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第十八話 オーク退治のおはなし

 さて、依頼選びだ。

 コボルト、グール、更にゴブリンにまでペケマークが付いた現状に、ペンギンズは割と困っていた。

 あとエイミィとミリィの所持金が割と豊かになったので、そこまで急いで依頼を受けなくてもいいんじゃないか的な空気が二人に流れているのも、素寒貧なラットとカイルにとっては困る。


「……オーク、はどうかな」

 やがて、そう口を開いたカイルに3人は驚いたような顔を向けていた。

「オー……ク……?」

「正気ですか?」

 口々に言うエイミィとミリィ。

 オークとは、ゴブリンやコボルト以上に知られ、子供が真っ先に思い浮かべる人類の敵だった。

 いやもう世界の敵とか言ってもいい。猪に似た頭部を持つ、何もかもを嫌う粗暴で屈強な人型モンスターで、むしろ同族同士でこそ争い合ういかれた蛮族だった。

 強力な族長に率いられる以外では全く統率が取れず、それも他の部族と速攻で戦闘になって再び散り散りになるといったことを繰り返している。滅んでいないのがおかしい代物だが、凄まじい繁殖力でそれを何とかしているとか、そんなような感じだ。


 また、魔族はこれを簡単な精神に働きかける魔術を使って自軍に編入するが、そうなればなったで割とその戦闘力を低下させてしまう。この状態では肉壁以外の役に立たない雑兵だった。

 こういったものだけを見た騎士様とかが、魔族軍残党ではないオークを舐めて掛かって突っ込んでくっ殺に遭うというのが戦争後の風物詩である。

 カイルもそのような感じなのじゃないか。そんな事を思いながら彼を見ていたラットだが、カイルは言葉を続けていた。


「6体くらいなら何とかなると思う……。たぶん、どこかの部族同士の戦いで散らされた残党じゃないかな。依頼されてからの日数もそんなに経たないし」

 カイルが指差す依頼書を見ると、確かに、そういった具合だ。

 村からの依頼ではなく街道守備隊からの依頼であるという事もわかり、その情報もある程度信用して良いと思われた。報酬額も、なかなか。

「なるほど……悪かねえかな」

 ラットは顎をさすりながら言っていた。

 そしてエイミィからも異論が出ない事を見、ミリィは口を開く。

「わかりました。では、今回はこちらを受けましょう」



 ギルドから受けた依頼の説明は、やはりカイルの読んだ通りだった。

 先週辺りに近場の森の中でオーク部族同士による激突が起こったらしく、族長は両名とも戦死。それにより生き残ったオーク達は散り散りに散っていた。

 そのうち人里に近い方へと進んだ一団が、今回の討伐対象であるといったことらしい。


「オークかあ、兄さんと一緒に木の剣を振り回してた時は、いっつも敵として想像するのはオークだったなあ」

 エイミィは目的地へと歩きながら、そう呟いていた。

 子供のチャンバラごっこでは大体そうなる。毎回オーク役にされる気の毒な子とかが出る。

 この中でそういった経験があるのはエイミィとカイルくらいだろうが、ラットもちょっと裕福な子が遊んでいるところなどを眺めて、そういったものだということは知っていた。

 実際はとんでもなく強力なモンスターであると知らない頃だが、知っていてもそうしたろうか。

 なにせ、たまに立場の強い子がモンスター役を引き受ける時などは、彼等はドラゴンに変じていたわけであるし。


「どのくらいの武装をしてやがるかだな……」

 ラットはそう呟く。彼等は自ら装備を作ることなどはないが、人間から奪った高品質な武装を纏っていることが良くある。コボルトのように戦場漁りで死体から剥ぐわけではなく、持っていた相手を死体に変えて。

