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第8話 ブランシュ編 6


現在リディは昨晩のジルとの話し合いで決めた通りブランシュ領の街に行き、事態を把握し復興の目途を調査するため、門の外に出ていた。初めての外出に興奮気味なリディ。 ちなみに1人だ。


天気は晴天、周りを見渡せば山に囲まれており、一面の草木がカサカサと音をたてている。前に目を向ければうっすらとブランシュの街並みが見えてくる。そちらに向かって草木が刈り取られた一本道を駆けるリディ。

漂ってくるわらの香りの混じるそよ風がリディの銀色に輝く髪と鼻をくすぐる。

余りの気持ちよさにくるっと回りリディが着ている暗い青色のワンピースが翻る。家で見つけてきた比較的地味目な恰好だ。ちなみに1人だ。


仮にも令嬢であるリディ、しかも5歳児が護衛もつけずに外に出ているなど異常な事だ。

それにジルはどうした? 昨晩あれだけ協力的だったのに……。

しかしこれにはちゃんとした訳があった。



朝になり、宣言通りブランシュ領の街を見たいと父であるユーリに懇願しに行くリディとジル。

しかし結果は『ダメだ』の一点張り。じゃあ作戦2だと母であるアリアンヌに頼み込みにいく2人。


『おかあさま、頼みがあります』

『なあにリディちゃん? それにジルも』

『『ブランシュの街を見てみたいのです』』

言葉を重ねて言うリディとジル。アリアンヌの反応は……上を見ていた。


『……ズエェ~』

意味不明な鳴き声を言いながら、全然2人と目を合わせようとしないアリアンヌ。そしてそのままフラフラと去ってしまった。


『あの、おかあさま!? それはどんな表情なのですか!?』

『ズエェ~』


作戦2も失敗に終わった。しかしリディには作戦3があったのだ。




*****




リディの自室にてメイドであるアニエスがノックの後、扉を開ける。


「お嬢様、昼食が出来ましたので……って、ジル様もいたのですね」

「や、やあ」

ベッドに腰掛けアニエスに笑顔で返事をするジル。しかし内心は表情とは逆だろう。

部屋を見渡すアニエス。部屋の主であるリディを探しているのだろう。


「リ、リディならここだよ! ほら」

そう言ってジルは自分の後ろにあるコンモリとしている毛布をポンポンと叩く。

そう、これがリディの考えた作戦3。あたかも屋敷にリディがいると見せかけて、本物は外に出る。名付けてシュレディンガーのリディ作戦である。

そしてジルはリディが戻る間、その事に気づかせないためのカモフラージュ要員。

リディ曰く、兄さんがここにリディがいると言えばいる事になるのです。と言う事らしい。


(上手くいくのか? 大丈夫なのか?)

内心動揺しまくりのジルに追い打ちをかけるアニエス。


「あの、なぜそんな所に?」

「あ、あれだよ、芋虫ごっこしているんだ! リディは今サナギの状態だから!」

「面白いんですか? それ」

「すごく面白い!! だから昼食は後で食べるよ!」


もうとにかく必死なジルの言葉に苦笑いをして退出しようとするアニエス。

「で、では後で……あのジル様?」

しかし、再び向き直るアニエスにギクッとするジル。


(まずい! 流石にばれたか!?)

緊張が汗となってジルの頬を伝う。そんなジルとは逆にアニエスは柔らかい笑みを浮かべていた。

「お嬢様に付き合うのはいいですけど、そのうち昼食は葉っぱにしてくれとかいいだしますよ。適当が一番です」


ふふふっと笑うアニエスにばれてないと胸を撫で下ろすジル。しかしどれだけメイドに敬われていないんだリディは。


「それじゃあ、お腹が空いたら呼んでください」

今度こそ退出したアニエス……と思っていたジルだが再び扉が開かれる。


「あの、気になったのですが」

「な、なに!?」

今度こそばれたのかと、笑顔が引きつるジル。


「……芋虫ごっこ? でジル様は何の役なのですか?」


アニエスも少し気になった程度なのだろうが、この疑問に一番答えて欲しいのは他でもないジル自身なのだ。 それは僕が聞きたいよ……と思いつつそれを口に出してしまう程、ジルは馬鹿ではない。今の自分を客観的に見て一番しっくりくる答えを導き出す。


「サナギが羽化するのを……見てる人の役」

「……ほんとに面白いんですか?」


何かどんどん自分のイメージが壊れていく気がする。と感じるジル。


(早くしてくれリディ! 長くはもたないぞ!)


