術とその状況を聞いて、対処がマズければ下手をすれば全滅、そうでなくとも普通に死人が出ておかしくない事態であったことに気づき、ジャニスは深く頭を下げていた。

「なんてこった。あんたたち……見た目から思うよりずっと優秀な冒険者だったみたいだね」


 単純な褒め言葉というわけではない。探知妨害を察知され、完全に詰められたからこそ反撃に出たということなのだろうが、それにしてもいきなり殺しにかかるというのは妙だとジャニスは言っていた。

「済まないが、もう一回行っておくれでないかい? 雷撃1発くらいなら耐えられる呪符を明日までに作っておこう。今日のところはここに泊まりな」

 と言われたところで小さな小屋のこと、4人が寝るベッドも備えてはいなかったが、ジャニスはそのまま椅子で眠り、大きなベッドにはエイミィとミリィ、ザナンのベッドにはカイルが寝て、ソファをラットが使うということで話はまとまっていた。


 そして、翌日。

 ジャニスから貰った呪符を防具に貼り付け、再びコボルト洞窟へと向かったラットたちは、洞窟の前に先客を発見していた。

 あちらも4人。年の頃はペンギンズとそう変わらない少年少女たちの群れ。

 武器と防具を身に着けた、それは冒険者パーティの姿だった。


「……ん?」

 と、巨大なとげつき鉄球を穂先につけたハンマーらしき物体を背負った少女がこちらに気づく。

「何、あんたたちも冒険者なの?」

 そう言う少女にラットはそうだと答え、何故こんな場所に居るのか、まずそれを問いかけていた。

「依頼を受けてきたんだよ。この近くに住んでる魔術師から、魔族の討伐依頼をね」

 冒険者用の中装鎧――とは言えその素材は木だったが――を身に着けた剣士風の少年が言う。

 ラットはそれを聞いた途端、表情には現さないが、まずい事になったと心中にこぼしていた。

「もう6日も追ってるのよ! アリサの探知にも全く引っかからないし!」

 ハンマーを背負った少女が言い、ロッドを持った魔術師風の少女が自信なさげにうなだれる。


「……これが、帰りたくなかった理由ね」

 エイミィが小さくラットの耳元に囁いた。

 この4人からずっと逃れ続けていたのか。しかも依頼が出されるような状態となっていては、もし撒いたり返り討ちに出来たところでもうあの小屋には戻れまい。

 だが、どうしたものか。ラットにはこの状況を何とかする手が全く浮かばない。

 もしヘタにザナンを庇い立てするような事を言えば即座にこいつらと戦闘になりかねないし、たとえそれに勝ったとしてもどうするのか。結局のところ彼は魔族なのだから。


 だが、ここで口を開いたのはミリィだった。

「魔族……それって、どこかの逃亡魔族?」

 え、というように全員がミリィを見ていた。彼女の言っている意味が良く分からない。

「だってそうでしょ、地下から攻めてきた魔族は全員封印されたし、残っているのは村に居る取り替え子チェンジリングだけ」

 そしてその存在は許されている。村の共有財産、牛馬と同じ存在としてだが。

「そういった村、或いは村から所有権を買った人のところから逃げ出した逃亡魔族だったら討伐の対象になるけど、ただ魔族というだけだったら別に居ても構わないものですよね?」


 ああ、とラットは納得していた。

 彼には、人が誰かの所有物たるという発想が馴染みのないものだった。

「依頼人に確認した方がいいと思いますよ。その魔族は、あなたの所から逃げた魔族ですか? って。そうでなかったら……誰か他の人が使っているものだったら、勝手に殺しちゃうのはまずいですよね」

 すげえ、とラットは笑みを浮かべていた。

 やるじゃねえかミリィ。これで少なくともこの場はこいつらを追っ払える。

 更に、ザナンが生き延びる道も見つかったかもしれない。


 冒険者パーティはどうすんだよと言い合い、わいのわいの騒いでいる。

 一週間近くも無駄足を踏んだとなれば結構な痛手だ。今でこそラットたちの懐もだいぶ温まって来てはいるが、ゴブリン退治だけをやっていた頃にそんなことになればひもじい思いをする羽目になっていたかもしれない。

「ああっ、もう……仕方ないわね!」

 そして、最後まで戻ることに反対していたハンマー持ちの少女が、ようやく納得はいかないまでも確認にゆくことを承知しようとした時。

「そう、たとえ男の魔族だって例が皆無って訳じゃないんだから、ちゃんと持ち主は確認してから襲わないとね」

 ミリィはそんな事を言っていた。言ってしまっていた。


「ん?」

 ハンマー持ちの少女が首をかしげる。

「え?」

 アリサと呼ばれた魔術師風の少女が顔を上げる。

「うっわ」

 ラットが頭を抱え、エイミィが溜め息を吐いていた。

「あ……」

 そしてミリィが今更ながらに口を押さえる。


 そう。そうだったよな、なんか、すっごい肝心なところで抜けてるのがミリィだったよな。

 ラットは微妙な笑みを口許に刻みながら、この後の展開に備えて仲間と距離を開けた。


「あ……あんたたち、その魔族のこと、知ってるわね!」

 ハンマー持ちの少女がミリィを指さしながらそう叫ぶ。

 剣士風の少年とアリサが武器を持ち上げ、そしてこれまで全く口を開かずに居た神官風の少年がようやく事態に気付いたように、ハンマー持ちの少女の後ろへと隠れる。

「ベ、ベティ……もしかして戦いとかになったりしないよね?」

「なるに決まってんでしょリート! リックにアリサも! こいつら叩きのめして、魔族の居場所を聞き出すんだから!」

 ハンマー持ちの少女――ベティは、そう言って背中から巨大なハンマーを引き抜いていた。

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