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第二十四話 黒魔術師のおはなし

 解決した、捕縛された、と言われてもホントかよとしか思えなかったのだが。

 とりあえず城でゴロゴロする生活から開放されたペンギンズは未だ領主館のある街に居る。

 何故かと言えば、それはまあ、移動するにも依頼を受けてから、といったわけだ。


 だが、依頼書を前にしてもやはり話題はあの話へと戻っていた。

「……本当にあいつ、捕まったのかな」

 ラットはぼんやりとそう呟く。

「まあ、彼女が嘘を吐くとは思えませんし、吐いたところで何の意味もありませんからねえ」

 ミリィはそう言ったが、やはりどこか安心出来ない部分があるのは同じようだった。

「また出て来るんじゃない?」

 エイミィの言葉に全員が沈黙してしまう。それは当然、そうとしか思えなかったからだ。


「でも……とりあえずどちらも居場所はわからなくなった。それでいいんじゃないかな」

 カイルの言葉にラットたちはうなずくしかない。

 元々、どちらかが死なねばならないような決着はペンギンズも望んではいなかったのだ。

 技量的なところで考えればこちらが皆殺しになる可能性の方がはるかに高い、ってなことも含めて。


「さぁて、んじゃ元の街にもそろそろ戻りたいってことで……なんかいい依頼あっかな?」

 ラットはあえてそう呟きながら、依頼書で埋まった掲示板を眺めていた。

 と、その目がふと一つの依頼書にとまる。討伐依頼に混じって一つ異質なその文面を彼は読み上げる。

「……迷子の捜索?」

「迷子ですって?」

 身を乗り出すミリィ。ラットが見ていた依頼をすぐに探し出した彼女は、それを無言で読み始める。

 そして口を開いていた。

「これって、以前行ったあのコボルト洞窟の辺りじゃない?」


 依頼人は都市の警備隊でも村でもなく、個人。その付近に住む老婆であるという。

 ギルドの説明はそれだけだ。特に周辺でモンスターが目撃されたわけでもなく、安全な依頼。

 しかしたまにはこういったものも良いかもしれないと、ペンギンズはその依頼を受諾する。


「しかし、まさかこっちの街であのへんの依頼が出てるとはねえ」

 地図を眺めながら言うラット。

 確かに目的地であるコボルト洞窟付近は東側の山沿いである。直線距離を測ると概ね二つの街からの距離は同じほど。依頼人である老婆の家からは領主館のある街の方がやや遠いか、といったところだった。

「あっちの方が人が多いし、それでじゃない?」

 エイミィの言葉にもうなずけるところがある。

 迷子探しとなれば緊急だろう。大きな街、イコール冒険者も多い街に依頼が行ったと。

「一度行った場所というのは幸運だったね。もしかしたら、あの洞窟に居るのかもしれない」

 カイルはそう言っていた。

 先入観でそこしかないと思うのも危険だが、まず最初に当たるべき場所がはっきりしているというのは悪いことではなかった。雨風凌げる場所というのも少ないはずだ。

「とりあえず、急ぎましょう」

 と言うのはミリィだ。依頼への食いつきもそうだが、彼女はだいぶ乗り気でいる。

 まあ、小さな子が行方不明というのはそりゃあ深刻な事態だが、彼女は報酬を貰っても赤字になるのを覚悟の上で馬車すら仕立て、ラット達は小型だが彼等貸し切りのそれに乗って目的地へと進んでいた。