そして件のリディはというと……



「私はおとうさまの人形じゃない! もうあんな家耐えられない! でもこれで自由よ!」

兄のそんな気持ちも知らずには悲劇のヒロインごっこを楽しんでいた。




*****




「……ズエェ~」


街に到着したリディは開口一番そんな事を口にした。なぜなら自分の想像より遥かにブランシュ領の街が廃れていたからである。

ボロボロの木の色丸出しの家の数々。生気のない領民。気持ち程度に置かれている中央広場の噴水は壊れており、ただの瓦礫と化している。そして何よりリディに応えたのが……。


(うっ! くせぇ~!)


そこかしこに散らばっているゴミの数々に鼻を押える。生前綺麗好きだったリディからしたらまさに悪夢である。


(お父様。仕方ないとはいえ、これは流石に……)

早くも心を折られかけるリディ。しかし首を振り気合いを入れ直す。


(いけないいけない! しっかりしろ俺! お父様とお母様を仲直りさせたいんだろ!)

顔を叩き、一歩踏み出す。

グチョォ

何かを踏みつける。


恐る恐る足を上げると、腐ったトマトの様な物が……。

「あ“ぁぁぁぁ~」

白目を向き、ブルブルと震える。リディは心から叫ぶ。


(おとうさまぁぁぁ!!)



足の物体Xを地面に擦りつける事で何とか取り除きフゥ―と息を吐くリディ。そして再び街を観察するために歩こうとする。 しかし一難去ってまた一難……。


「「「ジィ~~~~」」」

リディの真横でリディを凝視する少年がいた。しかも3人。

まるで物珍しい珍獣でも見るかのような少年、恐らくいや確実にこの街に住む子供だろう。それは来ている服がボロボロな事でわかる。


何見てんだこのガキ! と言ってやりたかったリディだが、優先順位を間違えてはいけない。関わったら恐らく某何モンのゲームの様に即バトル開始なんて事になるかもと感じ無視を決め込む事に。

そんな熱い視線に目を合わせない、自分は気づいてませんよ~ と言う風に歩き出すリディ。しかし、リディが歩くたびに、カニの様に横歩きしついてくる少年たち。


(気にしない気にしな……てか近いな!!)

もはや鼻息がかかる程である。

穴が空きそうなほどの視線、それも3倍にリディの顔はどんどん引きつって行く。


(何? 話しかけるの? 話しかければいいのか? ああわかったよ!!)

いい加減その視線に耐えきれず立ち止まり、ため息を吐くリディ。


「あ、あの? 何か御用ですか?」

比較的温厚に済ませるため、自分の出来る最上級の営業スマイルで対応しようとするリディ。


「お前、見かけない顔だな。どこのもんだ?」

坊主頭の少年Aが偉そうに腕を組み言う。後ろにいる少年B、Cも同じく腕を組む。

何だこいつら、偉そうに。と思うが我慢。 営業スマイルを崩さないリディ。

「あはは、ちゃんとこのブランシュ領に住んでいる者ですよ」


間違った事は言っていない。だってここの領公の娘なのだから。しかし少年3人は信じていないのだろう。疑いの目を向けてくる。


「嘘つくな! そんな綺麗な恰好した奴なんか、見た事ないぞ!」

「「そうだそうだ!」」


(信じてくれないよ~次からは服を汚してこようかな~)

