献身的な、ぼくのはなし。
ずっと、待っている。きみがそこを通り過ぎるのを。
柔らかい繊維を体に絡ませて、じっと待っている。
そしてついにその時が来る。きらきらしたきみは、ぼくの方をちらりと見て微笑んだ。その輝く鋼の体が行ったり来たりする。
「ねえ」
きみがそう言った気がした。気が付くとぼくは、ふかふかのクッションで寝ていた。
毎日、というわけではない。ときどき、一瞬だけど、ぼくはきらきらしたきみのそばにいられる。きみが通り過ぎていくのを、ぼくは心待ちにしている。
整った体つき。ぼくよりも少しだけ背が低くて、華奢で、かわいらしい。
だけど、棘を持っている。まるでばらみたいだ、そういうところがぼくは好き。
ほんとうに、きみはばらのようだ、と思う。ぼくには手の届かない、高嶺の花なのだ。
ぼくの代わりはいくらでもいるので、ぼくときみがすれ違うのはときどきで。逢えたら、しあわせ。そしてそのしあわせに浸っている間に、ぼくはあっという間にクッションに連れていかれる。
また次も、待っている。つぎにきみと逢えるのは、いつになるのかな。
そのときはまた、きみはぼくの方を見て、笑ってくれるかな。
ぼくは、待ち針。
きみの笑顔が見たいから、ぼくは今日も、待っています。
お久しぶりです。ここまで読んでいただけてうれしいです、ありがとうございました!
まち針を「待ち針」と書くことを今日知って、献身的か……! と感動したのでつい書いてしまいました。
待ち針、好きです。これからもよろしくね。