 依頼人の小屋、その近場で馬車から降りるペンギンズ。

 帰りは街道を西へ進んで元居た街へと戻るので、馬車はここまでということで帰ってもらった。

「しかし、なんだなぁ……」

 依頼人の小屋を眺めて口を開くラット。

「これは……」

 エイミィも戸惑ったようにそう言っている。

 彼等の前にある小さな小屋は、なんというか。ものっそいオーソドックスな、魔女の家だった。

 小屋の脇には狭い畑とハーブ園。小屋には吊るして乾かされている各種薬草類。窓からはなんかの動物の頭蓋骨が覗き、小さな煙突からはあやしい煙が常に出ている。

 小屋の扉を前にしてノックも出来ず、しばしそれを見上げ続ける4人だったが、やがて意を決してミリィが扉を叩きにかかる。

「あの……すいません」

 返事はない。

「依頼を見てやって来たんですが」

 やはり返事はなかった。


「冒険者ですけどー!!」

 やや開いた窓に向かって、口に手でメガホンを作って叫ぶミリィ。

 するとようやく、奥から返答がかえってくる。

「うるさいね聞こえてるよ! 鍵なんざかかっちゃいないからさっさと入ってきな!」


 扉を開き小屋の中へと入ったラットたちは、こもる薬品臭に顔をしかめながら奥へと進む。

 そして雑多な錬金術用具と小瓶、そして粉末や干された葉が手の届く範囲にまとめられた一角に座る老婆を見つけ出していた。

「悪いね、歳食ってだいぶ身体にガタが来ててさ、人が来た程度で外まで出たかないんだ」

 老婆はそう言って、皺だらけの顔ににやりと笑みを刻む。

 いったい幾つなのだろうか。髪は全て硬そうな白髪、痩せて筋張った首筋と手。しかしその顔立ちは老いながらもそう弛んではおらず、やや紫がかった目は強い意思の光を保っている。

 若かった頃は相当な美人だったのではないか、ラットはそんなことを思っていた。

 それが、何故こんな小屋で独り住んでいるのかはわからないが。


「しかし、どんな冒険者が来てくれたかと思ったら……まだほんのガキじゃないか」

 額を細い指先で支えるようにしながら溜息を吐く老婆。

 そうだ、こういう反応だよなあ、などと。ラットはどこか安心したように口を開いていた。

「迷子探しの依頼だってんなら、いかついおっさんが揃うよりいいんじゃないか? 婆さん」

 老婆はふっと笑ってみせると、その背筋を軽く伸ばす。

「ま、それもそうだ。いいだろう、じゃあ……あんたらに頼むこととしようかね」


 そして、老婆は名乗ってみせた。

 ジャニス。黒魔術師のジャニスだ、と。

 ミリィは何も口にしなかったが、それを聞き、やや片眉を上げて老婆を見ていた。


 主に貴族が抱える、相談役兼主治医といった役割の魔術師を白魔術師と呼ぶ。

 これはかつては王宮魔術師と呼ばれ、その名の通り王族しか置かない存在だったのだが、腕のいい魔術師一人を傍に置いておくことの便利さが知れ渡り、財力に余裕のある貴族が挙って似たようなものを置くようになってからはそう名を変えていた。

 そして、その白魔術師の存在を前提として、その他学院に居る教師でもなく冒険者でもない、いわゆる村外れの怪しい魔女なんかを指して呼ぶ蔑称が、黒魔術師であった。


 何をやって生活しているのかもわからない、他人と殆ど交流しない、たぶん邪悪に違いない、そんな感覚で呼ばれる言葉で、自称するというのはそれを売りにしているガチで悪い魔術師かよっぽどの捻くれ者だけである。ミリィはジャニスをおそらく後者であると思っていた。


「あの子にゃ、栽培出来ない薬草の採取を3日おきに頼んでたんだけどね。戻らなかった。半日遅れることだって今までにゃなかったことだ。すぐに探そうとはしたんだが、どうも近くには居ないようでね」

 ジャニスはそう言う。

 探知魔術での近辺捜索は既に終わって、それで見つけられないとは。

 かなり捜索範囲を広げなければならないかもしれないとミリィは考える。

「そういえば、近くに洞窟があることって知ってます?」

 エイミィがたずねると、ジャニスはややためらいながら、しかしうなずいていた。

「ああ。確かに……あったね。ああいう所には魔物が住み着きやすいから近づくなって、あの子には言ってあるんだが」

 そして、そちらの内部へは探知魔術も届かなかったと彼女は言っていた。


「とりあえず、最初に当たる場所はあれでいいってこったな」

 ラットはそう言い、立ち上がろうとした。

 既に少年が消えてから5日。彼はジャニスから簡単な薬草の見分け方と、初歩的な魔術の手ほどきを受けていたようで、そのくらいの日数であれば問題なく生存は出来るらしい。

 だが、脅威はただ空腹ばかりではないことを考えれば楽観は出来ない。


「待った。あの子を探す上で、一つだけ言わなきゃいけないことがある」

 だが、ジャニスは小屋を出ようとするラット達をそう言って引き止めていた。


「決して、あの子のフードの下を覗くんじゃないよ。……いいね?」

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