そんな事を考えていると少年Aがリディに指を指す。


「それに、そんな綺麗な顔してる奴も見た事ないぞ!」

「「そうだそうだ!!」」

「それに、何かいい匂いだったぞ!」

「「そうだそうだ!!」」


何だか雲行きが変な方向に行き始める。


「……惚れたぜ!」

「「……え?」」


「ズエェ~」

母を除けば本日2度目のズエェ~。人生初の告白がまさか鼻水を垂らした少年からとは。これが鼻水を垂らした少女だったらまだいいのにとショックを受けるリディ。

まぁ性格を除けば、リディはかなりの美少女と言えるからそれも仕方のない事だとは思うが。


「俺と結婚してくれ!」

鼻水を垂らしているが男らしく言う少年Aに白目のリディは今度からは顔も隠していこうと決意しながら、何とかこの場を治めようとする。


「あの、すみません、それは無理です。私用事があるのでこれで」

「名前はなんていうんだ?」

「えっ? リディ、ですけど」

「そうかリディか、じゃあ結婚してくれ!

(学習能力ないのか!?)


内心でツッコミを入れながら、ここはビシッと言ってやろうと思い、少年Aを嫌そうな顔で見るリディ。


「その鼻水を拭いてから、出直して来い!」

内心ですまん少年よと思いながら言うリディ。


(ショックを受けるだろうけどこれで諦めるだろ)


しかし、少年Aは自身の鼻水を手で取り、それを着ている服で拭った。


「さあ、これでいいだろ? 結婚だ!」

「汚ねぇ!!」


少年Aの行動に思わず叫んでしまうリディ。しかしその言葉は少年Aを怒らせてしまったようだ。


「な! 汚いだと! ちゃんと拭いただろ!」

「「そうだそうだ!」」

「いや、手はダメだろ!」

「服で拭いただろ!」

「「そうだそうだ!」」

「それもダメだろ! 体から出た汚いものをまた体に移しただけだからね、それ!」

「「そうだそうだ!」」

「お前らはそれしか言えないのか!!」


鼻水についてのそんな水掛け論をしていたら、少年Aがいきなりリディに両手を向け走り始めた。


「じゃあ、お前も汚くしてやるよぉぉぉ!」

「いや~! 子供って嫌いだぁぁ!」


好きな女の子に嫌がらせをしたい小学生男子の心理だろうか。リディからしたらたまった物じゃない。

逃げ惑うリディを追いかける少年ABC。しかしリディの身体能力は神様のお墨付き。

その差をどんどん引き離していく。


(ははは、加護付きの脚力なめんじゃねぇ!)


少年たちを見ながらさらにスピードを上げるリディ。しかしそれに焦ったのか少年Aが足を縺れさせて転んでしまう。

「いてっ!!」


膝を擦りむいてしまったのだろう、泣き叫ぶ少年A。そんな少年に流石のリディも、えっ? 俺が悪いの!? と若干悪い気持ちになり思わず引き返す。


「だ、大丈夫?」

「うわああああああ!!」


泣きじゃくる子供の対応など心得ていないリディは必死に考える。とりあえず自分が言われたら即泣き止む言葉を言う事に。


(よし、声を低く濁音を混ぜて……)