 今回の相手は残党だが、残党と化す前にどれだけの物を所持していたか。

 一応説明では、弓兵が2に剣士が3、ポールアーム持ちが1と言われていたが。ラットにはいやな予感がしていた。ポールアームを持っているというのはちと尋常ではない。


「……あの辺りが、街道守備隊が目撃したという地点だね」

 カイルはそう言っていた。

 当然そんな何もない場所に連中がいつまでも留まっているとは思えないが、この辺りは既に彼等の巡回ルートに入っているのだろうと思って気を引き締める。

 そんな中、辺りを見回していたミリィがあるものに気づき、口を開いていた。

「ねえ、あれって……何かしら?」


 それは、ちょっとした森に隣接するように建てられている小さな小屋だ。

「……狩猟小屋か?」

 ラットは目を細め、そう言っていた。

 近隣の村に住む狩人が猟の期間寝泊まりする場所。簡易な寝台と暖房器具、捕えた獲物の下処理などをする場所と器具を備える小型の丸太小屋ログハウス

 オークが目撃された場所と近い建造物として、当たってみないという選択は無い。

 そして彼等が慎重に近寄ってみると、果たして、そこにはオーク達の深緑色の肌がうごめいていた。


 更に周囲には装備を剥がされた兵士風の死体が幾つかと、腐りかけた馬の死体。

 見える5体のオーク達はそれらの死体を切断してはその首や人体パーツを丸太小屋の周囲へと飾り付けたり、焚き火で馬のものらしき肉を焼いたり、戯れなのか本気なのか判別つきづらいが、オーク同士で剣を打ち合わせたりしていた。


 ラットの顔からすっと血の気が引く。背負っていた合成弓を持ち、矢筒から矢を一本引き抜いた。

「……情報より一体少ないけど……やる?」

 両手剣の鞘をとめる留め具を外しながら、エイミィ。

「6のうち5が揃っているなら。1体はそのまま逃してしまうかもしれないけど、そうね……」

 ミリィもロッドを構え、うなずいていた。


 ラットが構える弓の先、オークは胴体だけとなった人間の死体から小刀で丁寧に肉を削いでいる。

「……こういうの見ると、やっぱ何も考えなくて済むよな」

 呟いて、ラットは矢を打ち放った。


 オークの喉元へと突き刺さる矢。それでも流石の生命力で即死はせず、叫びながらその矢を握るオーク。異変に気づいた他の者も武装を構え、矢の飛んできた方角を警戒する。

 ざっ、と茂みから姿を現すエイミィ。

 彼女は身体各所に魔法陣を浮かび上がらせながら両手剣を担ぎ、叫びをあげて吶喊する。

「おおおおおおおおぉぉっ!」

 オーク弓兵は躊躇いなく彼女に向かい弓を構えていた。それが発射される一瞬前、エイミィの前には水幕ウォータースクリーンの魔術が展開し、放たれる矢を押し流す。


 エイミィが突っ込むオークは槍斧ハルバードを持っていた。2メートル近い柄に槍のような刺突部分と斧のような斬撃部を持つ恐ろしい武器。これでは、エイミィの持つ長大な両手剣でも体格差を考えるとリーチ負けしてしまう。

 だが、彼女は怯まない。そのまま、6キロの両手剣を軽い木の棒ででもあるかのように身体の前に構え、オークへと突っ込む。

 その速さに、オークは振って応じたのでは間に合わないと思ったのか。槍斧ハルバードを引き、こちらも突きの構えを取った。そしてエイミィの接近に合わせてそれを突き出す。


 カイルの防御幕プロテクションがそこで展開した。エイミィの周囲を覆った不可視の防御幕は、突き出される槍斧ハルバードの先端を僅かにそらし、槍の穂先は斜め上の虚空を突いていた。

 入れ違いに突き出されるエイミィの両手剣。オークが身体に括り付けていたサイズの合わない鎧をそれはあっさりと貫き、肺と心臓を破壊しながらその背から刃先を露出させる。

 オークは完全に絶命していた。エイミィはその手から槍斧ハルバードを奪い取り、オークの身体に突き刺さったままの両手剣を捨てて代わりの武器とする。


 二匹が殺られてもオークに怯む様子は一切なかった。ラットが放つ矢には即座にあちらも矢を撃ち返し、そうしながら向こうの剣士が距離を詰めてくる。

 その前に立ったのはミリィだった。潜んでいた茂みから身を晒すと彼女は呪文を詠唱し、ロッドの上にバリスタのような上下二段の魔力弓を形成していた。

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