「泣くな、殺すぞ!」

「ぶえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


いつどんな時にそれをリディは言われたのかはあえて聞かないが、子供にそれが通用するわけもない。それでは痛みを恐怖で上塗りするだけだ。

ただ一つの方法が失敗したリディはもはや焦る以外にやれることはない。


「えええ! 大丈夫大丈夫! ちょっと擦りむいただけだからね~痛くないよ。痛いの痛いのブーメランの様に飛んでけ~。あっ! それじゃ戻ってきちゃうね?」


大声で泣き叫ぶ少年A。周りの大人たちも「どうした?」とワラワラと群がってくる。

まるで大の大人が子供を泣かせてしまったような気持ちになり、もう俺も泣いてやろうかな? なんて考えるリディ。


そんな時、少年Aの母親らしき女性が泣き声を聞きつけて駆けてくる。

「やっぱり! もう、男の子でしょ! 転んだくらいで泣かないの!」

どうやら母親だったようだ。流石は母親、頭を何度か撫でただけで徐々に泣き止んでいく少年A。

周りが笑う中、何とか収まった場にホッとするリディ。


「ごめんなさいね、家の子が迷惑かけたみたいで」


母親の言葉に手を振り笑みを浮かべるリディ。

「全然大丈夫ですよ。気になさらないで下さい」

「あら随分出来た子ね。それにとっても綺麗な服、ひょっとして他の街から来たの?」


親切そうな母親の笑顔にほっこりするリディはブランシュの屋敷を指さす。

「ああ、いえ。あの屋敷から来ました」


その瞬間、空気が凍った。


「え? え?」

その変化に何かいけなかった? と動揺するリディ。この時のリディは知らないのだ。

ブランシュ家の人間が領民に嫌われている事を……。

周りの笑ってた人たちや親切そうにしていた母親からは笑顔が消え、皆リディを睨んでいる。

あの求婚を迫っていた少年Aも「汚ねぇな!」と言いながらリディから離れる。

「それはテメーだよ!」と全力で叫びたかったが、それを言ったらいけない気がリディはして、口をつぐむしかなかった。


「ほう? ブランシュの娘か? ノコノコここにくるたぁいい度胸だな」

拳を鳴らし近づいてくる男の言葉が合図の様に詰め寄り始める領民たち。


「何だ? そんな服着て、俺達を馬鹿にでもしに来たのか?」

「いいわね~領家様は暇なようで、私達なんて寝る間も惜しんで働いているっていうのに」

「一度、痛い目を見るのもいい社会勉強じゃないか?」

「おい、領家様のご息女に手を上げたら殺されちまうぞ。そういう奴らだもんなお前らは!」


そんな領民の怒りを一身に受け、リディはやっと気が付く。

(ああ、おとうさま、おかあさま。屋敷を出してくれない理由が分かりましたよ。しかしいくら何でも嫌われ過ぎでしょ!)


さらなる現実がリディに大きく突き刺さる。

領民から目の敵にされている領公の娘が、同じく目の敵にされない保証なんてない。

ブランシュ家の人間が頑なにリディを屋敷の外に出したくなかったのはそれが理由なのだ。


尚も詰め寄ってくる領民に恐怖を感じるリディ。中には完全に目がいっちゃってる奴もいる。

(いくらブランシュ家だって、流石にこんなかわゆい5歳児にひどい事しないよね? あっ! そうだ俺子供じゃん)

なればと、子供ならではの技をするリディ。

頭を押え小鹿の様にフルフルと震える、涙目も忘れずに。リディ必殺、何とか怒りを治めてのポーズだ。

それには領民もくる所があったのか、子供相手に何やってんだと若干後ずさる。

しかし、現実は厳しかった。


「俺は殴るぜ、ガキだからって容赦しねえ! 俺たちの恨みを少しは思い知らせてやらねぇと気が済まねぇんだ!」

一人の男が前に出て拳を握る。周りの領民たちも止めようとしていたが、男の言葉にサッと身を引く。


身長110㎝のリディと恐らく180㎝はあるその男。その身長差70㎝のその男は今からリディを殴ると言うのだ。生前だったら上等だ! となったリディだが今はか弱い少女。

流石に恐怖がこみ上げてくる。


(え? マジで皆止めないの? 嘘!! ドッキリだよね? はい、大成功てプラバンを持ったカメラマンがいるんだよね? そうだよね!?)


現実逃避に走るリディ。しかし

「悪いな……でも、でもな! 俺はお前が泣いても殴るのをやめない!!」


一気に現実に引き戻され自身の起こりうる事を想像するリディ。

袋叩きにあって、→ あれ? 動かないぞ? → こいつ息してねぇ! どうすんだおい!? → 仕方ねぇ埋めるか。→ ここにこいつは来なかったいいな! → バッドエンド → ご愛読ありがとうございました。→ 「何だこのクソ展開! 読者をなめんな!」カタカタッ、ツッターン!! → ネットが大爆発……。


サーッと血の気が引くリディ。

何とか逃げ道を探そうと辺りを見渡すが、領民たちが密集しすぎていて隙間がない。目の前の男とリディを囲む人だかりのリング。


(ヤバいって! 僕美少女! ぼくびしょうじょぉぉぉ!!)


ジリジリと迫ってくる男に内心テンパりまくりのリディ。気分は強盗に入られたアルバイト店員の様だ。そして等々追い込まれる。

もう駄目だ、大人しく殴られよう。覚悟を決め目をきゅっとつむるリディ。

今度は演技ではなく純粋な恐怖心から体が震える。

そして男が拳を振り上げ叫ぶ。

「おら行くぜ!!」


(ごめんなさい、おとうさま、おかあさま、兄さん、皆!!)

来るべく痛みを受け入れようと、歯を食いしばるリディ。


……のはずだったが、男の次の言葉がいけなかった。


「恨むんなら、お前を一人で外に出した、無能なクソ親父を恨むんだな!!」

「誰の親父が無能なクソ親父だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


男の拳より先に、リディのジャンプキックが男の顎に炸裂する。

その衝撃で後方に吹っ飛び、数人を巻き込みながら数十メートル先の民家に突っ込む男。

幼い少女が大の大人をフッ飛ばしたその事実に一同はポカンとするしかなかった。

領民は知るはずもない、リディは身内に害する者がいたのなら、ガスバーナーの様に燃え盛る人間だと言う事を。


リディは纏う怒気を強めて宣言する。

「言っておく。私の家族を馬鹿にする奴は許さない。思う事も許さない。もしその雰囲気を少しでも感じ取ったものなら、俺は全力でそいつをぶっ飛ばーす!」


その少女らしからぬ圧に、領民は目を見開き冷や汗を流す。しかしそれでもリディに反発するものは必ずいる。なにせ相手は見た目か弱い少女なのだから。


「このガキ! 調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

数人の男達がリディを囲む。しかし怒りからリディは怯まない。その拳を構え迎撃の体制をとる。

少女を大の男が囲む異様な光景。一発触発の雰囲気。止める者はいないと思われたその時。


「やめねえか!! みっともねぇ!!」

しゃがれた男の声が響き渡る。そちらに向く一同。

そこには歴戦の戦士の様な大きな体に髭を生やした一人の男が立っていた。 誰だ? とリディはその男を警戒し眉を顰める。

その答えは、囲んでた男の一人が答えてくれた。

「でもよガイルさん! こいつはあのブランシュの娘なんだぜ!」


なるほどガイルか。それにこの男の焦った対応を見てわかるように、この街では相当な有権者なのだろうとリディは推測する。


「だからってガキ相手に多勢に無勢ってのはどうなんだよ? そういうのはクズのやる事だ! テメーらはクズなのか?」

ガイルが貫禄のある声で周りを睨みつけると、まるでクモの子を散らしたように逃げていく領民たち。

どうやら危険は去ったようだが、リディはまだ構えを解かない。目の前の男ガイルを見極めるために。


大股で近づいてくるガイルに身構えるリディ。

「フンッ! 何もしねぇからその闘気をしまいやがれ、ガキ!」

ガイルの言葉に嘘は見て取れない。


「……フー」

ガイルの言葉を信じ、息を吐き落ち着きを取り戻すリディ。それを確認したのかフンッと鼻を鳴らし「もう帰んな」と言い背を向けるガイル。


(ひょっとしなくても、助けてくれたんだよな)

ならばお礼をしなければ、とその背を追いかけるリディ。

「待ってくださっ――痛っ!」

突然の痛みに自身の足を押えて蹲るリディ。どうやら先ほど男を蹴り飛ばした時に痛めたのだろう。


そんなリディを見て舌打ちをすると、右肩にひょいっとリディを担ぎ上げるガイル。

もう完全にいつもの調子に戻ったリディは呑気にも人生初の体験に若干テンションが上がっていた。


「わー、おじさん力持ちだね! 腕とか丸太みたいだよ~」

「……」

無言で歩くガイル。


「どこ行くの? おじさん、おじさん? 何で何も言わないの? 呼び方が気に食わないの?」

「……」


「シャチョサン、ワタシ、キイテルヨ! コタエル、ヨロシ!」

「黙ってろ!!」

「……そんなに怒らなくてもいいじゃん。ブーブー!」


ガイルの怒鳴りにブーイングをするリディ。これでも置いて帰らないと言う事は、ガイルは見た目よりいい人なのかもしれない。




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